迷子の青空 14
「道具屋っ。道具屋は何処だっ。」
「道具屋先輩なら馬に乗って何処か行きましたよ。」
「ちくしょう目医者ばかりではないか。」
「何ですかそれ。クラゲにでも刺されましたか?」
月夜野アカリは赤堀サワの手を取り
「電気クラゲに刺されたかのようにビビっときたよ。まあクラゲに刺された事は無いのだが。」
月夜野アカリの「ビビっ」はそれほど大した発想では無かった。
と、後に赤堀サワは回想する。
「暗黒竜の登場だ。」
二回りほど大きい黒い竜を作らせる。
(悪役に扮した)道具屋と派手に登場させ子供達を恐怖に陥れる。
そこにキリと私達演劇部員が立ち向かう。
が、やられそうになる。
さらにそこにメリアとレミーとピータンと騎士団長登場。
「多くね?」
まだパワーバランスが悪い。と赤堀サワの率直な意見。
主役は少なく悪役は多く。
暗黒竜と悪役二人は欲しい。
「ハタオリキが出せないでは無いか。」
「あの子に置いて行かれたのがそんなにショックなんですか?」
「ショックなのはアイツが一人で行くのを判っていて止められなかった事だよ。」
月夜野アカリは感情的に言い捨てた。
ああそうか。
部長はあの子に腹を立てているのではなく
あの子を一人で行かせた自分が許せないのか。
と、演劇部員達は勘違いする。
月夜野アカリの演技力恐るべし。
「俺がその竜動かすしかないだろ。」
発注はともかく配役についての懸念。
残りの人員から考えて女子二人のどちらかしかいないのだが
「体力的に難しかろう」と道具屋が買って出た。
「それだと女子二人悪役になるぞ?」
「あっそれですよ。」
赤堀サワは閃いた!
「私とハルナは今日から魔女になります。」
元々魔女の役を演じる予定だった吉岡ハルナ。
衣装も一式揃っている。
「伏線か?これは。」
「こんな面倒なの張りません。」
解決案。
レミー 若宮アオバ
メリア 月夜野アカリ
騎士団長 劇団騎士
ピータン 倉渕ミサト
暗黒竜
魔女A
魔女B
「よし全員集めろ。」
「もういるでしょ。」
「全員でシナリオを詰めるぞ。やっと部活っぽくなってきた。」
特殊効果が使えない。人力で何とかするしかない。
「火炎放射を」
「却下っ。」
「次は公演のスケジュールだな。」
単独ツアーの行程。東から西。西から東。中央を拠点に適時。
護衛役ナビ役御者として騎士二人が付添う。
(内一人は演劇部と馴染みあるいつもの人)
「もう一人いるなら何か役を作るか。」
「ぎゃっ。」
出発前に一度隣の村の「部室」に必要な衣装や道具を取りに戻らなければならない。
「今度は私が行くよ。留守を頼む副部長。」
「衣装の事もあるから私も戻ります。」
「俺も道具取りに戻りたい。」
月夜野アカリ、吉岡ハルナ、笠懸ヒサシの三名が翌早朝出発する。
留守番組も荷造りを開始。
早速赤堀サワが愚痴る。
「部長も無茶言いますよね。」
「無茶って?」
聞き役は会計の倉渕ミサトではなく副部長若宮アオバ。
「今から一人追加で役を作ろうとしたでしょ。」
「皆であれだけ苦労して作り上げたのに。」
手を休めないアオバに赤堀サワは続ける。
「私的には最初のシナリオでも良かったと思うんですよ。」
「あのハタオリキって子にもご執心だし。」
「バランス崩してまでこだわる必要があるとは思えないんですよねぇ。」
それでも手を止めないアオバ。
若宮アオバは聞き上手だ。
女性を嫌いになったのは日常的に繰り返される姉妹の虐待>
勿論本人達は虐待している認識は無いのだが
その一つに「愚痴」がある。
言いたいだけ言わせればやがて落ち着く。
本人が意見を求めない限り口を挟むべきではないと知っている。
だからと言ってニコニコと頷いているだけでも怒られる。
「そうだね。その通りだよ。」
と迂闊に同意しても怒られる。
「アンタに何が判るのっ」
と理不尽に怒られる。
だから彼はただ聞く。
内容なんて聞いていなくても聞いている姿勢を示す。
時折頷いて見せてアピールする。
そして当事者に最適な一言を呟くのだ。
今回は
「部長は君になら出来ると思って任せているんだよ。」
この男、実に心得ている。




