旋律の重なり
第2セット中盤、私たちの新しいリズムに慣れ始めた相手校が、激しい攻撃を仕掛けてきた。
強烈なサーブが結衣の腕を弾き、ボールがコート外へと高く舞い上がる。絶体絶命のピンチだ。
「……ッ!」
反射的に私は動いた。誰よりも早く落下地点へと走る。
私の脳裏に、かつてピアノのコンクールで聴いた、繊細で力強い重奏のイメージが閃く。一人で音を出すのではない。響き合う音の重なりが、曲の深みを作るのだ。
私は滑り込みながら、限界まで指先を伸ばした。
ボールは私の手の甲をかすめ、完璧なアーチを描いて美咲の元へ。
「宗子さん、ナイスレシーブ!」
美咲の声が耳に届く。彼女は迷わず、私に向かってトスを上げた。
相手のブロックが三枚、私を潰そうと壁を作る。普通なら、ここで強引に叩きつけるのがエースの役割だ。だが、私の視界には、その壁の隙間を抜ける「音の通り道」が見えていた。
私はあえて、スパイクではなくフェイントを選択した。
ブロックの指先をかすめるように、ボールをふわりとコートの最奥へ落とす。
「そこは……!」
相手のレシーバーが飛び込むが、一歩届かない。
コートにボールが吸い込まれる。
「よっしゃあああ!」
体育館が震えるような歓声に包まれた。
結衣が駆け寄り、私の肩を力強く叩く。
「すごい……今の、計算したの?」
「ううん。ただ、みんなが繋いでくれた音を、一番綺麗な形にしただけ」
私は息を切らしながら笑った。
かつては「自分が決める」ことが全てだった。しかし今、私はコートの真ん中で、チーム全員が奏でる呼吸の重なりを聞いている。
それは、どれほど複雑なピアノの協奏曲よりも、ずっと心躍る旋律だった。
ベンチを振り返ると、監督が少しだけ口角を上げているのが見えた。
彼もまた、私たちが紡ぐこの新しい音楽に、何らかの可能性を感じてくれたのかもしれない。
試合は、私たちのペースで進み始めた。
相手校は、強引に戦おうとするほどリズムを崩し、私たちは力を抜くほどに調和を深めていく。
「宗子、次はどうする?」
結衣の問いに、私はコート全体を見渡して答えた。
「あと一音。……全員で、一番高い音を鳴らそう」
鳳凰学院の変革は、まだ始まったばかりだ。
この勝利の先に、どんな景色が待っているのか。私は、次にくるボールを待ちわびながら、ワクワクと心臓を鳴らしていた。




