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彼の夢と、綺麗になる言葉

島に仮生活を始めて、しばらく経った頃だった。


「島の中心に連れて行ってあげるよ!」


島の中心には、学校があった。


学校は、小さな山の上に建っていた。

ガタガタの細い道を、彼について歩いて登る。


そこは昔、城跡だったらしい。

学校の周りには、古い石垣が、まだ崩れずに残っていた。


山道を上りきると、校舎が見えた。


ぽよよん島の建物は、どれも丸く、屋根も壁も境目が曖昧だった。

でも、その学校だけは違っていた。


白い壁。

同じ大きさの窓。

まっすぐに伸びた廊下。

きちんと並んだ靴箱。


現実世界の学校と同じだった。


彼と校舎の中を歩き、「二年三組」と書かれた教室に入った。


彼は、少しいたずらをするような笑顔でチョークを握った。

そして黒板に、「この島に来てくれてありがとう」と、彼らしい丸い字で書いた。


「中学校の先生になりたいんだ。まぁ、まだ非常勤なんだけどね」


そう話す彼は、あまりにもまっすぐで、うれしそうだった。


両親も同じ仕事をしているらしい。


「島の生活はどう?」


そう彼に聞かれて、私はこの島での生活を思い出していた。


「ここに住み始めてから、ずいぶんと優しい性格になった気がする」


彼は黒板の文字を消していた手を止めた。


「君は、最初からとっても優しい人だったと思うけどなぁ」


優しかったと言われて、私は否定した。


「私は、でも本当は優しい性格じゃないんだ……」


「だって、めっちゃ共感してくれるじゃん!」


「でも、本当は心の底では、他人に興味がないんだよ。適当に共感しているだけ。だから私は、何をされても基本的に怒らないんだと思う」


「うーん。興味がない?」


彼は少しだけ考えるように、目を細めた。


「それってさ、相手を無理に変えようとしてないってことじゃない?その人がその人のまま、幸せならいいって思ってる、みたいな」


たしかに、そう言われれば、あながち間違いでもない気がした。


私が自分を悪く言うために使った言葉が、彼の中を通ると、まるで洗われたみたいに綺麗な意味を持って戻ってきた。


「そうかな……。でも、そう言ってくれてありがとう」


彼が教室を案内し終えて、廊下に出る。

懐かしい蛇口の銀色が光っていた。


彼は、チョークで汚れた手を蛇口で洗った。


もう十分に白さは落ちているように見えたのに、彼は指先だけを何度もこすっていた。

私は、見てはいけないものを見たような気がして、視線をそらした。

代わりに、まっすぐすぎる廊下を見ていた。

島のどこにもなかった直線が、そこにだけあった。


その直線は、誰かが引いた線のように見えた。

そして今も、彼をどこかへ連れていこうとしているように見えた。


その日の夕方、彼は私を小さな花壇に連れていった。


「見て!さっきの言葉、花になってた」


花壇には、見たことのない淡い色の花が咲いていた。

近づくと、ほんの少しだけ、さっき私が口にした言葉の匂いがした。


風が吹くと、花粉がふわりと舞った。


住人の一人がそれを吸い込んで、「他人を縛らないって、素敵だよね」と笑った。


私は、自分の言葉が、自分の知らないところで繰り返されるのを見た。

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