修羅場の予感
この儚い空間を自分のせいで崩壊さしたくなかったが、そういう訳にもいかないので重い足取りで自分の席の元へと寄るが、誰やら座っている人影が見受けられた。
背後からなのでよく分からなかったのだが、金髪の頭髪、胸元を強調した容姿が見られすぐに松井だと気づくがどうも様子がおかしい。
いつものノリノリの雰囲気ではなく少し重い感じのそんな雰囲気。
俺の席に座っているということは話があることであろう。
心当たりは怖いほどないのだが、
「どうした?」
「……あんた!」
急に怒鳴られると共に胸倉を捕まれ恐怖感にかられてしまいどうしても怯えた表情を零してしまう。
俺の態度を見て少しの凶悪感を抱いたのか胸倉を掴んでいた手を離し、冷静になる。
もう一度椅子に座り直すと重げな表情を浮かべる。
「……ごめん、ついかっとなっちゃって」
ぺこと軽く頭を下げ謝罪の意を見せる。
「で、どうしたんだ?」
「それが、かりんがあんたが他の女が楽しそうに話しているとこ見てさ」
顔に嫌汗がじわじわと浮かび上がっていく。
篠塚と遊んでいるところを見られてしまったとは不覚。いやしかし、橘に怒られる筋合いはないと思うが何故そこまで哀しんでいるのだろうか。
「かりん、あんたのことずっと好きだったから」
その言葉を聞いた瞬間居てもたってもいれなくなった。
橘のところにいかなければ、罪悪感とは違う絶対的使命感が内部から俺を働かせた。どこにいるかすら検討もつかない、それでも俺は行かなくてはいけない。
生憎、松井も連絡が途絶えているようで彷徨しなければならないのかもしれない。
◆
「やっと見つけた」
息を切らして荒く呼吸しながら橘を見つけた。公園のブランコに存在を抹消するかの如くぽつんと座っていた。
その表情はなんとも言い難いそんな表情、不満気なオーラに包まれている。恋人に振られたような様子である。
唇を一度噛み締めて荒い息を殺し、橘の隣の空いているブランコに座る。
「……たちばな」
そっと息を吐くように名前を呼ぶ。
橘はやはり俺に気づいていはいるが顔を向ける様子は見られない。
相当、心に傷を負っているように思う。
俺が原因なんだ。俺がなんとかしなくちゃ。どうするかなんて考えている暇はない。
ブランコから立ち上がり、橘の正面に立つが周辺の寒気にやられたのか足が武者震いしている。
橘も寒いだろうにこんなところに一人で。
目線を落とすとやはり橘の足も震えていた。咄嗟にブレザーを脱いで橘の膝に優しく添えるように置く。
「……ありがと」
ぼそっと少量の風に流されてしまう聞き慣れた透き通るような声。
「ごめん」
「謝らないでよ」
真剣なその眼差しにはいつもの優しくノリの良い態度とは裏腹の何か大きなものが感じられた。
もう日も落ちて月の出番が回ってくる時間。点滅する街灯と周囲を彷徨する冷気。
いつも騒音を出しながら下校する小学生も工事の音も聞こえない静寂な空間に俺と橘、二人の空間。
今までに味わったことのないこの空気は呼吸が苦しくなりそうになりそうだった。
「あたしもごめん」
「えぇ?」
「ゆうくんと一緒にご飯食べてる時、他の人と一緒に居て」
橘も申し訳ないと思っていたようだ。
しかし、橘の性格上、他人を無視をするという行為はどうも無理なのだろう。優しい性格をしているせいか藤原が居なくなった途端、皆が寄って来た例もある。
「別に気にしていないが、橘は嫌だったのか?」
潤いを宿した瞳。
その中には色んな感情が混合している。深くすべてを見ているような。
もう寒さのせいか、橘の表情のせいか頭が混乱して上手く回らない。
自分が何をしているかも分からなく、意識が遠くなっていく。
俺はブランコから立ち上がり橘を抱き締めた。
胸の中で子供みたいに泣き喚く橘。
ゆっくりと俺の背中に腕を回してくる。
「付き合おーよ、」
「うん、、」
◆
「いてててて、」
頭痛のする憂鬱な朝。
昨日、橘を追跡してからの記憶が曖昧だ。夢と現実の間を彷徨しているような感覚だった。
時計を確認すると時刻は九時を回っている。
まずい。
いや、もう遅刻確定か。八時三十分過ぎてるもんな。




