迷子の青空 15
「あれで騙されるんですね。」
「アンタは騙されないんだ?」
倉渕ミサトは騙された口。
己のルックスに少々コンプレックスを抱いている倉渕ミサト。
月夜野アカリの引き立て役じゃないのかと思っている倉渕ミサト。
それを本人に言ったら泣くほど怒られた。
親友月夜野アカリがそのルックスのみで無理やり入部させた若宮アオバ。
彼は最初からずっと月夜野アカリに怯えていた。
「根はいい子だから。」
フォローするのは彼が辞めたら月夜野アカリが凹むから。。
「上手な女性のフリ方」を教えてくれる約束をしたから辞めない。
と知るまでずっとフォローを続けた。
お互い新入部員であるのに倉渕ミサトは若宮アオバの面倒を見続ける。
姉妹から何かと雑用を頼まれ感謝すらされない日常で
倉渕ミサトは何の見返りも求めず自分の面倒を見てくれる。
それが奏功したのか若宮アオバは倉渕ミサトに「懐いた」。
周囲からは
「若宮アオバは倉渕ミサトを女性として見ていない」
「決定的な弱みを握られている」
などと揶揄する声も届く。
それでも、
若宮アオバが他の女子には決して見せない笑顔を自分にだけは向けてくれる。
倉渕ミサトが「勘違いするな」と自分に言い聞かせ続けても仕方あるまい。
「中身はヘタレだってオタ先輩が言っていたので私は騙されませんよ。」
可哀想に、この子は若宮アオバの本当の姿を知らない。
自分で確かめもせず誰かに言われたままを信じる。
だからと言って態々私が教えてやる必要はない。
若宮アオバは私にだけその笑顔を向けてくれればそれでいい。
「部長ちょっといいか。」
部室で荷物の整理と詰め込み作業中。
「あ、私外しましょうか?」
吉岡ハルナは気を使う。が
「は?あ、いやお前も聞いてくれ。」
「どうした道具屋。」
いつになく神妙な顔付きの道具屋を見て
それが真剣な悩みや相談であると理解しその手を止める。
「部長はこの先の事をどう考えているんだ?」
「この先?」
演劇部としての活動の、その先。
王様に言われた巡業の、その後。
村に戻った笠懸ヒサシは早々に村の人々から大工仕事を依頼される。
「荷物を片付けたらすぐに伺います。」
と約束し部室に戻る。戻ってすぐに不安に襲われた。
笠懸ヒサシは始めて「不安」とはっきり口にした。
吾妻アヅマを見付けてここに連れ戻したとして
「元の世界に戻れる保証なんて無い。よな。」
それが冗談交じりに言われた台詞ならば
「それを信じなくてどうする。」
と叱咤激励するのだろう。
だが今回は違う。笠懸ヒサシは至って真剣だ。
そして月夜野アカリは、吉岡ハルナは同様の不安を抱き続けている。
「ない。な。」
「仮に、仮にだ。元の世界に戻れなかったら部長はどうする。」
考えていなくもない。いや「それ」しかできない。
「この世界で劇団を立ち上げて劇場を作るか巡業するか。」
「だよな。」
予想通りの回答に笠懸ヒサシはようやく表情を少し崩す。
「お前はどうだ。」
吉岡ハルナにも考えていた事はある。
洋裁の技術を活かした職に就く。
だが専門的に学んだ事などない。殆ど母から教わった素人裁縫。
自信なんて全く無い。不安しかない。
「判りません。自分に出来る何かを探すしかないです。」
この世界では「なりたい者になれる」と騎士が言っていた。
「俺は、俺実はすげぇ臆病者なんだ。」
事実、彼は一度だって若宮アオバを「ヘタレ」呼ばわりしていない。
俺は怖くて尻込みしてしまう場面でも、アイツは踏み出す度胸を持っている。
そんな自分を変えたくて「演劇部」に入ったのに
結局表に出られず「裏方」の道具屋として虚勢を張り続けている。
怖いから堅実に生きる。
怖いから手に職を付ける。
「この巡業が終わって、それでも帰れるアテが無かったら。」
「俺は何処か落ち着いて生活の基礎を作ろうと思う。」
退部の宣告。
「うん。判ったよ道具屋。君の決断を尊重する。」
見ず知らずの世界で、彼は生きようと決意した。
否定なんて出来ない。
「まあでも言葉の通じる世界でまだ良かったよ。」
月夜野アカリは笠懸ヒサシのこの台詞に
織機キリの言葉を思い出した。
互いの情報を交換した際に言っていた。
「黒猫のノトさんから聞いた話です。」
召喚の際「調整」が行われる。と。
「匙とスプーン。か。」
「何だ?」
「あ、いや。」
私達は「誰か」に呼ばれた。
それが事故なのか誰かの手違いなのか判らない。
それとも、何かしらの目的で、誰かの意図によって呼ばれたのだろうか。
城内に用意されていた演劇部員達の大部屋の荷物を整理しながら
赤堀サワも似たような不安を口にする。
「私達これからどうなっちゃうんでしょうね。」
今は公演の事で頭が一杯だが
落ち着いたら不安に襲われると判っている。
部長に付いて演劇部を続けたとしてそれて食べていけるのか?
「ミサトさんは何か考えてます?」
「いやその時になったら考えるよ。」
「ヘ副部長は?」
赤堀サワは建前で聞いただけだった。
「僕はこの世界をもっと見て回りたい。」
目を輝かせる。
この人こんな顔も出来るのか。
この人こんな大胆な事考えているのか。と惚れかける赤堀サワ。
「一緒に行かないか?」
若宮アオバが手を出した先には
倉渕ミサト。




