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羽撃く者達の世界 ~演劇部異世界公演~  作者: かなみち のに
第一幕 「羽撃け、友よ。」
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「羽撃け、友よ。」 29

当然、演劇部員達に狩猟の経験はない。

騎士はそれを知らない。

この国の子供達がそうするように

小さい頃に「狩を学ぶ」のだろうと勝手に決め付けていた。

やれやれ仕方ない。一人で行くか。

「保存食はあるのか?」

管理人に聞くと「あります」

他の施設利用者の余剰食材。

天候不順や到着の遅れた者に提供するためだ。

「あの、狩りって弓ですか?」

オタ師匠吾妻アヅマ。

狩猟とは最も縁遠くかけ離れた引き篭もり。

モンハンと現実は違うぞ。


騎士団長はアヅマを後ろに乗せ、

丘を超え湖のほとりへ。そこから歩き、近くの林へ。

狙うは狩猟鳥

馬上からではなく、地上から狙える。

弓と矢。

勧誘式で演じる筈だった役は「弓の名手」

校内での弓矢の使用は許可が下りなかったのだが

それでもずっと1人で練習。

していない。

しようとは思ったが、していない。

何もしていない。

いや、ゲームの世界では事実「弓の名手」としてそれなりに有名。

「あれも異世界。これも異世界。」

だがアヅマよ。チート機能はないぞ。

自動照準も自動追尾も自動装填もないのだぞ。


「演劇部に不可能はないっ。はどうした。」

「女性は狩りをしないの。」

道具屋と部長のやりとりを聞いた騎士は

「メリア姫様の腕前は私より上だ。」

男女関係ないようだ。

「まあ今日のところはアヅマに期待しよう。」

保存食もある。

「では皆さんは川に行きましょう。」

道具はある。餌もある。

殆ど釣堀状態の養殖魚。

釣れないわけがない。のだが

女子高生が4人もいたら

靴と靴下脱いで漁場を荒らすしかする事はない。


アヅマは収穫なし。

騎士団長がさすがの腕前。二羽。

「初心者が簡単に捕れるものではない。」

慰められると余計惨めになる。

釣果に至っては言うに及ばず。

散々荒らした後では魚達も出てこない。

食卓には保存されていた鹿肉や魚の干物。

メインは豆類。野菜のスープ。

充分贅沢な食卓。

「お米食べたいわ。」

「それには賛成する。」

倉渕ミサトの愚痴に笠懸ヒサシも賛同。

食事が終わり片付け、男女分かれた部屋割り。

止めとけばいいのに

「明日、馬の乗り方を教えていただけませんか。」

引篭りでコミニケーションが苦手なアヅマ

他の部員が知れば「あのアヅマが」のアヅマが騎士団長に頼み込む。


「それで獲物は?」

「今焼いています。」

解した身を皿の上に乗せ、黒猫のノトに与える。

「これを矢で獲ったのか?凄いな。」

「見ていたくせに。」

キリは弓矢の扱いを早々に諦め、湖で釣り糸を垂らしていた。

川からの流れ込みを人の手で整備した人造湖。

イワナやアユ、トラウト、サーモンに似た魚がいる。

「釣果はどうだ?」

狩りに合流したメリアが戻る。

「散々でした。」


湖の先には再び川が流れ、林の奥へと続く。

幸運だったのは、目線がそちらに向いていたことだった。

最初に糸を落としてすぐに一匹釣れた。

だがその後ピクリとも当たらず、飽きた黒猫が少年の脇で丸まろうとした時だった。

気配ではなく、湖の向こうの「音」に反応した。

狩りは、湖から脇に伸びる道の先。

方向が異なる。声が聞こえるなら右手からだ。

身体を起こし、その「音」の正体を見る。

林の中で、黒い影が揺れた。


黒猫ノトは、少年の前に立つ。

「どうかしましたか?」

と聞いたその瞬間、

林の中から、川に一頭の熊。

5m以上は離れていただろう。

それでも、「野生の熊」をこれほど近くで見たことはない。

キリの世界で言う若いヒグマ。多分。

やばい。やばい。やばい。

黒猫が威嚇しようとする前に慌てて抱きかかえる。

小さい声で、熊に聞こえないように。

「静かにしてください。」

この距離ならまだ大丈夫。

魚を取りに現れただけだ。

慌てて走って逃げて追われたら最悪だ。

キリは静かに立ち上がる。

だが熊はこちらを見た。見付かってしまった。

「私を放せ。囮になるからお前は走れ。」

「ダメです。しーっ。囮なら僕がなりますから静かに。」

熊はその見た目に似合わず速い。

逃げる獲物を追う習性もある。

直接目を合わせず、チラチラと脇目で確認しながらゆっくりと後退る。

ある程度距離が取れれば興味を無くす筈だ。


後ずさりするキリの背後から、彼を呼ぶ声がした。

熊にもその声が届いたのだろう。林へと消える。

「助かった。」

腰を抜かすようにその場にへたってしまうキリ。

声をかけたのは、魔女のオルン。

「そろそろ釣れたかな少年。」

「助かりました。」

「うん?」

「ノトさんもありがとう。でも熊と戦おうとか無茶ですよ。」

「熊?何処だ。」

魔女のオルンが身構える。

「ああ、いえ。どうやら貴女に恐れをなして逃げたようです。」

「え?そうなの?」



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