砂の国、砂の城 02
所々腐りかけた板造りの港を抜けると
海岸の砂浜がそのまま陸まで続いたような砂砂漠の街。
白を基調としたローブのようなマントのような長い布を纏う人々。
直射日光を避けるように肌の露出は極めて少ない。
「アラビアのロレンスみたいね。」
「映画ですか?」
世界が異なっても環境に適応しようと試みると、その様式は似るのだろうか。
少なくとも地理的な問題で文化が異なるのはどの世界でも同じだ。
その一つの具体例が目の前のラクダだった。
乗り物としての動物はその殆どが馬からラクダへと変わる。
僅かにロバの姿も見えるが馬はいない。
キリの興味はすぐにその「ラクダ」へと向かう。
「ヒトコブに近い。まつ毛も長い。きっと鼻の穴も閉じる。」
ラクダには乗った事がない。
ツグミはノトをキリに預け、乗り合わせた商人達と「この先」について打ち合わせに向かう。
キリも慌ててそれを一緒に聞こうと付いて行くが
「あの小屋にラクダがいる。三頭選んでくれ。」
「値段は一緒?」
キリが確認するとツグミはどうやらラクダの持ち主と交渉する。
選ぶのはあの子だ。と聞こえた。
侮ったのだろう。
「価格は全て同じにするとさ。キリに任せる。」
読んだ事がある。
ラクダの寿命は33年3ヶ月3日(太陽暦では32年)。
実際の平均寿命は25年程度。
「歯」を見る。
糸切り歯と犬歯が生え揃い。あまりすり減っていない個体。
これが若くて健康的なラクダの見分け方。
商人や稀にではあるが旅行者にラクダを売る(実質レンタル)業者は
キリの目利きに感嘆する。
「砂漠の民でも無い、しかも頭に黒猫を乗せたこんな子供がどうして。」
「この子は守護竜の守護者だからな。」
メリアに扮する月夜野アカリが自慢する。
同時にフードを外し、その姿を見せるのは演劇部部長としての演出。
明らかにギョッとする周囲の人々。
それを確認してから
「ところで。」
月夜野アカリは南大陸の西の国から訪問者が無かったかと尋ねる。
「罪人を追って北大陸に渡った。」
「私の知る限りおりませんね。」
旅人も商人も砂漠を越えるにはラクダが不可欠だ。
その主人が知らないと言うならそうなのだろう。
「砂漠を避け隣の国、いや地域に入港したのかも。」
「なるほど。そうかもしれないな。感謝する。」
言葉の選び方だけではない。
その立ち振舞がまるっきりメリア本人だ。
アホの子のように口を開けて見詰めるキリの目線に気付き
少々照れる月夜野アカリ。
月夜野アカリは途中で「捜査官」の件は忘れてしまうのだが
実はこの捜査官
北の大陸には渡っていない。
南大陸東の国王都にて「執政官」の足取りを完全に見失ってしまっていた。
東の国の王都から東地区への交通手段が絶たれてしまい
どうにか北大陸の西地区へと渡ろうと思案していたのだが
交易が完全に絶たれてしまい船が出ない
高い報酬を払おうにも旅の資金も心許ない。
峠を越えようと出発したが守護竜が不機嫌だと追い返され
内陸の迂回路を歩くと小さな竜の襲撃を受け引き返した。
東の国に到着したメリア達一行に出会うのは
その襲撃で受けた傷を治療していた診療所で
月夜野アカリ達と同行し負傷した騎士と顔を合わせてからだった。
報告を受けたメリアが捜査官である騎士を見舞う。
「そうか。北大陸には渡れなかったのか。」
「はい。申し訳有りません。」
「いや気にするな。貴殿は充分以上にその役割を果たした。」
メリアは二人の捜査官を労い
「本国に戻り充分な休養を取るように。」
「そうだ。この者達の帰還の護衛を頼む。」
副部長若宮アオバと仕立屋吉岡ハルナと同行し西の国へと帰国。
「いかがなさいます?」
ルメニーが今後の方針をメリアに確認する。
「すぐにでも北に渡りたいがこの脚ではな。」
ラクダに跨り砂漠を旅する一行。
「すぐ街に着く。」
先導する魔女ツグミ。
見渡す限りの砂。道らしきがあるのは助かる。
他にも数組前後に荷物を積んだラクダとその持ち主が歩く。
どうやらあの港は本当にただの船着き場のようだ。
倉庫はあれど宿泊する施設は無い。
すぐに緑色が視界に入る。
それは小さい蛇行を繰り返し視界の左右に伸びている。
「川だ。」
砂漠の中に川。
綺麗な水。とは言えないがそれなりに豊富な水量。
川沿いに下ると建物が現れ「集落」に到着。
その殆どが砂と同じ色をした岩造りの建物。
色合いもその構造も西の国(南大陸)とは趣が異なる。
映画や写真で見た「砂漠の街」にとてもよく似ている。
「似ているつーかそのまんまだな。」
「部長さんは砂漠に行った事が」
「ないよ。ないけどそんな感じじゃん。それと普段からメリアって呼んでよ。」
実に賑やかな街だ。
実質的にこの街が北大陸と南大陸とを繋ぐ交流の場となっている。
北の大陸の国が統一されて以降
公式には国交が絶たれている筈なのに、ここはそれを知らずか賑わい続けている。
いつからか街の一角が市場として機能し集められた商品が集まる。
物が集まり、人が集まる。
「RPGゲームのようだ。」
吾妻アヅマがいたなら喜んだだろうな。
残念ながら月夜野アカリはゲームに詳しくない。
「見てくれも売っている商品も違うけどショッピングモールだよな。」
モールって商店街って意味だから。的な指摘は遠慮するキリ。
「武器屋防具屋とかあるのかな。」
その程度の知識はある月夜野アカリ。
「あるとしたら鍛冶屋じゃないですかね。」
実際鍛冶屋は見付けるのだが
キリにはメリアから受け取った短剣がある。
月夜野アカリもその後メリアが腰に差していた短剣を譲り受けた。
これ以上の武器は必要無いだろう。
「それより少し深めの鍋が欲しいな。」
と言い出したキリに呆れる程度。




