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羽撃く者達の世界 ~演劇部異世界公演~  作者: かなみち のに
第一幕 「羽撃け、友よ。」
14/181

「羽撃け、友よ。」 14

ハリボテの設置は騎士団長が指示する。

メリアお姫様は街の住民を城内へと避難させる。

彼女は「戦場の指揮」を執るつもりでいた。

だが月夜野アカリが誰よりも早くそれを察し、止めた。

「国民を守るのがお姫様の役目ですよ。」

「だからこそ先頭に立ち戦う。」

「それは違いますよお姫様。」

月夜野アカリは、静かに諭すように、脅す。

「戦うのは兵士の役目。」

隣に立つ騎士団長が膝を折る。

「どうかメリア姫。民をお導きください。」

父が、兄がいたなら、率先していただろう。

戦場は二人に任せ、民の守護に専念する。

だが二人はいない。

「私が守らなければならない。」

「だからこそですよ。」

月夜野アカリの覚悟は、はたして「演技」なのだろうか。

「港が落ちたら、国民を守るのは姫様しかいません。」


「準備が整ったら皆は城へ下がれ。」

騎士団長は、どやうら責任者の月夜野アカリに礼を述べた。

「綺麗な海ね。」

目の前には漁港がある。その先に広がる海。

風は静かに海から陸へと流れ、彼女の髪を撫でる。

やがて戦火に包まれるなんて信じられない穏やかな凪。

いつもなら、もっと早くから漁に出ているのだろう。

「もう少し海を見ているわ。危なくなったら逃げるから。」

漁船は帆が畳まれ全て岸に繋がれている。

少なからず、上陸の妨げになるだろう。

遠くの海から煙が見える。

哨戒に出た船からの合図。

「来たか。」

騎士団長の一言に空気の色が変わる。

ガラガラと騒音以上轟音未満。

二台の投石器

「こっちもカタパルトか。」

道具屋は、この時始めて「戦争」を実感したと言った。

煙を吐きながら小船は漁港を通り抜ける。

しばしの静寂。

そして聞こえるワーグナー「ワルキューレの騎行」

「止めろオタ野郎っ」

「俺じゃないっ」

道具屋だった。


静かに、整然と、秩序を持って現れる軍船。

三本のマスト。「シップ」と呼ばれる帆船。

漁船や哨戒船とはそのサイズも質も全く別の乗り物。

演劇部員全員の頭の中にワルキューレの騎行が流れて止まない。

三隻編成

三編小隊

三個連隊

漁港に迫る。

「今更なんだけど。」

道具屋の懸念は的中する。

「コレ(ハリボテドラゴン)って、的じゃね?」

この世界に、火薬を使った砲撃があったなら

演劇部員達はこの瞬間吹き飛んでいただろう。

この世界で「戦争の兵器」の開発が遅れているたった一つの要因は

「守護竜」

各国に各竜。それは全ての敵からの防衛。

「それに、本物が治ったならコレ(ハリボテドラゴン)は要らなくね?」

「嘆くな。本物は今朝彼方へ消えた。あてにならん。」

騎士団長。ではない。

騎士団長風に、その演技をしたのは演劇部部長。


漁港の、水揚げ場のその奥の市場。

ハリボテはその小屋の上に設置されている。

騎士団長は

「異世界の者達は下がれ。弓の射程にはいる。」

迫り来る軍船。

騎士団長の目測通り、最初の矢が飛ぶ。

「距離を測った」

直後、一斉掃射。

狙われるのはハリボテのドラゴン。

「守護竜は弱っている」

その情報が間違いではないと、相手は確信する。

これだけの矢を受けて、

偉大で尊大な生物が飛び立たない。

「狙いはピータン」

「先刻承知。」

騎士団長が手を挙げる。

カタパルトから放たれた最初の岩は、軍船の帆を切り裂く。

もう一台からの岩は見事船体を打ち砕いた。

沈む船と、海に投げ出される人々。

それでも、進軍は止まらない。

M2を台車で運んで掃射したらボスも雑魚も瞬殺ですよ。

M870とかM1300とまでは言いません。

M10なんてもっての外です。

マーティン・リッグスやジョン・マクレーンのM9をください。

ハリー・キャラハンのM29であるとか。。

いやいやM60で構いませんから

道具屋の神頼みは届かない。


凄惨な光景は、それを現実と受け止められない。

これは映画だ。自分は観客だ。

最悪、撮影現場に潜り込んでしまっただけだ。

女子部員は悲鳴をあげる。

副部長は泣きながらその女子部員を庇う。

降り注ぐ矢の雨。

月夜野アカリは立ち上がる。

「私達は演劇部だ。」

「だからって何が出来るって言うんですか。」

「演劇部に不可能はないっ。」

部長は自らを奮い立たせ

制服を脱ぎ捨てる。

王族の衣装と

クリーム色の長いウイッグ

メリア。

彼女は、ハリボテの前に歩み出る

「危ないって。」

「ちょっと何やってるのっ」

ピンマイクはブルートゥースでパソコンへ。

そしてドラゴンのスピーカー

「よく聞け異国の民よっ。」

「そして見るがいいっ。」

「我ら守護竜の力、思い知れ」

ギミックは、植物油と水鉄砲の原理を利用した即席の火炎放射。

射程距離は2mもない。スピーカーから流れる轟音同様ただの脅し。

本命は両腕に仕組まれたゴム仕掛けの簡易カタパルト。

「いいのか?」

「ええ。」

月夜野アカリの応えに、道具屋は油を染み込ませ丸めた布に火を点ける。

先ず袋に詰めた小麦粉をカタパルトから投じ、

直後に反対の腕から石礫を投じる。

いくつかの石が小麦粉の袋を破り、小麦粉と、一緒に詰めた

建築屋から集めて木くず、鍛冶屋から集めた細かい鉄くず。布の切れ端が舞う。

間髪入れずに炎を投げ入れる。

逆風ではあるが風がある。

小麦粉に引火した炎が広範囲に広がる。

小麦粉は一瞬で燃え尽きるが、火のついた様々な破片が敵船の帆に燃え移る。

「逃げて。」

二度、三度の投下。

「お願い。皆逃げて。」

部長の願いは、届くのか。


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