衝撃のアンサンブル
翌日の練習、体育館は異様な熱気に包まれていた。
私は、昨日の御子柴さんの言葉を反芻しながらボールを見つめていた。調和という名の安全圏に甘んじていた自分を、一度壊す。
「美咲、ちょっといい?」
私は美咲に、いつものトスではなく、あえて少しネット寄りで、軌道の読みにくいトスを上げてほしいと頼んだ。
「え、そんな位置だと、宗子さんが打つにはかなり無理が……」
「いいから、やってみて。……私、昨日気づいたの。私たちが奏でているのは優雅なワルツじゃなくて、もっと荒々しいジャズなんだって」
美咲がトスを上げる。
ボールの軌道は、確かに私のいつもの打点から外れていた。普通なら、ここで体勢を立て直して慎重にコースを狙うところだ。
しかし、私は跳んだ。
空中で自分の体幹をねじり、ピアノの鍵盤を叩きつけるような感覚で、ボールの芯を力任せに打ち抜いた。
ドォン!
ボールは鋭い音を立てて、コートの角に突き刺さった。
体育館が静まり返る。結衣が目を丸くして、私の着地点を見つめている。
「今の……、今までの宗子さんのスパイクと全然違う。なんていうか、音が違った」
「破壊よ。旋律を奏でながら、その場所を一度壊すの」
私は着地し、自分の右手をまじまじと見つめた。痺れるような感覚がある。だが、それは怪我の痛みではなく、私の心の中にあった「天才という鎧」が砕け、その中から泥臭い熱量が溢れ出したような感覚だった。
「みんな、聞いて。私たちの連携は、相手を安心させるためのものじゃない。私を、もっとも凶暴に、もっとも自由に暴れさせるための『足場』になってもらう」
結衣がニヤリと笑った。
「ようやくエースの顔に戻ったね。それなら、鳳凰学院のバレーとして成立する」
私たちは練習を再開した。
今度は、ただの連携ではない。結衣が相手のブロックを引きつけ、美咲が私にとって最高のタイミングを作る。そして私は、その整えられた舞台の上で、あえて不協和音をぶちまけるような強打を叩き込む。
バラバラだった連携が、一つの「激しい嵐のような旋律」に変わっていく。
それは、昨日まで私たちが目指していた穏やかな調和よりも、はるかに攻撃的で、それでいて強固なアンサンブルだった。
監督が、ベンチで静かにノートを閉じているのが見えた。
その表情は、もう「冷ややかな警告」ではない。次にくる嵐を予感したかのような、かすかな期待が混ざっている。
私たちは、鳳凰学院の新しいバレーを定義し直したのだ。
どんな強豪だろうと関係ない。旋律と衝撃の合わせ技。
今の私たちなら、どんな荒波も音楽に変えられる――そう確信できた。




