合わないリズム
新体制が始まって一週間。体育館の空気は、以前よりもどこか鋭利で、落ち着かないものになっていた。
「そこ、動きが遅い! もっとレシーブの予測を早くして!」
私が声を荒らげると、練習がピタリと止まった。
コートの中には、加藤先輩たちがいた頃の「なんとなく繋がってしまう」という信頼の空気はない。誰もが自分の役割を完璧にこなそうとするあまり、周囲との連携が機械的になり、結果としてボールが落ちる回数が増えていた。
私の視線の先で、後輩の美咲が肩で息をしている。彼女は私の指示通りに動こうとして、逆にタイミングを逃している。
「……宗子、ちょっといい?」
練習の合間、副キャプテンの結衣が私のところへやってきた。彼女は、私のピアノの腕前を昔から知っている、数少ない友人だ。
「さっきから、指示が『命令』になってるよ。宗子は『天才』としてプレーする時、自分の音を奏でることに集中するでしょう? でも、キャプテンっていうのは、自分の音を消してでも、全員の音を聞かなきゃいけない立場なんだよ」
結衣の言葉は、私の胸を突いた。
私は自分の頭の中で理想のプレーを描き、それをチームに押し付けていたのだ。私が理想とする「鳳凰学院のバレー」は、昨年の優勝メンバーだからこそ成立していたものであり、今のメンバーには今のリズムがある。
「……私、みんなを動かそうとしすぎてたのかも」
「そうだよ。みんな、宗子に追いつこうとして必死なんだから。まずは、宗子がみんなの音を聞いて、それに合わせてあげることじゃない?」
私はコートに視線を戻した。
メンバーたちの顔を見る。それぞれが必死に、自分なりの旋律を奏でようとしている。それを「遅い」「下手だ」と切り捨てるのは、リーダーの仕事ではない。
私は美咲に歩み寄り、彼女の肩に置かれた重たい緊張を解くように言った。
「美咲、さっきのレシーブ。私の出すリズムじゃなくて、美咲が一番ボールを見やすいリズムで動いてみて。私はそれに合わせるから」
「……え、でも、宗子さんに合わせるのが……」
「いいの。今日は、私のバレーじゃなくて、鳳凰学院のバレーを探したいから」
美咲は少しだけ戸惑った表情を見せたが、やがて小さく頷いた。
練習が再開される。
私はあえて自分の動きを殺し、周囲の音を聞くことに集中した。コートには、バラバラな呼吸の音が響いている。
それを一つにまとめるのではなく、今はまだ、そのバラバラな音色をそのまま受け入れる。
それが、新しい鳳凰学院の第一歩だと信じて。




