「羽撃け、友よ。」 31
もう一度(キリには違いが判らないほど似た)宿泊施設に到着。
「狩りに行かなくてもいいが弓の練習はしろよ。」
メリアに何のために。と問い質す前に
「姫様、今日は狩りの必要はありません。」
昨日帰郷の途に寄った騎士達一行。
「明日姫様がこの施設に寄るだろう。」
来ると判って何もしない管理人ではなかった。
朝から狩りに出掛け収穫を得ていた。
「そうか。では今日は弓の修練に集中できるな。」
メリアはとても嬉しそうだ。
馬を引き馬屋へと
施設の管理人と騎士の一人が何やら話していた。
メリアが様子を確認しようと声をかける。
「どうした。何か問題か?」
二人は一頭の馬の前にいた。
その馬は落ち着き無く、せわしなく動くが暴れるほどではない。
「この子の食事はありますか?」
キリが歩み寄る。
管理人は脇の桶から人参を一本取りキリに渡す。
キリはそれを馬の眼の前に出しながら声をかける。
「何処か痛いの?」
声をかけながら、ゆっくりと近寄り、肩を撫で、首を撫でる。
人参を与えながら馬全体を見る。気にしているのは足元だ。
何かいるのか、あるのか。
キリは自分の足で足元を踏んで確認するが何もない。
「いつからですか?」
「え?ああ昼間狩りに行った時は何でもなかった。」
「すみません。ちょっと抑えていただけますか。」
三人の騎士と管理人が手綱を取り、いつでも体重を掛けられるように準備する。
「女性の皆さんは少し下がっていてください。」
緊張
「ちょっと、ごめんね。」
キリは気にしている足に触れる。
馬は、嫌がり、身をよじらせるが、四人の男共が何とか抑える。
「軽い炎症を起こしているかと。」
少し「腫れ」が確認できた。「張り」と言われればそうかも知れない。
初期の屈腱炎。診察では診断されないかも知れない軽度。
触診でも判らない程度。
二、三日安静にしてその後もしばらくは早駆けをさせない。
冷やせるよゔてあれば冷やす。
「布を水で絞って巻いてあげてください。」
「判りました。」
ワカリマシタ。と言った。敬語だ。こんな小僧に向かって大人が。
二、三日は狩りに行けない。だが本来管理人は狩りに行かない。
来賓を饗そうと張り切ったからこその馬の疲労。
「君は本当に何者なんだ。」
魔女オルンはずっとただの男子高校生を不審者扱い。
「だから言っただろう。キリは動物の言葉が判るんだ。」
メリアは得意になって自慢する。
足元にネズミでもいたか
枝でも踏んで刺さったか
それらの可能性を一つずつ排除して導きだした憶測。
ドラゴンにしても、牛の出産も。
ただただ知っていただけ。
医療行為と呼べる事は何もしていない。
僕にはそんな資格はない。
動物の言葉なんて判らない。判ったら、救えたのに。
馬車は街の入口で止められる。
この先馬の乗り入れは荷馬車のみとなり
徒歩で馬を引く事が定められている。
その大きな馬屋を見ただけで
この街がどれほどの規模なのかが伺える。
「王都より栄えている。」
それが演劇部員全員の第一印象。
「この街は一番の商業地だ。」
王都で見た地図ではその街は地図の中央付近の大きな印。
小さな宿場町から、やがて大きな街へと発展したのだが
何故この街が「そうなったのか」は演劇部員達には知りようがない。
雑踏。
テレビやネットで見た「欧州の市場」に近い。
商店が整然と立ち並ぶが人の流れとは関係ない。
色鮮やかな食材の数々が並ぶ道。
料理の乗ったテーブルが並ぶ道。
金物屋の通りには調理器具から武具防具、馬具農機具まで。
街は賑わい、活気に溢れている。
騎士の集まる駐屯地に赴くと
「姫達もこちらに向かっている。翌日には到着するだろう。」
と確認がとれた。
騎士団長は、レミーから
「メリアも西に行く。」
とは聞いていた。
異世界の少年と無事合流しこちらに向かっていると判ると
心の底から安堵した。
「ええそうです。勇者キリ。彼も守護竜に乗り現れました。」
なるぼと。既に触れ回る必要もないだろう。
この街では「守護竜の復活」は既に知れ渡っている。
「それでも演劇をするか?」
「当然。私達は演劇部ですから。」
やれやれと他の演劇部員が思ったのも事実。
だが「そうこなくちゃ」と奮い立ったのも事実。
この数日停滞している流通が動き出すと騎士達から聞き、
翌日には久しぶりにメリア姫が訪問されると知ったからこそ
街は賑わい活気に満ちている。
「観光してショッピングが先だな。」
月夜野アカリは悪戯っ子のように笑う。
王子様から預かった旅の軍資金を皆に分け
「どの程度の貨幣価値なのか判らないけど。」
何かお土産を買って元の世界に持ち帰ろうと言った。
「I ♡ 異世界のTシャツあるかな。」
「異世界提灯とか。」
「異世界タペストリー。」
「木彫りの熊とか売ってたら買う?買うでしょ。」
「木刀だ木刀。」
「生八つ橋っ」
「京都か?ここは京都なのか?」
「まあ京都だって異世界みたいな所だからな。」




