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迷子の青空 11

綺麗な布で包帯を巻き直すと既に出血は止まっていた。

「傷が完全に癒えるまでは包帯は巻いておいてください。」

「それは判りましたがこれは一体。」

「この子が傷口を舐めてしまわないようにです。」

「この子?」

カラーを装着したのでストレスも溜まるだろう。

それでも何処かにぶつけて再出血する事態を防ぐ。

諦め伏せているタクサスを慰めるように頭を擦り寄せる黒猫ノト。

「ノトさんも傷口舐めたらダメですよ。」

「にゃ」

ノトの返事を聞いて、ようやくぐったりするキリ。

腰を抜かしたようにペタリとその場に膝をついて、手まで付いてしまう。

さすがに心配になって駆け寄る一同。

「すみません。ちょっと力が抜けただけです。」

無理に笑顔を作るでもなく、声の震えを隠そうともしない。

そんな余裕すら無くしている。

「お前は動物に見境ないな。」

誰かに同じことを言われたような?

「母に会うのは少し休んでからにしよう。」

全員を客室に座らせ温めたヤギのミルクとお湯に漬けたタオルを用意させる。

「いつ頃からだ?」

「20日程前です。」

犬達が吠え矢で追い払った。

3日ほど開け再び現れ、以降頻繁に牧場に姿を見せる。

「ここだけではありません。」

森の地域以外の中の国全域に同様の事案が確認されている。

「柵を高くして見張りを付けるか。」

通路でのメリアと執事の会話は聞こえてくる。

根本的な解決にはならないだろう。とキリは思っていた。

今すぐにでもアクゥロに会って治療を始めないと。


森の里

中の国の人々によるこの地域の名称。

中の国が「中の国」と呼ばれる以前からこの地域に暮らし

本人達は「森の国」と呼ぶ。

自治権が認められているが

「認めてもらう謂れは無い」と言い張る。

森の国は他国との政治的交流は無い。

先の大戦に限らず、召還に関する法案の整備にも無関心。

「でもそれじゃあどうしてメリアのお母さんは西の国の王様と結婚したの?」

ツグミとルメニーによるこの国の基本情報の説明の途中の質問。

「どうしてって。惚れたからじゃないのか?」

政略的な何か。では無いのだろうか。

そしてもう一つ。

メリアの母親、前王様の后。彼女はどうしてこの地にいるのか。

それを確認する前にメリアが現れ

「そろそろ行こうか。」


キリ達は毛皮のコートをそれぞれ手渡される。

「荷物は置いて行け。」

この建物にはいないのか。

「ノトさんはタクサスがそれ外さないように見張っていてください。」

小さい竜とオオカミ犬の一件であまり気付かなかったが

森を抜け、この開けた里はそれなりに寒い。

たけどこのコートは大袈裟なような?

出発すると再び森に入るがすぐに様子が違うと判る。

傾斜がある。

山を登っているようだ。

キリはまだ、メリアの母親は体調を崩し空気の綺麗な山の上で静養。

的な事だと考えていた。

態々山の上に行かずともこの世界の空気は澄んでいる事を忘れている。

歩きだしてすぐに緑が無くなる。

そして雪が目に入る。

山には斜面に沿うように歩道が整備され

しばらく同じ方向を歩き、ほぼ反対を向いて登り歩く。

開けた場所。

西の国のお城の庭園のような。

ただ緑は無く黒い岩山に白い雪。寒い。

山の中腹の広場。見下ろすと森の国が一望できる。

人の気配は無い。建物も無い。

「少し待っていてくれ。先に父の死を報告する。」

花が供えてあればキリにもそこが「墓地」だと認識したに違いない。


森の国は気温が低く遺体が土に還るにはあまりに長くかかる。

全ての遺体は火葬にされ遺灰の半分は海へ運ばれ世界を旅する。

もう半分はこの共同墓地に「撒かれる」。

きっとすぐに風に乗り何処かへ運ばれるだろう。

墓石らしきも無い。

ただただ開けた場所。

西の国でもそうだった。

遺影は無くとも肖像画ならあっても不思議ではない。

仏壇はともかく位牌的な何かしら死者を弔う「形」は一切見覚えがない。

ファミリーネームの概念が無い世界だからなのだろうか。

メリアは広場のほぼ中央に立ち、腰の鞄から小さな袋を一つ取り出し、

無造作に足元に巻いた。

そして目を閉じる。

黙祷だ。

今撒いたのはきっと父親の遺灰なのだろう。

そして彼女は今、母親と対話をしている。

この世界にも天国とかヴァルハラとか死者の集まる場所があるのだろうか。


山を降りるとラリクスが出迎える。

またもメリアを素通りしてキリに飛び掛かる。

「ぐぬぬ。」

メリアが何かしら文句を口にする前に

「メリア。帰ったなら挨拶に来なさい。」

「ぎゃっ。」

迫力あるその女性の声に驚くメリア。

声の主は森の国女王プリウム。

駆け寄るメリアとルメニーの言い訳に一切耳を貸さない。

その声はボケっと待っているキリとツグミにも聞こえる。

「異世界の者と魔女までこの森に」

歓迎されていないのはよく判った。

メリアが戻り祖母を紹介するのだが

彼女はキリとツグミに挨拶を返さなかった。

敵意、とまでは言わないが怪訝な顔を隠そうともしない。


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