数値化できないノイズ
白鳳学園との練習試合は、私たちが第2セットを奪取したことで、完全に空気が変わった。
相手チームのベンチは沈黙し、彼女たちのセッターが鋭い視線をコートに投げている。彼女は、私の動きをタブレット端末と照らし合わせながら、何やらブツブツと呟いていた。
「……計算通りにいかない。清水の動きの『揺らぎ』が、統計データと一致しない」
彼女の声が、ネット越しに聞こえた。
データバレー。私のバレーを、「天才の気まぐれ」や「誤差」として数値化しようとする冷徹な視線。彼女たちにとって、私たちの「連携と衝撃」は、制御不能なノイズに過ぎないのだろう。
試合再開の笛が鳴る。
第3セット、白鳳の守備は露骨なまでに変わった。彼女たちは私の「衝撃」を捨てた。私がどれだけ速く、あるいは変則的な動きをしても、私以外のメンバーがトスを上げる可能性を極限まで計算し、常に最短距離で動きを封じてくる。
「……ッ、読み切られてる?」
美咲のトスが、相手のブロックに阻まれる。
さっきまで私たちが支配していたはずのコートが、まるで精密な回路のように組み替えられていく。
「宗子! 無理に打たないで!」
結衣の声が飛ぶが、私の体はすでに、空中でボールを叩きつける態勢に入っていた。
私は空中でバランスを崩し、無理やりコースを変える。しかし、ボールは相手のレシーバーの手の中に吸い込まれるように収まった。
無駄な動き。
今の私のプレーは、彼女たちのデータの中では「非効率的なノイズ」として処理されたのだ。
「いい? 清水さん。バレーは音楽じゃないわ。勝つための最短ルートを導き出す、ただの数式よ」
相手セッターが、冷ややかな瞳で私を見た。
その言葉が、私の心臓を冷たい刃で刺すように感じた。
彼女が否定したのは、私のスタイルだけじゃない。私が苦悩の末に手に入れた、仲間と共に奏でる「旋律」そのものだった。
ベンチに戻ると、チームの空気もどこか重苦しかった。
いつもなら声を掛け合う美咲や結衣も、相手の徹底したデータ対策に、自分たちの音が奪われたような顔をしている。
「……次で、何とかしないと」
私は自分の指先を見つめた。ピアノの鍵盤を叩く指に、力が入らない。
データという名の冷徹な壁。
この「数式」を崩すには、今の「即興演奏」だけでは足りないのかもしれない。
コートの外で、監督が腕を組んだまま、私を見つめている。
彼もまた、この「数式」の壁をどう攻略すべきか、思案しているはずだ。
データにはない「不確定要素」。
今の私たちに足りないのは、相手の計算を根底からひっくり返すような、もっと過激な「狂気」なのだろうか。
私はベンチの給水ボトルを握りしめた。
……音楽は、数式だけじゃ語れない。
誰よりもそれを知っているはずの私が、今、その数式に飲み込まれようとしている。




