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迷子の青空 22

「滾る小魚亭」

倉渕ミサトと店の主人の「打ち合わせ」は難航する。

第一に「場所」がまだ決まらない。

滾る小魚亭では狭い。

他の部員が手分けをし会場を探し続けてはいるが

広くて開けた場所は郊外にしか無い。

「態々来る人がいるかね。」

その時一人の男性が倉渕ミサトに声をかける。

「あんた異世界の人だね?勇者キリの知り合い?」

「知り合いも何も一緒にこの世界に来たわ。」

サインは後で。

「広い場所を探しているなら力になれるよ。」

「まじで。」

彼が案内したのは倉庫。

「確かに広いが暗いな。」

「照明なら用意できる。」

彼は東の国から到着したばかり。

朝食が済み次第積荷を倉庫に入れる予定。

だったのだが、カウンターでの食事中に店主と倉渕ミサトの会話が聞こえた。

「それでその、貴方もあの子の知り合い?」

「彼は命の恩人です。」

港で船から落ちて手当を受けた男性。


「そこいらの公民館の小ホール程度。」

と倉渕ミサトは他の演劇部員に報告する。

「滾る小魚亭」からもさほど距離はなく

店の主人はテーブルと椅子の貸与と料理の提供を受け入れる。

「袖は作れるのか?」

「倉庫の空き箱でパーテションができる。」

「問題は設営。」

椅子やらテーブルを運ぶのにも舞台の設営にも人員が足りない。

「その心配も無用よ。」

倉庫を提供するのは大きな商船の船長。

屈強な船乗り達が揃っている。

「具体的な指示を頼む道具屋。」

「あそうか。俺か。」

この世界にフォークリフトは無いが荷物を運ぶ際のパレットはある。

それを積み上げれは「舞台」が出来る。

両サイドには部室から持ち出したポールと暗幕で「袖」を作る。

机と椅子を並べ

「本当にディナーショーみたい。」

「みたいじゃなくてそうなんだよ。」

「ヒーローショーは何処行っちゃったんですか?」

「何処にも行ってない。」


「効果が無いからクサイくらい大きな演技をする。」

部長の指導は具体的とは言えず

アワアワする魔女っ娘一人。

読み合わせと通しの稽古が一度ずつ。

動きも定まっていない。

「舐めている」としか思えない。

赤堀サワは演劇部入部に際しそれなりに覚悟と期待をしていた。

「作り上げる」作業を皆と共有したかった。

なのに「雑すぎる」

ドの付く素人の私に進行に必要な台詞まである。

もう一人の新人吉岡ハルナは落ち着き払っている。

「え?だってこういうモノなんでしょ?」

上手(かみて)下手(しもて)も判らないド素人。

ただ言われたままを受け入れている。

その度胸に「もしかしてコイツ大物か?」と。

村での第一回公演は殆どがナレーションでカンペもあった。

ヤバイ膝が震えてきた。


月夜野アカリは他の三年生に協力を求めていた。

「今回の公演は新人二人を追い詰める。」

「具体的にどうするつもり?」

「これがシナリオだ。流れを覚えてくれ。」

「アドリブ劇にするつもり?」

「半分な。」

入部してからの1週間。この世界に来てからの数日間。

月夜野アカリは部長として二人の一年生を観察し続けた。

何も知らない吉岡ハルナは言われたまま素直に動く。

言われた事しかしない。

「それはまだ仕方ないでしょ。」

「まあな。今回はそれ以上の事をする必要もあるって知ってもらえればいい。」

一方の赤堀サワ。

半可通とまでは言わないが中途半端な頭の中の知識が

現場での動きを邪魔している。

「道を知っている事とその道を歩く事は違うって言うだろ。」

「マトリックスね。確かにあの子自分の知識とのギャップにイライラしているわね。」

「今回は徹底的にイライラしてもらう。」

赤堀サワは吉岡ハルナに対する見栄があり

それが意地になりプライドになり上級生に質問をしない。

心配なのは

「誤った情報」のまま二人が納得してしまわないか。

その点だけ注意してくれと他の部員に協力を仰いだ。


聞かれた事以外答えない。

こちらからアドバイスはしない。

励ますのはアリ。

「特に副部長。気をつけてくれ。」

若宮アオバは女性が嫌いのくせに気を使う厄介者。

「ミサト。副部長の傍で見張っていてくれ。」

「仕方ないわね。まあ仕方ないわ。」

月夜野アカリの恩返し。

「アドリブあるって事だけは伝えておけよ。」

道具屋笠懸ヒサシもそれなりに気は回る。

「ん。任せた。」

「藪蛇かよ。」

それとなく。

今回の公演は時間が無く未完成だから

臨機応変にアドリブが必要になるかもな。

と一年二人に伝える道具屋。

アワアワアワアワする赤堀サワ。

「アドリブってなんですか?」

吉岡ハルナの質問。まあ何となくそれとなく知ってはいるが確認する。

「即興だよ。台本に無い台詞があるって事だ。」

元々は音楽用語。ラテン語のad libitum。意味は自由に。

「部長は結構好きなんだよ。」

きっちり覚えた台本を無視して本番で勝手に台詞を足したり引いたり。

「この世界に来てすぐにやらされたろ。」

そう言えば部長は何やら呪文のような言葉を叫んでいた。

「アドリビトゥム!」

あれがそうか。


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