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夏空の彼方、全国の幕開け

全国大会の会場は、京都の静かな古都の空気とは対極にある、熱気と騒音に満ちた巨大なアリーナだった。

全国から集まった強豪校のジャージが、まるで虹のようにフロアを埋め尽くしている。


「……これが、全国」


私はアリーナの天井を見上げた。

中学時代、テレビの向こう側で見ていた場所。そこに今、鳳凰学院のユニフォームを着た私が立っている。


「清水、あまりキョロキョロしないの。ここはあなたの舞台よ。床の感触、空気の温度、全部あなたの一部にしなさい♡」


監督の言葉は、いつも通り不思議と背筋を伸ばしてくれる。

チームメイトの美月や花音――バレー部ではない友人たちも、応援のためにわざわざここまで駆けつけてくれた。


「宗子! 頑張ってね!」


観客席から聞こえる花音の明るい声。

私は小さく手を振り返した。


開会式を終え、初戦を控えたウォーミングアップの最中。

コートサイドに、見慣れたシルエットを見つけた。男子バレー部のメンバーたちだ。彼らもまた、同じ会場で戦うためにここにいる。

玲司さんは、隣のコートで柔軟体操をしながら、ふとこちらを向いた。

言葉は交わさない。けれど、彼と目が合った瞬間、背筋がすっと伸びるような心地よい緊張感が走った。


(負けられない)


それは、バレーボールに対してだけではない。

ここへ来るまでの過程で、私が感じてしまったこの「特別な感情」もまた、今の私を支える力の一部なのだと、ようやく認めることができた。


初戦の相手は、九州の強豪校。

背が高い。そして、何より雰囲気が荒い。

ホイッスルが鳴った瞬間、相手のサーブが私の目の前を猛スピードで通り過ぎた。


「レシーブ!」


身体が勝手に動く。

右腕に伝わるボールの重み。それは、練習場で積み重ねてきたどのボールよりも重かった。

けれど、不思議と怖くはない。


(できる。私には、私のピアノがある)


私はセッターに向かって、完璧な軌道でボールを返した。

その姿を見ていた監督が、不敵な笑みを浮かべるのが視界の端で見えた。


「清水、ここからがあなたの音楽よ」


全国という名の、最高に美しく、残酷な舞台。

私の旋律は、この広い会場でどこまで響くのだろう。


初戦の入りは、完璧だった。

私の青春は、今、まさに最高潮のコードを奏でようとしている。

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