迷子の青空 05
「ところでサワよ。この国の昔話を仕入れたよな。」
「ええ伝説とか物語とかイロイロ聞きましたけどね。」
けどね。
昔々、この世界は竜が支配していました。
ピータンのような大きな竜。
湖の近くで見たラプトルのような小さな竜。
世界中で多くの「竜」が闊歩していた。
この西の国は、数少ない「人の国」でした。
ある日、この西の国に「竜」の軍団が攻めてきました。
たくさんの人が襲われました。
人々は反撃して小さな竜をたくさん退治します。
大きな竜との対決は引き分けでした。
「的なお話がまずあって、それから大戦の話ですね。」
「大戦てドラゴンが死んで国が減ったとかってアレか。」
「ただ誰もその大戦の詳細を知らないんですよ。」
「これはお伽噺なんですけどね。」
赤堀サワの前振りには意味がある。
北の大陸には「暗黒竜」がいて
人と他の守護竜が協力して倒した。
人と守護竜は以来七つの国を治め
ずっと平和に暮らしました的なお話。
「それなのに大戦があったからお話の調整中みたいな?」
「うーんどれも映画化には向いているが演劇には難しいなぁ。」
月夜野アカリの目線はブレない。
「演れるか」「演れないか」
老若男女に判りやすい物語。
笑って泣ければ最高だ。
昨日披露した「守護竜と二人の王子」はとても物足りない。
泣きも笑いもなく、ただの英雄譚。
子供への読み聞かせには適していても他の世代には向かない。
この国の物語で作るか
レミーとメリアの物語を続けるか
新作ドラゴンと少女の物語にするのか
「少し王様と話てみるか。」
悩むだけではない。
解決しようとすぐに動く。
相手が「王様」だろうと躊躇も遠慮もない。
「部長って演劇バカですよね。」
「そうだな。演劇しない月夜野アカリはただの美少女だからな。」
私も相当図々しいが自分の事をここまで言わない。
呆れる赤堀サワである。
赤堀サワ
「異世界モノ作れったって、日常は何も変わらん。」
人々は日常を営む。
基本的には「守護竜」とやらのおかげで戦争がない。
冒険者が押し寄せるようなダンジョンも(少なくともこの国には)無い。
大地も海も人類にとっては豊富な食材の倉庫扱い。
毛皮が欲しいからと特定の動物を乱獲するような真似もしない
「この国の人達からは物欲を感じない。」
痴情のもつれだとか遺産争いだとか
老人介護に疲れただの育児ノイローゼでどうの
学校でハブられてイジメられて
人間関係のドロドロなんて、どこの世界でもありそうなのに。
それを演劇にすると
「自分たちの世界を蔑むだけ」のような気がして悲しくなる。
「そうだな。私はハッピーエンドが好きだ。」
「私もですよ。」
「国王からの依頼もある。今回はこの国の話をベースに膨らませよう。」
「ですねー。」
「勿論脚色はするぞ。」
ニヤリと企む部長が頼もしくも恐ろしい。
「あれ?王様は?」
「執務中ですよ。」
応対するのは魔女のオルン。
「オルンさんは王様とどんな関係なんです?」
おおうっずばり核心を付いたなと感心する赤堀サワ。
「かかかか関係って。私はただの従者に過ぎない。」
「うん?その従者てのは何をする人なんだい?」
「そっちかよ。」
赤堀サワの無意識のツッコミ。
月夜野アカリは最初から「業務上」の関係を聞いていた。
魔女オルンの話を聞く限り、その業務は「相談役」に近い。
「魔女」と訳されているがニュアンス的には知識豊富なアドバイザー。
西の地区を一時的に統治したりと実務的な権限もある。
男性であれば「賢者」と訳されていたのだろう。
「で?で?私的な部分では王様とどのようなご関係?」
部長であらせられる月夜野アカリを押し退ける赤堀サワ。
真っ赤になって無言になる賢者オルン。
「かわいいなこの人。」
赤堀サワに火が付いた。
「やるじゃんアイツ。」
何て名前だっけか。ハタオリキ?
オルンの打ち明けた一連は赤堀サワを大いに感心させる。
同時に月夜野アカリも興味を引いていた。
「王様と魔女の禁断の恋」
「王様と少年の約束」
「少年の願い」
これは使える。かもしれない。
「オルンさん。それで今どうなっているの?」
「どうって?」
「貴女と王様の今後に決まっているじゃないか。」
月夜野アカリと赤堀サワは
魔女オルンからキリが西の地区に赴いてからの流れを改めて確認した。
黒猫の「ノト」
魔女の「ツグミ」
港での人助け。貢物を寄付。
「なんだ。本人から聞いていないのか。」
「あの子喋らないんだ。」
「確かに口数は少なかったな。」
ノトとツグミのお話も使えるな。
と考えながら、あの時あの子が流した涙を茶化してもいいものかと悩む。
黒猫の中に魔女がいて。なんて話
信じようにも信じられない。
それでツグミ魔女の犯した罪は?
「あの者の罪は魔女である事。」




