迷子の青空 07
その日の夜に「中の国」西の街から出港。
森へと向かう運河入り口には夜明け前に到着する。
船は運河に連接された港に停泊し夜明けを待つ。
キリはこの国のドラゴンに会いたいとメリアに告げる。
「話は判った。ただ母には会ってほしい。」
この国の守護竜「アクゥロ」は森の中にいる。
メリアの母はその森に暮らす。
夜明けを待ち港で運河に進入する手続きを行う。
キリがそれを尋ねると
「港はこの国の管轄だが運河の所有者は森の住民だからな。」
キリ達の乗る船ではその大きさから運河への進入は出来ず
運河を遡り森の国へ行くには船を乗り換える必要がある。
水上バスがある筈もなく船をレンタルするか
森に向かう船に同乗を依頼する。
今回メリアは区の責任者に話を通し漁船を借り入れた。
森の住民
南の大陸の先住民。
守護竜によって国が分けられる前からその地区で暮らす民族。
「運河」と訳されているのは
それが森の住民の手による建造物だから。
森の住民は運河を利用し海に出て漁をする。
原則として、この運河の利用は森の住民に限られるのだが
近隣の「中の国」の住民が運河を水路として利用することを認めている。
港はその近隣住民によって作られた共同漁港。
中の国国民が運河を登り「森」に入る事はない。
森の住民は積極的に中の国の住民と交流しようとしない。
拒んではいないが受け入れてもいない。
森に手を出さない限り「敵対はしない」スタンス。
その生活環境の恩恵と言えるのだろうか、
決して好戦的ではないが森での戦闘能力は高い。
メリアはキリに事前情報として説明する。
つまり、他所者には厳しいと伝えている。
整備された水路。
海への流れに逆いゆっくりと遡上する。
小舟とすれ違う。
甲板のキリは、ずっと気にしていた違和感をようやく解決する。
レミーとメリアが西の国で「浮いて」いたように感じたのは
風格だとか威厳だとか王族だからだけではない。
その風貌からして地理的な要因による容姿の相違が見受けられる。
髪の色は西の国の殆どの住民は「黒」か濃い「茶」
レミーとメリアのような明るいクリーム色を二人以外に見た事は無い。
「ファンタジーの世界の王子様とお姫様」
的な非現実感が高かったのだが
すれ違った小舟に乗る者はそのメリアやレミーと同じ髪の色。
程無く木々の種類が変わる。
針葉樹
亜寒帯地方のようだ。
ツンドラよりもタイガに近いのかな。
ロシアであるとかカナダであるとか。北欧とか?
空気が冷たくなる。寒く、少し痛い。
運河はやがて蛇行を始め「川」へと繋がる。
民家が無くなり、広大な景色が川の両側に広がっている。
懐かしいような。見たことも無いような。
草原と、森と、湖と、遠くに雪山が連なる。
これで鹿の親子でも現れたらきっと「夢」に違いない。
と思って眺めていると
「白熊?のような犬?」
桟橋に船を着けるが人影は無い。
人の気配こそ無いものの船はいくつか繋がれているので生活感はある。
案内板があるでもなく、ただ草の生えていない場所が「道」なのだろう。
「少し寒いですね。上着持ってくれば良かったかな。」
「心配するな。森の中は寒くないから。」
陽が当たらないから寒いような気がするけど。
「さあ行こうか。」
とメリアが促したその時だった。
向かう先の道から大きな獣が二匹駆け寄る。いや突進してくる。
騎士団長が剣に手をかける。
「いや、いい。」
メリアは笑顔でそれを制する。
「あれは迎えだ。」
「白熊?のような犬?」
オオカミのような、ハスキー犬のような。
サイズ的には二回りほど大きいだろうか。
キリが「面白い」と思ったのはそのサイズではなく、
「柴犬とか秋田犬とか出て来たらほのぼのしたのに」
ゴールデンやラブラドールでもない。
「耐寒」が進化や適応の条件ならサモエドやコーギーでも有り得た筈だ。と。
何処かの部長の言い草ではないが「ファンタジー丸出し」だ。
両手を広げ出迎える気満々のメリアの後ろでニヤニヤしながら妄想していると
どうした事か
二頭の巨大なオオカミ犬はメリアを素通りし
キリに襲いかかるっ
頭の上のノトは慌て飛び降りツグミに抱きつき事なきを得るのだが
貧弱少年はその体当たりを受け止めきれず二転三転。
その上から覆いかぶさるように襲いかかる獣達。
が誰も助けようとしない。
尻尾を千切れ飛びそうなほど振りまくって
牙を剥くかわりにダバダバとキリの顔を舐めまくって
どう見ても「戯れている」ようにしか見えない。
スルーされたメリアの呆気にとられた顔が
やがて嫉妬に燃えるとそれが怖かった。
「タクサス!ラリクス!」
メリアの声に、二頭の巨大なオオカミ犬はようやくキリから離れ「お座り」をする。
「川で洗ってこい。」
ベッタベタであろうキリにメリアは勧める。のだが
手が痛くなるほど冷たい川の水。
「ひぃ。」
それでも他に方法が無いのだろうとキリは顔を洗う。
メリアはそれを見て溜飲を下げる。
「メリア様も意地の悪い。船にお湯があるのに。」
「ふん。」




