表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
羽撃く者達の世界 ~演劇部異世界公演~  作者: かなみち のに
第一幕 「羽撃け、友よ。」
30/181

「羽撃け、友よ。」 30

メリアは侍女ルメニーと魔女オルンと同室。

キリは護衛の3人の騎士と同室。

年齢は全員キリより上だがそれぞれ異なる。

互いに殆ど会話をしない。

移動中はお姫様のメリアを護衛する。

彼らがキリと接するのは夕食後から就寝まで。

この日も必要以外の会話は無い。

つまり無言。

そこへ黒猫のノトが現れる。

「オルンさんと一緒の部屋じゃなくていいの?」

「アイツらとは話せない。」

キリにとっては最早日常的な「雑談」。

だが騎士は違う。

猫は「ニャア」と鳴き、少年が1人喋っている。

毛づくろいをし、時に伸びて誰がどう見ても黒猫。

騎士の一人がキリに訊ねる。

「君は、本当に猫の言葉が判るのか?」

その疑問に反応したのは黒猫のノト。

「コイツは剣の大隊長。アッチは弓、ソッチは素手。」

ノトの言うまま騎士に伝える。

この程度の情報であればお姫雅に聞けば判る筈だ。

だが騎士達はそれ以上疑わなかった。

メリアの客人扱いであるのと同時に

彼がピータンを癒し、その背に乗って現れた事実は

キリが思っている以上に尊敬の対象となっていた。


正確な翻訳が成されているのか怪しいのだが

三人の騎士はキリに口止めを強く約束させて、

メリアを「じゃじゃ馬」と称した。

幼い頃は兄の後を常に追い掛け

兄が剣を振ると妹も何処からか枝を拾い振る。

兄が弓を引けば妹は矢を投げた。

見兼ねた父親はとうとう娘を兄の横に並べる。

その妹がたった一つ兄の真似をしなかった。

読書

「理由と言うか本人なりの言い訳はある。」

騎士達は顔を見合わせ笑いながら言った。

「本は母が読む物だから。」

子にとって本は「読まれる」物で「読まされる」物ではないらしい。

その時間彼女は馬に乗り、野を駆ける。


王は頻繁に各地を巡り、国の情勢を常に把握しようと努めた。

レミーとメリアも同伴するのだが

父親の執務中に面倒を起こすのは決まってメリア。

見張り役を任せられた三人の騎士は

「事前に防ごう」とは試みるのだが結局毎回「事後処理」に追われてしまう。

メリアが「兄離れ」をするのは、

王が娘を守護竜に紹介した日からだった。

父親の足元の影に隠れながらの初対面。

姿を現した偉大な生物に、少女は一瞬で虜になった。

騎士たちは目を細め語る。

守護竜に何か吹き込まれたのか

それぞれの修練はそれまで以上に励み

その実力はそれぞれの騎士から

「騎士として戦える」

と言わしめた。


幼い頃のお姫様の「おはなし」で夜更かししたため

この日も朝の日差しに目覚める事は叶わなかった。

習慣だろう、キリが目覚める頃には三人の騎士たちはすっかり身支度を整えている。

「遅いぞ。」

外にはメリアが弓と矢を持ち待ち構えている。

ついニヤニヤしてしまうのを見られぬよ顔を逸らすキリに

「嫌なら無理強いはしないぞ。だがお前のために」

「判っています。ごめんなさい。やりましょう。お願いします。」

「うん。」

ずっと指導される側だったメリアは

キリとのこの関係性を楽しんでいた。

理由こそ判らなかったが、キリはメリアが楽しんでいるのを察した。

弓の扱いなんてこの先役に立つ事はないだろうと思いながらも

朝食までのひととき

眼の前の「女の子」を失望させないようにと真剣に取り組んだ。


とっくに身支度を整えた騎士団長がアヅマを起こす。

いつもなら誰かに起こされ不機嫌になる。

今朝も、そうなりかけた。

自ら布団をはがし

「よろしくお願いします。」

自らを奮い立たせる。

ゲームの中ではない。でも異世界には違いがない。

リアルで馬に乗る機会なんてない。

ここは異世界、知り合いに笑われる事もない。

演劇部の連中に何を言われようが慣れた。

運動音痴で体育が大嫌いで

「お前は何もするな」と言われ続けたクラス対抗の球技大会。

画面の前なら誰の邪魔にならない。


馬の背に跨る事から始める。

これくらい。と思うだろうが

大柄な騎士団長用に調整された馬具。

月夜野アカリより低いその身長の彼には遠い背中。

何とか乗り込んでもいきなり常歩には進めない。

「真っ直ぐに。」

止まった馬の上での姿勢から正される。

浅く腰掛け仰向けに近い状態か

深く腰掛け猫背になるかの日常生活。

初日はこの姿勢だけで終わる。

とっとと暴れん坊将軍のようにパッカパッカ走りたい。

自転車に乗るように馬を操りリたい。

止まった馬に乗っただけ。

それでも、

「焦るな。正しい姿勢を維持しなければ思う通りには乗りこなせない。」

馬には乗った。一歩も踏み出してはいないが、一歩進んだ。

騎士団長の馬具を外し、馬車を繋ぐ。

アヅマはそれを手伝いたいのだが何をどうしているのか判らない。

画面の中ではこんな作業しない。

「せめてグーグルだけでも繋がれば。」


危なかっしい馬の扱いを横目に

部長月夜野アカリと新入部員の二人、赤堀サワと吉岡ハルナは外で身体を動かす。

ストレッチからはじめ

体幹トレーニング

筋トレまで。

「演劇部員こそ身体を鍛えるべき。」

道具屋笠懸ヒサシは演劇部無関係に身体を動かす。

会計倉渕ミサトは

「お腹空くから今日はお休み。」

昨日も一昨日もその前も、明日も明後日も同じことを言うだろう。

若宮アオバも外にいる。

彼も身体を動かしていたのだがストレッチの段階で力尽きる。

朝食は「豪華絢爛」とは言えない。

昨夜と殆ど同じメニュー。

「全然足りない。」

口には出さないが顔には出る倉渕ミサト。

「これ、いいよ。」

と皿を渡すのは若宮アオバ。

「ありがと。アンタもっと食べなさい。」

と言いつつも皿を受け取る食いしん坊。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ