迷子の青空 04
中の国、西地区、西の漁港。
その一角に西の国との交易港がある。
税関か検疫の施設かな。と予想するキリではあるが
入国審査がある筈もなくただの停泊手続き。
先発している捜査員(騎士)はメリアがその後に続くとは考えてもいない。
公式申請のない突然訪問。
歓迎の準備がしてあるでもなく、出迎えすら無い。
国賓級の重要人物の入国にしては何とも地味ではある。
が、
降り立った瞬間から人目を引いてしまう。
メリア個人に対してだけではなく、その後ろに続く者達もまた異様だからだ。
先導する凛とした見るからに気品溢れる絵本の中のお姫様。
屈強な騎士団長。キョロキョロと落ち着きの無い少女。
頭に黒猫を乗せた少年と魔女。
内二人が「竜の胸飾り」を付けている。
目立たぬ筈がない。
市場の食堂で朝食を摂りながら今後の予定を打ち合わせ。
「私は区長に会って情報収集だ。」
先発隊からの伝言があるはず。
「お前はツグミと港で話しを聞いて回ってほしい。」
メリアとしてはキリに「観光でもしていろ」と言いたいのだろう。
しかし何の他意のないこの依頼、お願い、申し入れによって
キリは再び面倒に巻き込まれ、いや自ら面倒に飛び込む事となる。
区長の元を訪れるメリア達。
国王崩御と新国王即位の「公式な伝達」を告げると
区長は哀悼の意を表すと共に、早々に中の国王都へと遣いを走らせる。
「先王にはとても厚意にしていただいた。」
中の国西地区。
東の国へ向かうにも、父は必ずこの港に立ち寄りこの区長と会談を開いた。
幼いレミーとメリアもお伴としてこの漁港を走り回っていた。
昔話もそこそこに、メリアは目的を果たそうと先発隊からの伝言を確認する。
「立ち寄ったのは確かですがすぐに発ったようです。」
捜索にあたる騎士もその後を追い既に発っている。
「それで行き先は?」
「東の国の商船に乗り込みました。」
メリアの得た情報はそこまで。
港をウロウロするキリとツグミ。
見ず知らずの人に話しを聞いて情報収集。
RPGの世界では当たり前のこの行動。
現実は人が多すぎる。そしてその殆どが無関係な人々。
NPCは情報のスピーカーではなく人格を有するリアル。
「ここは中の国の西の街だよ。」
等と答えるはずもない。
「組合に行ってみようか。」
ツグミの助言。
船乗りの集まる組合には情報が集約する。
各国の情勢から海路の天候。
実体験から噂話まで入り混じり飛び交う。
ツグミは組合と言ったが「酒場」に近い。
一仕事終えた海の男共が集いし憩いの場。
そこに飛び込む少年と黒猫と魔女。
「場違い」として見られているのは
織機キリが少年で頭に黒猫を乗せているから。ではない。
その胸の飾りに「竜」が刻まれているから。
西の国でも、この中の国でも、そして東の国でも
守護竜をモチーフにした装飾品はとても多い。
それらは家の中外問わず掛けられ置かれている。
店の看板であったり、自宅の庭のオブジェであったり。
しかし「身に纏う」のは限られた者だけ。
「守護竜の契約者」
組合長に面会を求めるようツグミはキリにそれを言わせる。
「私が言うより従うよ。」
事実、取り次いだ船乗りは小走りで組合長(店長か?)を呼ぶ。
現れた組合長に情報収集をしたい旨伝えると
彼は「その話なら聞いているよ。」と答えた。
しかしキリが得た情報もメリアのそれと殆ど変わらない。
それよりも
「失礼ながら、西の国の守護竜を癒やした勇者様でしょうか。」
また始まった。既に他国に伝わっている。
「そうだ。彼こそ守護竜の守護者キリ。」
ツグミは面白がって自慢する。
その瞬間室内は一瞬静まり返り、直後ザワつく。
「あんな少年が」
「だが噂通り黒猫を頭に載せ魔女を従えているぞ。」
「それに見ろ。竜の胸飾り。」
キリ自身が西の国の西の港で耳にした「勇者キリ」の逸話
「魔女の呪いにより暴れる守護竜を一撃でねじ伏せ」
「努めを果たせと目覚めさせた少年」
それがどうやらこの港にも伝わっている。
だからそれは誰なのかと。
「それが本当ならこの国の守護竜も救っていただけませんかね。」
中の国の守護竜アクゥロ
お救いくださいって事は具合が悪い。
組合長は冗談半分なのは、その口調でキリにも伝わっている。
勇者様ですかと尋ねた際も半笑いだった。
ツグミの紹介にも「まさか本物」とは思ってもいなかっただろう。
だが
「それで、この国の守護竜は今どこに?」
キリがその気になったのを彼は察した。
おいおいまさか本当に本物の勇者様かよ。
気付くと室内のザワつきが消え、静寂の間。
キリはその静寂すら気付かない。
興味は既にこの国の守護竜。
「おい。誰か地図を持って来い。」
大きなテーブルに中の国の地図を広げる。
周囲には組合員(船乗り)が集まり取り囲む。
「ここがこの港だ。」
ここから北東の森。そこが住処。
「詳しい場所は我々には判らない。」
つまり他に詳しい人がいる。
「森に住む者ならば。」
地図にある森。
「随分と南だ。寒い場所ですか。」
爬虫類が生息するには緯度が高すぎる。
寒冷地では体温が奪われ動きが鈍くなる。
それでも、グリーンアノールの例もある。
(異常気象の寒波を耐え、耐寒性が高くなった個体の発見)
環境に適応しようと「進化」していても不思議ではない。
身体のサイズからして自分の世界の規格にあてはまらない。
体毛の無い分皮膚が厚いとか
いやまてそもそも爬虫類ですら無いのかも?
何かしらの調整機能が備わった恒温動物なのかもしれない。
ピータンは日光浴をしていたが、体温を上げていたためではない。
紫外線により脱皮の促進や食欲増加
ビタミンD3の生成によるカルシウム吸収促進。
「この国の竜にそれが当てはまるだろうか。」




