迷子の青空 06
「あまり日が無いからな。アウトラインから皆で作ろう。」
大筋は「守護竜と二人の王子」。
それをより「史実」に寄せる。
「史実って?」
「あの野郎を英雄に仕立てあげる。」
あの野郎
「織機キリ。小憎らしいあの小僧。」
ディスカッションを始めてすぐ
「演劇部員」の出番をどうするかで揉めた。
ハリボテを作成し、王都の漁港で戦ったのは紛れもなく「演劇部員」。
「私は、それは違うと思う。」
月夜野アカリではない。倉渕ミサトの発言。
「演劇部員としてこの演劇で名が売れるならいいけど。」
救世主だとか英雄だとかで「演劇部」が語られるのは違うだろう。と言った。
さすが演劇部唯一の良識派。
「ぶ会計の言うことはもっともだと俺も思う。」
笠懸ヒサシ。
「ぶて何だ。」
「(無視して)俺としてはその演技さえも公演に取り込めたら凄いと思う。」
ややこしい話ではある。
月夜野アカリの演じたメリアを演じろと言っている。
月夜野アカリ「個人」としては倉渕ミサトに賛同する。
しかし「部長」としては演劇部員達の活躍も描きたい。
史実と言うからには事実に基づくべきなのだろうが。
「ハタオリキ?あの子って結局何したんです?」
「あードラゴンの治療?」
それ以外は何をした?
そもそもどうして勇者扱い?
「それはアレだ。この世界に来てすぐに私がそう言っちゃったから。」
「なんだ部長の所為かよ。」
「その部分はどうします?」
偽物勇者が世界を救う話とかどんなラノベだよ。と。
「勇者になるような逸話が欲しいですね。」
牛の出産手伝ったとか猫と戯れたとか
「動物には見境ないな。」
ただそれらをどう取り繕っても
「ただのムツ○ロウさんじゃねえかっ。」
と月夜野アカリが匙を投げる。
「あのー。」
吉岡ハルナが手を挙げる。
「魔女のオルンさんに衣装の事聞きに行ったときにちょっと話をしたんですけど。」
「前置きはいい。何だ仕立屋。」
「あ、はい。あのですね、キリ君の伝説というか逸話がありまして。」
魔女の呪いにより暴れる守護竜を一撃でねじ伏せ
守護竜に務めを果たせと説教をかまし目覚めさせた少年。
「どうやら村での一件とこっちのドラゴンの件が混ざったようだな。」
「メリアも鼻っ面引っ叩いたとか言っていたな。」
「すげぇな本物のドラゴンに喧嘩売ったのかよ。」
突如現れた炎を吐く竜
勇者キリは、炎を掻い潜り一撃で竜を倒す。
「一撃はダメだ。仲間と協力して。と加えよう。」
「いいのか?」
噂を聞き付け城から遣い。
メリア「どうか我が守護竜を癒やしてもらえないだろうか。」
「竜を倒した相手に治せってのも強引なような?」
その頃、西の地区に敵の報せ。
王子レミーは騎士を引き連れ西へ。
「順番的にレミーを最初に西に行かせようか。」
「オープニングとしては地味になりますね。」
「観客の不安を煽るようにすればいい。」
青空に偉大な守護竜を見なくなったのはいつからだろう。
王子レミーが騎士を連れ西の街へと赴いたのは
異国からの不穏な船の報せを受けたからだった。
「いいね。それでいこう。そこから村の話に繋げる。」
メリアがピータンの治療を依頼して
その間に敵国が王都に侵攻してくる。
キリはピータンの治療に専念。
仲間たちは防衛の手伝い。
「このあたりの表現は気を付けないとな。」
「部員登場させるのか?」
「私達は、演劇部員達は誰かの台詞にのみ登場する。」
「自分達で自分達を演じるのは止めよう。」
ピータンの治療を終えたキリ
竜は大空に舞った。
敵の侵攻。王都の港に矢の雨が降る。
カタパルトによる防衛。
キリと、その仲間たちも港に立つが
その勢いを止められない。
その時、青空を切り裂く影。
「このあたりの演出を派手に頼むぞアヅマ。」
当たり前のように、月夜野アカリは名を呼ぶ。
吾妻アヅマはいない。
「あのバカ。こんな面白い公演サボるとかあり得ねぇ。」
憤る道具屋。
「どうしますか?」
「私がやるよ。」
「あんたメリア姫でしょ。私がドラゴンの中からするわよ。」
「いえ。私がやります。役的には私しかいません。」
赤堀サワ。ナレーションによる進行役
インカム装着で手元は開く。
「インカム?地方公演では使えないだろ。」
月夜野アカリは赤堀サワを
「説明的な台詞を言う娘」
の役として出演させるつもりでいた。
「インカム無かったらどうやって大きな声出すんですか。」
「自前に決まってる。」
押し潰されそうだった。
自分で「やる」とは言ったが、他に誰も出来そうにないからだ。
演劇を見て演劇をしたくて演劇部に入った。
姉に連れられて見た高校の文化祭。
ヴァンパイアとお姫様が恋に落ちて駆け落ちするお話。
「主役の二人が恐ろしく素敵で。お姫様なんて本当にお姫様で。」
「ヴァンパイアの人なんてもう。」
それなりにレベルの高い高校だったが
演劇部に入りたくて、ただそれだけで受験勉強に励んだ。
そしていざ演劇部の戸を叩く。
「あー、それ知っているけどその人達帰宅部だよ。」
「なんだと。」
当時、頼代高校に演劇部はなく、
帰宅部員達のその公演を見た「他の生徒達」が「演劇部」を立ち上げた。
「何だその伝説。」
あの日演劇に興味を持って、中学時代にシェイクスピアを読んだ。
面白かったが地名とか人名とか面倒で自分で改編して楽しんだ。
こうしてああして、舞台も人も現代風にアレンジしまくって、
ハルナに読ませたら「面白い」と言ってくれた。
だから二人(ハルナは嫌がったが)揃って入学二日目に入部した。
まだ一週間だ。
まだたったの一週間。
私は演劇なんてやった事がない。
シナリオなんて脚本なんて書いた事ないのに。
「赤堀サワ。」
月夜野アカリの呼び声に
殆ど泣きそうな赤堀サワが顔を上げる。
「演劇部に不可能なんて無いんだよ。」




