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予兆の旋律

県大会予選初日。会場の体育館は、夏の湿り気と、各校の選手たちが放つ殺気でむせ返るようだった。

私たち鳳凰学院の控え席には、冷ややかな空気が漂っていた。昨年の優勝校という肩書きは、今や「落ち目の王者」という格好の標的になっている。


「清水、緊張してる?」


アップを終えた美咲が、私の顔を覗き込んできた。彼女の額には汗が滲んでいる。

私は首を横に振った。緊張というよりは、これから奏でる曲の「第一音目」をどこに置くか、そのことばかりを考えていた。


「大丈夫。私たちは、勝つためにここに来たんじゃない。自分たちの音を鳴らすために来たの」


私の言葉に、美咲はふっと表情を和らげた。以前の彼女なら、その言葉に戸惑っていただろう。でも、今は違う。彼女の瞳には、私と同じ「これから何が起きるのか」という静かな興奮が宿っている。


試合開始のホイッスルが鳴る。

対戦相手は、気合十分の地元校。彼女たちは、最初から私を潰しにくるだろう。私が天才だからではない。今の鳳凰学院の脆さを、彼女たちは嗅ぎつけているのだ。


第1セット。

案の定、相手は私に集中マークを敷いてきた。以前の私なら、強引にその網を破り、エースとしての力を誇示していただろう。

しかし、私はトスが上がった瞬間、あえてスパイクを打つ姿勢を見せ、直前で美咲へとボールを流した。


「え……っ!」


意表を突かれた相手のブロックが空を切る。

美咲は迷わずボールを叩きつけた。ボールは相手コートの空いたスペースに、吸い込まれるように決まった。


会場が、一瞬だけ静まり返った。

「天才」のスパイクを期待していた観客たちは、その意表を突く連携に戸惑っている。


私は美咲とハイタッチを交わした。彼女の手のひらは、熱く、そして硬かった。

「決めたね、美咲」

「はい……! でも、今の、宗子さんが私を信じてくれたからです!」


私はふと、ベンチに目をやった。

監督が腕を組み、眉間に深い皺を刻んでいる。彼にとって、このプレーは「計算外」なのだろう。しかし、私の指先には、今までにない確かな手応えが残っていた。


これは、私一人で奏でる独奏曲じゃない。

全員で繋ぐ、重層的なアンサンブル。


相手チームが、苛立ちを隠せない様子で私を睨みつけている。

私は静かに、次のサーブ位置へと歩き出した。

コートの空気は、まだ「不協和音」に近い。でも、その音は確実に、私たちの求める「調和」へと近づこうとしている。


「次は、もっと速いテンポでいくよ」


私は誰にでもなく呟き、ボールを高く放り上げた。

鳳凰学院の「新しい季節」の幕開けだ。

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