依存の解き方
その日の夜、山の木々の音を聞きながら、私は彼と話していた。
心の中では、崖の前に立っているような気がしていた。
「なんか、今、依存の入り口に立ってる気がする」
一度口にすると、止まらなかった。
「今まで一人でも平気でいられたことが、ずっと、もっと辛いことのように思えてきてるの」
「土日も楽しくなってきて、自分らしくいられるようになってきたのに」
私は、元彼に何か月も触れたくないと言われていた頃のことを思い出した。
「あの頃に戻ると思うと、怖い」
彼は、膝の上で自分の指先をそっとなぞった。
「それは、依存なのかな?辛いことを共有したいって感じているだけじゃない?」
私は、「うーん」と納得いかない顔をした。
彼は、視線を落として考えていた。
「愛されているかどうかわからないから、依存するのかもよ?」
彼は、私の反応を確かめるように、少しだけこちらをのぞいた。
「その人が自分を、恋愛対象としてだけじゃなくて、人間として愛してくれている。そういう安心があったら、依存するのかな」
私は、彼の言葉を黙って聞いていた。
「たとえ、触れたくないと言われたとしても」
彼は、一つずつ確かめながら、言葉を選んでいた。
「人として尊敬している。大切に思っている。愛している。そう伝えられていたら、どうだったと思う?」
私は、自分の中で、何かが静かに腑に落ちる感覚を覚えた。
依存しないかもしれない。
「人間として尊敬して、好きでいてくれたうえで」
私は、ゆっくりと言った。
「その人のことを恋愛としても好きになれたら、きっと依存しないと思う」
私がそう言って彼のほうを見ると、彼は少しだけほっとしたような顔をしていた。
「時間がかかるかもしれないけど、そういう人と出会えたらいいね!」
私は、このことを彼に教えてもらうために、彼と出会ったのかもしれないと思った。
「夜遅いのに、こんなに話を聞いてくれてありがとう」
そう言うと、彼はぱっと顔を上げた。
「ううん!全然!僕も、こういう時間けっこう好きなんだ」
彼の声だけ、少し弾んでいた。
「前にも、こんなふうに夜遅くまで話したことがあって」
夕方に見た杭のことが、少しだけ頭をよぎった。
でも、私はそれ以上聞かなかった。
「話すことが好きなんだと思う。だから、君が話してくれるのもうれしいよ!」




