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引き継がれる熱度

三年生たちが引退の日を迎えた。

体育館には、使い古されたボールの匂いと、春の陽気が混ざり合っていた。全国優勝という大きな花火を打ち上げた彼女たちは、今はもう、次の場所へ向かう準備を終えている。


加藤先輩が最後に私のロッカーの前で立ち止まった。彼女の手には、長年使い込まれたキャプテンマークが握られている。


「宗子。優勝して、鳳凰学院の名前は歴史に残った。でもね、歴史ってのは、今の私たちがどれだけ必死にコートを汚すかで、また上書きされていくものなんだよ」


先輩は、私の手の中にそのキャプテンマークをそっと置いた。その布地は少し色褪せていて、彼女の汗と努力が染み付いているような重みがあった。


「私が……、これを?」


「そう。次はあなたが、誰かの背中を見守る番よ。天才のまま終わらないで。一人で勝とうとしないで。みんなの音を拾って、鳳凰学院の新しい『曲』を完成させて」


彼女は背を向け、体育館の扉へと歩き出す。

扉が開くと、外からの眩しい光が体育館に差し込み、先輩のシルエットを白く塗りつぶした。彼女が出ていくと、閉ざされた扉の先には、もう彼女たちの居ない広いコートだけが残った。


その瞬間、胸の奥で何かが張り裂けるような音がした。

「優勝」という頂点から降り、私たちはただの「挑戦者」に戻ったのだ。


「……清水、何してる。次、いくよ」


背後から声をかけたのは、同期のセッターだ。その声に、私は我に返る。

キャプテンマークをポケットにしまい、私は顔を上げた。今の私には、先輩たちの重圧を引き継ぐ義務がある。それと同時に、自分たちのバレーを一から作り直すという、最高にワクワクするような挑戦が待っている。


私はボールを一つ拾い上げ、指先で感触を確かめた。

まだ、指先は震えている。でも、それは怖さからではなく、これから始まる新しい旋律への期待からだ。


「……うん、行こう」


先輩たちが残していった空気は、まだ体育館の中に残っている。

私はコートの中央に立ち、深呼吸をした。

さあ、二年生の鳳凰学院が動き出す。


コートの四隅に目をやる。

そこには、戸惑いながらも立ち上がるチームメイトたちの姿があった。彼女たちの目を見て、私は確信した。私たちなら、きっと先輩たちとは違う、新しい鳳凰学院の風を吹かせられる。


窓の外では、春の風が校庭の桜を散らしていた。

散った花びらはまた土に還り、新しい芽を育てる。

私のバレーも、一度ここで終わり、またここから始まるのだ。

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