静寂と打楽器
県大会予選を勝ち抜き、私たちは次なるステージ、全国強豪校との練習試合へ向かっていた。相手は、「圧倒的な個」を武器にする、私とは対極のチームだ。
練習試合の日。彼女たちのプレーは、まさに打楽器を叩きつけるような激しさだった。私の指先が、彼女たちのスパイクの風圧で痺れる。
「……ッ、速い」
どんなに私たちが連携を深めても、彼女たちの「個」の破壊力は、私たちの調和を力ずくで引き裂いていく。第1セットは、私たちの連携が一度も機能しないまま、惨敗した。
休憩時間。私は更衣室で、自分の肩をさすった。
「あんなの、どうやって止めればいいの……」と、美咲が消え入りそうな声で呟く。
翌日。部活を休み、私は御子柴さんの古書店へ向かった。
今の私には、バレーの練習よりも「別の視点」が必要だと分かっていたからだ。
「今日は、ずいぶんと沈んだ顔をしているね」
御子柴さんは、古びたレコードプレーヤーに針を落とした。流れてきたのは、重厚なオーケストラ曲ではなく、荒々しいジャズドラムのソロだった。
「……今の私たち、みんなで綺麗な旋律を鳴らそうとしすぎてたんです。でも、相手は容赦なく打楽器を叩きつけてくる。その音に、かき消されてしまうんです」
私は、昨日の試合の悔しさを吐き出した。
御子柴さんは、ドラムの激しい連打に耳を澄ませながら、静かに言った。
「清水さん。音楽において、静寂は打楽器を際立たせるためにある。そして、打楽器は旋律を踊らせるためにある。調和と破壊、どちらが欠けても音楽ではないよ」
「……破壊?」
「そう。旋律を奏でる者が、時には自らドラムの役割を演じてみるのはどうだい? 完璧な調和を保ちながら、君が一人でその調和を破壊するような『衝撃』を生み出すんだ」
彼の言葉に、私はハッとした。
今の私は、仲間と調和することに「安全な場所」を求めていたのかもしれない。
エースとしての破壊力を封じ込めるのではなく、その破壊力さえも、新しい調和の一部として組み込む。
店を出る頃には、雨が上がっていた。
私は空を見上げた。今、バレーのコートが、ピアノの鍵盤に見える。
仲間との連携という「旋律」の上に、私がエースとして叩き込む「衝撃」を重ねる。
……できるかもしれない。
私の足取りが、自然と軽くなった。




