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不協和音の食卓

古書店から帰宅すると、家の中は奇妙なほど静まり返っていた。

鳳凰学院のバレー部キャプテンとしての私、そしてかつて「天才」と呼ばれたピアニストの私。その両方を求めていた姉が留学してから、この家はただの「箱」になってしまった。


私はキッチンに立ち、冷蔵庫にあったもので簡単な夕食を作り始めた。

包丁で野菜を刻むリズムが、今日の試合のテンポと重なる。トントントン、という音が、少しだけ物足りなく響く。


「……一人で食べるの、久しぶりだな」


ダイニングテーブルで向かい合わせの席に座り、私は箸をつけた。

試合の余韻で頭の中はまだバレーのことでいっぱいなのに、この静寂がそれを現実のものに戻そうとする。


不意に、ピアノ部屋のドアを開けた。

埃がうっすらと積もった蓋を開け、鍵盤に指を置く。

強豪・白鳳学園の攻撃のような、激しいコードを奏でてみた。


——ガシャーン。


耳障りな不協和音が部屋に響いた。

それは、今の私たちが目指している「調和の中の破壊」とは違う、ただの騒音だった。

私の心はまだ、コートの上の「みんなの呼吸」を求めて彷徨っている。


「……あ」


スマホが鳴った。結衣からのメッセージだ。


『ねえ、明日って練習前に、少し早めに行って自主練しない? あそこ、もっとこう……もっと激しくいける気がして!』


画面越しに、彼女のワクワクした表情が浮かぶ。

私はメッセージを打ち込みながら、ふと笑みがこぼれた。


『いいよ。明日は、もっと嵐を起こそう』


私の「日常」は、もう孤独なピアノ部屋にはなかった。

たとえ家に帰っても、私の心はコートの上で繋がっている。仲間という名の旋律が、私の日常を埋め尽くしている。


私はピアノの蓋を閉め、食器を片付けた。

かつては、このピアノを弾くことが私の存在証明だった。でも今は、バレーボールのボールを追いかけることの方が、ずっと私らしい。


夜風が窓から入り込み、カーテンを揺らした。

私は寝室に向かいながら、ふと自分の右手を見た。

白鳳学園の強打を拾った時の、あの痺れるような感覚が、まだ残っている。


明日になれば、また仲間たちの声が聞ける。

この日常が、私のバレーを、私の人生を、もっと美しく奏でてくれるはずだ。


眠りにつく直前、私は夢の中で、みんなと一緒にボールを追いかけている姿を想像した。

それは、どんな傑作よりも心地よい、私だけの旋律だった。

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