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迷子の青空 03

「馬は繊細で人の表情とか声に反応します。」

キリ君が言っていた。苗字は忘れた。

彼はいつも動物と一緒だった。

いきなり牛の出産とか手伝って、

移動の休憩は馬の世話をして、

お城では猫に登られていた。

私も「この子はドクタードリトル?」と本気で考えた。

部長と話しているあの子に聞いたら

「言葉なんて判りません。」

「ただ馬は繊細で人の表情とか声に反応します。」

「だから笑顔で穏やかに話しかけているだけです。」

それだけ言うとプイと行ってしまった。

変な子だ。動物と話すときにしか笑わない。

吉岡ハルナは、知らぬ間に笑顔になっていた。

「こんにちはお馬さん。よろしくね。」


高い。怖い。強張る。

「仕立屋、顔を上げろ。そして前を見ろ。」

手綱を握りしめ、怖くて俯いていた吉岡ハルナが顔を上げる。

広がる風景。

開けた視界に見える非日常の世界。日常の異世界。

暖かくて、少し冷たい風は

吉岡ハルナから恐怖心を攫って吹きぬけた。


馬上の吉岡ハルナを見守る月夜野アカリと赤堀サワ。

「まあ今のところ運動音痴とかはあまり関係なさそうですね。」

「うん?彼女は多分運動神経いいぞ。」

「ええ?私中学のハルナ知っていますけど言っちゃアレだけど酷いですよ。」

50m10秒は夢のタイム。

幅跳び3m届かないとか小学生か。

「仕立屋は余計な部分に力が入っているタイプの運動音痴だろうな。」

「判るんすか?」

「体幹トレで何となくね。」

おそらく小さい頃の最初のとっかかりで苦手意識が植え付けられた。

それからずっと、身体を動かそうとすると強張る。

緊張して固くなるから余計に動けなくなる。

「どんな競技でもそうだろ?」

トラウマを取っ払うのは難しい。

リラックスさせてしまえばその必要もなくなる。

「体育の時間、教師から指導を受けた覚えはある?」

「そういや無いですね。」

学校の先生は「下手でもいいからやってみなさい」と言うだけ。

正しい身体の動かし方は部活にでも入らないと教わらない。

走り方も、泳ぎ方も、投げ方も、蹴り方も。

「私ボール投げるの下手でさ。」

中一の時ハンドボール投げで10mも飛ばなくて

「投げ方変だよって笑われて。」

実際無茶苦茶な投げ方していて、それが滅茶苦茶悔しくて。

野球やってた男子とっ捕まえて

「野球とは投げ方違うとかぬかしやがったから」

「その違い教えろって。」

ボールの大きさが違うだろって呆れられたけど

遠くに投げる事に関してだけ言えば基本動作は同じだって気付いた。

体重移動とそれに合わせた腕の振り。

そのためには足腰の強化とバランス。

「それきっかけで体幹トレ始めたんだ。」

スクワット、ランジジャンプから始まって

大きく腕を振って関節の可動域を広げたり

動画見て研究もした。

「中二で18m飛ばしたった。」

走り方も、泳ぎ方も上手い奴から教わった。

教わる恥ずかしさより、出来ずに悔しいのが嫌だった。


「運動音痴」を言い訳に身体を動かさなかった吉岡ハルナ。

基礎体力が致命的に少ない。

剣?木刀?枝なら何とか持てます。

「腕立てからだな。」

と月夜野アカリのアドバイス。

この世界にも「筋力トレーニング」はあるようで

腕立て伏せもある。

「やったことないです。」

やりたくもなかった。

「うん。私がやってみよう。」

部長月夜野アカリ。

当たり前のように、脚を伸ばしての見本。

「イメージ的には身体を伸ばしたまま下ろす。」

「地面を押すように上げる。」

簡単に言って簡単にやってのける。が

当然無理。

「それじゃ膝をついて。お腹から降りるような意識で。」

「お尻を上げない。」

「いいぞ。綺麗なフォームだ。」

「ホントだ。綺麗な土下座だ。」

赤堀サワの軽口に笑いそうになる。それでも「なにくそ」と意気込むが

三回でバテる。

「綺麗な土下座だったぞ。」

「仕立屋は毎日の部活に腕立てとスクワットを追加しよう。」

「ひぃっ」


演劇部員は西地区に足を踏み入れていない。

織機キリ曰く

「西地区は倉庫でした。」

「食事は「滾る小魚亭」をお薦めします。」

海岸はあるが、海水浴が出来るほどの海水温ではない。

物流の出入り口の機能は果たすものの

観光資源はない。

この国でもっとも人が集まるのは「中央街」。

各地を巡る「巡業公演」。

と言われたが、

1、中央街に拠点を置き、そこから各地を巡る。

2,王都から西地区へ向かい順番に各地を巡る。

3,王都の漁港から海路を用いて西地区へ向かい

  西地区から東の王都まで順番に巡る。

「そう言えば王様。王都なのに漁港しか無いのはどうして?」

「レミーと呼んでくれて構わない。」

王都に貿易港の無い理由はひとつ。

「必要ないから。」

「外交とか貿易に支障は?」

「うん?おかしな質問だな。」

外交の特使はそこが漁港だろうと問題ない。

貿易に関しては、国を発展させるには人と物の流れを活発にしなければならない。

王都に貿易港を作れば富が集中してしまう。

「王都近郊は大地の恵みに溢れている。」

ああそうか

月夜野アカリはその真意に気付く。

あの鉱石とやらの流出防止か。


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