迷子の青空 23
朝方。少し温まるだけのつもりが眠っていて
ハッと目を開けると周囲が深い霧に覆われている。
焚き火の炎が心許なく薪も残りわずか。
「たしか向こうに用意してくれた筈。」
殆ど手探りで歩くが薪が見当たらない。
「民家、じゃないな。作業小屋かな。」
建材用の木材だろうか切り倒された丸太が積まれている。
端材を少し分けてもらおうか。
「まだ誰もいないか。」
とにかく何か探そうとウロウロしていると
「だれたっ小さい竜かっそれともドロボーかっ」
ドロボーて言葉あるのかと感心している場合ではない。
その声と霧の中の影から相手はどうやら子供だ。
だが油断してはならない。
相手は「伝説の剣(木製)」を構えている。
「えーと僕はキリ。ここの端材を少し分けてもらえないかな。」
「端材?そんなもの何に使うつもりだ。」
「この先の湖で焚き火をしたいけど薪が見つからなくて。」
「焚き火?こんな時間に?怪しい奴め。」
「君こそこんな時間にどうしたの。」
「オレはとーちゃんに内緒で船を作っている。これはその材料だぞ。」
「すごい。一人で船を作るの?」
「そうだ。いや一人じゃ無いけど。」
「そうかそれじゃこれは貰えないな。他を探すよ。」
「待て待て怪しい奴め。お前が何でまだ陽も昇らないう」
霧の中、キリの脇からアクゥロが首を伸ばす。
「なにか問題か?」
「いや薪を探しにね」
それを見て腰を抜かす男の子。
「おとーちゃーんっ守護竜様ガーっ。」
説明する間もなく駆け出してしまう。
まあいいか。すぐに明るくなる。動いていれいれば身体も温まるだろう。
「霧が深い。あまり離れるな。」
「うん。昨日の続きをするけど痛いところは無い?」
「問題ない。だが少し待て。」
アクゥロは湖にその首を入れ、そして滑るよう身体を沈めた。
潜らせたと言うべきだろうか。
アクゥロはすぐに、とても静かに地上に上がりそのまま伏せる。
「この湖を汚したくない」
キリにはその想いが届いた。
火が消えている事も気付かずひたすらドロを落とし穴に捨てる。
乾いたらきっとまた同じことをする。
弱っているドラゴンに何度も負担は掛けられない。
手早く、丁寧に。
森の国の住民がキリの指示に従い掃除用のブラシ(獣の毛)を使って
偉大な守護竜様を磨いている。
子供達もその背に乗り手伝う。
「幼い日々を思い出します。」
森の国の女王はその光景に目を細めている。
「アクゥロは我らと共に生きていた。」
そう言った彼女の顔が厳しくなる。
キリが「怖い」と感じたほどの決意。
「彼女の家はここだ。」
女王プリウムは踵を返す。
「メリア。付いてきなさい。」
メリアが慌てると
文句を言いながらキリの手の手当をしていたルメニーも慌て走る。
キリの言った「引っ越しの手続き」に向かったのだろう。
ドロ落とし作業は夕暮れと共に終了する。
あとは体力の回復を待つしかない。
「子供達よ降りなさい。」
守護竜アクゥロは背中で遊ぶ子供達を諭す。
大慌てで降りる子供達を確認すると
アクゥロはその場で大きく羽撃く。
水飛沫。
二度、三度。自らを乾かすように翼を広げ風を起こし
橙色の空に舞った。
そして日が沈んでも戻らなかった。
屋敷に戻り湯を浴びたキリは夕食も摂らずドロのように眠った。
のだがすぐに叩き起こされる。
ルメニーでもメリアでもない。
黒猫のノト。
黒猫ノトの猫パンチがキリの額を叩く。
「ノトさん。ツグミさんと一緒に」
「にゃ。」
ベットから降りて部屋の入り口で待つ。
「付いてこいって事?」
キリが身体を起こすとノトは部屋の外で待つラリクスの上に乗る。
オオカミ犬のラリクスはキリを先導するように歩く。
時折その上のノトが振り返りキリがいるのかを確認している。
ラリクスはどの部屋にも入らずそのまま外へ出る。
真っ暗、ではない。
「うわっ」
一面の星空。
昨夜も見ている筈なのに。
「こんなに明るいのか。」
そんな筈は無いのに、どうしてだろう
「僕達の星は何処にあるのだろう。」
「うにゃ。」
ノトはキリを催促する。
「ああごめん。」
何処へ行くのか尋ねたいが聞いたところで返事は無いだろう。
それに何となく判る。
きっとそこにはアクゥロが待っている。




