迷子の青空 16
何かあったらすぐに呼ぶようにと言われ毛布を受け取る。
メリアとルメニーは自室へと戻る。
伏せるタクサスの横に座り頭を撫でながら
「すぐに良くなるよ。」
あれから異常は見受けられない。きっと大丈夫。
毛布にくるまると他の犬達がキリとタクサスに寄り添う。
黒猫ノトもキリの毛布の中に入る。
魔女のツグミもキリの毛布の中に入る。
「ええっ。」
「ええって何だよ。」
「いやこんな寒いとこじゃなくて用意してもらった部屋で」
「いつも裸の私を温めてくれていただろう?」
「それって猫の姿のうわっ」
無理やり手を引かれその胸の中に収める。
「少し休め。何かあったら起こすから。」
と言われたが色々と気になって眠れない。
毛布から顔を出すとツグミが船を漕いでいる。
タクサスも静かに寝ている。
目覚めると、タクサスは冷たくなっていた。
な夢を見た。
まだ暗い。殆ど経っていないのだろう。
お腹の上下運動が見える。
タクサスは静かに寝ている。
ただ自分の動悸が治まらない。
結局キリはその後眠れなかった。
途中黒猫ノトが起きて身体を伸ばしてウロウロして
キリの頭の上に登って降りてまたウロウロして
毛布の中に潜り込んだ以外特に何も起きない。
「いや寝てないよ。」
ツグミが起きたのは小屋の扉の隙間から灯りが差し込んでからだった。
抱いているのは黒猫だけ。
その黒猫を抱き毛布にくるまりながら外へ出る。
「寒っ。」
キリはオオカミ犬達と一緒に湖の周囲をゆっくり歩いている。
一人の少年と、彼を取り囲む大きな狼。
「どうしてあの少年に動物が寄り付くのか」
よりも
朝霧に浮かぶその姿があまりに荘厳で、ただただ見惚れてしまった。
「おいでタクサス。」
キリは一頭だけ連れ小屋に戻る。
「おはようございます。」
笑顔のキリ。
「ああおはよう。」
タクサスを寝かせ傷を確認する。
「治りが速い。今日一日だけ我慢して。」
舐めようと身体をくねらせるがエリザベスカラーがそれを遮る。
覗き込むツグミが言う。
「次は守護竜だな。」
二人の使者は昨夜の内に森の里を出て近くの村へ。
同行するものと思っていたキリの疑問には
メリアの祖母、森の国女王プリウムが答える。
「アクゥロはあの者達の守護竜ではありません。」
この国が中の国と呼ばれる以前から
守護竜は森の民と共に生きていた。
レンタルしているようなものか。
と安易に考えるキリ。実際その通り。
守護竜を巡る契約は難航したのだがこの物語とは関係無いので割愛する。
朝食に招かれたその席で、キリはメリアに一つの提案を持ちかける。
「僕が口を挟む問題では無いのは承知していますが。」
「いや、聞こう。」
運河から道へ出て、そこから森を歩いてこの国に辿り着いた。
お墓参りで見下ろしたこの国は全方向「森」に囲まれている。
「昨日小さい竜が現れましたがアレも森を抜けて来たのでしょうか。」
「森の先に奴らの縄張りがあるからな。年に1,2度迷い込む。」
執事の人は「頻繁に」と言っていた。
もしかしたら「道」が出来ているかも知れない。
「その対策として柵を作って見張りを付けると聞こえましたが。」
「そうだ。これから指示するつもりだ。」
映画で見たラプトルは賢い。
昨日見たあの小さな竜も、オオカミ犬のタクサスを手玉に取った。
相当高い柵を、相当長い距離囲わなければならないだろう。
見張りの人員も一人や二人では済まない。
「狩るとかしかいのですか?」
「うーん。あまり美味く無いから。」
思った通り無駄な殺しはしない。
なら
「手間は掛かりますが柵を作るより楽で見張りの必要も無い方法があります。」
「鳴子」
紐を張り、当たると音が鳴る仕掛け。
時代劇のお城で忍者が引っ掛かるアレ。
ジャングルの中で味方が引っ掛かるアレ。
「縄張りの場所は判りますか?」
森の北。内陸部。ここより温かいであろう場所。
「おそらく一直線で来ている筈です。」
嗅覚なのか本能なのかは判らないが
一度辿り着いた場所は忘れないだろう。
鳴子を仕掛け驚かせる。
しばらくして何も無ければそのまま進むだろう。
キリが小賢しくも考え付いたのは「多重の仕掛け」。
実際に目にした事があるのははイノシシ捕獲用の「くくり罠」。
ワイヤーやバネなどなくても原理さえ判れば「跳ね上げ式」を作れる。
「しかしよほど丈夫な縄を編まないとすぐに逃げられてしまうぞ。」
「構いません。」
目的は脅かす事にある。食用にしないのであれば捕獲の必要はない。
「でもどうして鳴子が必要なの?」
ルメニーの疑問はもっともだ。
「パブロフの犬。」
「何の犬?」
音が鳴ると罠に掛かる。を覚えさせる。
同時に鳴子の設置は森の国への警報にもなる。
森の出口付近に見張りをつける必要はない。
「音が聞こえたら追い払う準備をする。」
手間はかかるがその価値はある。
それでも学習してやがては迂回路を見付けてしまうだろう。
その前にアクゥロに会わないと。
「守護竜が治らない事態を想定しておいてください。」




