迷子の青空 12
ラリクスと黒猫ノトが見守る中、
キリはタクサスの包帯を外す。
ツグミがそれに付添うのはただ居心地が悪いから。
「もう巻かなくても平気なのか?」
「はい。傷はたいした事ありませんでした。でも。」
「でも?」
「身体の中が心配です。結構強く打ち付けていましたから。」
骨折はしていないようだ。
打ち身程度で済んでいればすぐに回復するだろう。
だが内蔵が損傷していたら。
吐血は無い。今の所尿も便も異常は無い。
レントゲンもCTも無いから触診と目視でしか確認できない。
「体毛と肉厚があるので触ってもなかなか。」
「白熊のような犬。だな。」
魔女ツグミがどうしてこの「言葉」を知っている?
僕は口に出して呟いていたのか?
キリが問い質す邪魔をしたのは、森の女王プリウム。
彼女は腰を落としタクサスを撫でる。
「先程は大変失礼しました。」
彼女はキリに頭を下げる。
「メリアから聞きました。勇者キリ。孫をお救いくださり感謝いたします。」
森の国の女王プルウム。
突然の事にキリは「自分の事」として捉えるまでに間か空いてしまった。
「は、あ、いや。お救いと言われましても僕は何も。」
本当に、実際に何もしていない。
それなのに勇者だのお救いだの言われても。
「ええ、話を聞く限り武勲を立てたとは言えませんね。」
と笑う。
仰る通り。話が判る。
「それでも勇者と呼びましょう。」
なんでだっ
「タクサスとラリクスが心を許している。それが根拠です。」
「貴女にも失礼を詫ます。北の魔女。」
孫を気遣っているだけだろう。とツグミは察する。
「よろしいのですか?」
「森の者にも伝えました。遠慮は無用です。」
キリとツグミはそのまま夕食に招かれる。
その最中。
「お食事中申し訳ありません。」
と執事が女王に来客を伝える。
中の国からの遣い。
「来客の多い日ね。」
「失礼」と言いながら席を外す。
食事を続ける一行。
「タクサスの具合はどうだ?」
メリアがキリに尋ねる。
「大丈夫かと。ただ今晩様子を見ます。」
「そうか。ならお前の部屋にタクサスの」
「いえ僕があの子の部屋に行きますから。」
「あの子?」
食事もそろそろ終わろとする。
女王プリウムがようやく戻るのだが席には着かず
「キリ殿。ご足労お掛けしますが一緒においでください。」
随分と丁寧に翻訳されるな。
「メリアも来なさい。」
キリが呼ばれればツグミも続く。
メリアが行くならルメニーも行く。
案内された客室には二人の男女。
「中の国からの遣い」
キリが呼ばれた理由は
「守護竜の治療」
二人は西の国でのキリの話(噂程度)を耳にし、力を借りたいと願い出た。
中の国の守護竜「アクゥロ」の様子がおかしい。
病気か寿命か。
殆ど同時期に「国籍不明」の軍船を各地で目撃する。
未だ戦闘行為は無いが緊張状態が続いている。
その最中、西の国への侵略行為とその撃退の報せ。
アクゥロ同様衰弱するピータンの復活。
二人は西の国を訪れようと中の国西地区へ。
出港準備を進める中、区長からメリアの訪問と随行員にキリらしきの存在を聞く。
組合で確認しろと言われ聞くとどうやら本物がこの国に来ているらしい。
目的地を西の国から森の里へ。
陽が沈む頃になったのは、森への入り口の桟橋に人影が無く
夜の漁に出掛ける森の住民が現れるまで待たなければならなかったからだ。
「それでもあのまま西の国へ出発していたら。」
と胸をなで下ろす。
「杞憂だったな。」
メリアは笑う。
「こいつはお二人が現れずともアクゥロに会いに行っているよ。」
それは事実だ。いやまだ事実とは言えないがそうするつもりではいる。
夜明けとともに出発するつもりだ。
だが
「あの、一つだけ言っておきます。」
無邪気なメリアの言動にキリはもう耐えられなかった。
「アクゥロが治らなかった場合の準備をしてください。」
必ず治すなんて言えない。
「準備?」
「西の国は攻め込まれました。」
政治的な事は判らない。この国がどのような立ち位置なのかも判らない。
西の国が攻め込まれた理由だって判らない。
守護竜の不調と不審な軍船は繋がっている可能性は否定できない。
使者は互いの顔を見合わせる。
「守護竜の守護者」
「守護竜を癒やす者」
頼りなさそうな少年に困惑の顔を隠さない二人。
「誰かのためとか国のためとかじゃない。」
魔女のツグミは隣に座る少年の頭を撫でる。
「こいつはしたいようにするだけだ。」
オオカミ犬達は屋敷に隣接された小屋にその身を寄せている。
他に馬と羊が数頭同居。
キリがタクサスとラリクスを連れて戻ると他の三頭が出迎える。
三頭は頭を下げならがゆっくりとキリに近寄る。
案内したメリアとルメニーの目には
「頭を撫でてもらうのを待っている」ように見えた。
キリは実際そうするのだが
それからようやく三頭はタクサスの周囲を周り
物珍しいエリザベスカラーの匂いを確認する。
「本当にここで寝るのか?」
「はい。念の為にですから心配しないでください。」
いや心配なのはお前だよ。とは言えず
「本当に動物に見境ないな。」
また言われた。
「世界が変わろうともお前はきっと何も変わらないのだろうな。」




