表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

動けなくなった島

夜の川のせせらぎを聞きながら、彼と話していた。


「この島、島なのに川がいろいろなところで流れてるね」


川沿いには、丸くてふよふよした提灯のような明かりが、いくつか浮かんでいた。

光が届く手前の水だけが、夜の中で細かくきらめいていた。


「汚れを落とすのにぴったりでしょ?ずいぶん前に、川が流れるように整備されたんだ」


私は、驚いた。

この川は、昔からあったわけじゃないんだ。


彼は川辺にしゃがみ、指先を水に浸した。

その冷たさを確かめるみたいに、しばらく水面をなぞっていた。


「この島は、一回、島としての機能を果たせなくなったんだ。夜と闇の世界が訪れて、みんな、動けなくなっちゃったんだ」


「世間では、きっとそういう状態に、名前をつけるだろうね」


私は、その理由について踏み込んで聞くことができなかった。

この場所は大丈夫なのか。私はここにいて大丈夫なのか。

そんなことばかりが、先に頭に浮かんでしまった。


「ここに住む君に、伝えておきたかった」


彼は、川のほうに体を向けたまま、私を振り返った。

提灯の淡い光では、表情まではよく見えなかった。

それでも、その言葉が私に向けられていることだけは分かった。


「ここの住人は、それでもいいと言ってくれてるんだ」


彼はそう言って、濡れた指先を見た。


「……前に、この島にいた人から連絡が来たんだ」


彼は、指先についた水を払わないまま続けた。


「戻ってくるかもしれないって」


その言葉を聞いて、空いたままの杭のことを思い出した。


「それで、話しておかなきゃって思ったのかも」


私は、何かちゃんとした言葉を返さないといけないと思った。

彼が、言わなくてもいいことを、ちゃんと私に渡してくれたのだと分かったから。


「で、でも」


自分でも驚くくらい、声が揺れていた。


「傷ついたからこそ、分かることもあるよね。だから人に優しくできるというか……」


そこまで言って、言葉がなくなった。


川の音だけが、やけにはっきり聞こえた。


彼は、少しだけ黙っていた。

それから、私の言葉を確かめるように、ゆっくり言った。


「傷を知っているからこそ、他人のことを思いやれることもある、そういうこと?」


「そ、そう!本当に言語化するのがうまいね!」


「ありがとう」


彼はそう言って、もう一度川のほうを見た。

その横顔が、少し遠く感じた。


私は、この島に住む人たちに、このまま平和で、傷つかずにいてほしいと思った。


でも、「動けなくなった」という言葉だけが、私の奥のほうへ、音もなく沈んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ