迷子の青空 13
今度の公演の参考になったのか。と問われると
「どうだろうか。」
としか答えられない施設見学ツアーではあったが
この世界(少なくともこの国)の騎士の恐ろしさは理解した。
その正義感や倫理観は演劇部員達の思い描く騎士像に近いが
名誉や建前の「理想ありき」の連中ではなく
もっと実務的に訓練された特殊部隊のようである。
基礎訓練として剣や弓、素手での戦闘術を学び
馬の扱いから陸海での狩猟術から人命救助の方法。
「厳しいのね。」
騎士は本人が望みさえすれば誰でもなれる。
自ら志願し国に仕えると誓いを立て、
騎士見習いとしての訓練の後、脱落さえしなければ「騎士」の称号は得られる。
「ですが志願者の半数以上は正式に騎士になる前に辞めてしまいます。」
多くの子は親の職業を継ぐ。
強制ではない。職業の選択は本人の自由意志による。
職業による貴賤が存在しない世界。
選択肢こそ少ない(これは演劇部員達の主観)ものの
「なりたい者になれる」
その上で厳しい「騎士」を職業として選んだのはどうしてなのか。
演劇部員達の素直な疑問。
「私は大戦で両親を失いました。」
王都の隣の村。「部室」のあるあの村。
「大戦て大昔の話じゃないの?」
王都にも村にも中央街でも
惨状や爪痕は見受けられなかった。
「国王の、前王の尽力の賜物です。」
他国に比べこの西の国の被害は少なかった。
陸の孤島と化し、国土も狭い。
だがそれでも守護竜のみによる防衛には限界がある。
「私達のような戦災孤児は国に拾われるのです。」
両親の事は何も覚えていない。
「継ぐ」職などない。
国に拾われ、「なりたい者になれ」と言われたところで
何者になれる?
「騎士になろうと決めたのは、私のような子供を増やしたくないから。」
「ちょっといいかしら。」
この騎士個人の話を聞く限りやはりこの国の騎士は名誉を求めているのではなさそうだ。
もしかして騎士は「王」個人ではなく「国」に仕えているのだろうか?
「何が違うんだ?」
月夜野アカリの質問の意図が他の部員達には理解できなかった。
当の騎士だけが正確に読み汲んだ。
騎士は国ではなく王に仕える。だが個人の私物私兵ではない。
「前国王崩御の際、形式上一度全員が解雇されています。」
騎士になるべくその資質が試されるように
騎士を志す者もその主君を選ぶ権利が与えられている。
「しかし私の知る限り他の職に就いた者はいません。」
「それってレミーに仕えるだけの価値があるって判断したからよね。」
月夜野アカリは遠慮無い。
演劇部員達は月夜野アカリがメリアに、レミーに対しても
「一線を引いている」と感じてはいた。
「ああ、私ね、血統による政治権力の継承って嫌いなの。」
個人的な主義主張による嫌悪だとしても
部長のそれは、部員に伝わる。
「政治形態の一つとして寛容はするけど尊重はしない。」
「古典演劇には権力者が多数ご登場あらせられるけど、」
「親を武器に使うクソ野郎が多いのよね。」
「逆にこの人いい人かもって思うような登場人物は大抵死んじゃう。」
「だからメリアお姫様がイイ人だと危ないのよ。」
とんでもない三段論法だ。
この騎士の言う通りなら
態々私達を使ってプロパガンダは不要だ。
あの王子様は本当にただ私達に公演をする機会を与えただけなのか?
体良くお城から追い出したいだけじゃないのか?
「何がそんなに気に入らないの?」
煮え切らない月夜野アカリに親友倉渕ミサトが問う。
「イイ人って答えは出てるじゃん。」
「イイ人過ぎないか?」
月夜野アカリの抱く疑念の根本にあるのは
「あの王子様が私達をこの世界に連れてきたのではないか」
レミーが演劇部に親切なのはその罪悪感。もしくは目眩まし。
「呼び寄せたものの元の世界に戻す方法を知らないとか。」
「怖いっ止めてっ。」
月夜野アカリは一人思案を続ける。
「部長」として決断しなければならない。
とは言ってもここは日本でも無ければ私の知る世界でもない。
「世界が変わったのなら、私自身も変わらないとな。」
「各自、自分が何をしたいのしかもう一度本気で考えよう。」
とは言ったものの
高校生らしくただグダグダとウダウダとダラダラと過ごす部員達。
新入部員として呼ばれた騎士は結局休部扱い。
月夜野アカリと赤堀サワの二人はシナリオを根本から見直す作業を続ける。
そして必ず致命的な問題にぶつかり頭を痛める。
「もうシナリオどうこうじゃ無いですよ。物語そのものを何とかしないと。」
「登場人物の偏りが大きいだけだ。物語そのものは問題ない。」
ヒーローショーとして致命的な欠陥は敵側の設定にある。
実際にその姿を目の当たりにしてはいるものの
それが何者なのか知らない。何を理由にこの国に侵攻したのだろうか。
土地が欲しいのか
この国の人達を奴隷にでもしたいのか
鉱山で取れる光る石か。
船に乗って現れて矢を撃ってきた連中の目的は ?
「史実に基づこうとすると敵はあの日の船だけなんだよなぁ。」
「いっそ噂をそのまま公演にしちゃいますか?」
赤堀サワの一言は月夜野アカリに光を与えた。




