「羽撃け、友よ。」 15
進軍は止まらない。
一時的な混乱に陥ったがそれでも尚、矢は降り注ぐ。
ハリボテドラゴンの火炎がその矢に引火し
そして自らを燃やしてしまう。
「ああっ俺のドラゴンがっ」
道具屋の叫びにも、月夜野アカリは動けなかった。
炎がハリボテを包み崩れ落ちる。
「早く逃げて。」
織機キリは月夜野アカリを抱きかかえる。
最悪の展開だと過ぎったその時、どうしてだろう。
「後ろ」から歓声が聞こえた。
騎士達は空を見上げて雄叫び。
目線の先に、ドラゴン。
青空に翼を広げ
咆哮
その大きな翼で風を起こし操舵不能に陥れ、
ミサゴの狩りよりも容易く船を捕らえ、投げ捨てる。
海に投げ出される敵国の兵士達。
船から一斉に矢が飛ぶ。
だが帆船の構造上、仰角が大きいほど狙いは困難になる。
ピータンは意に介する事なく二隻、三隻と船を投げ捨てる。
メリアが漁港で目にした光景は
自分に似た少女が
異世界の少女に泣きつかれている姿と
燃え盛るハリボテドラゴンに
海水バケツリレーに加わる騎士団長。
海上では救助作業が続いている。
「一体何が。」
メリアは騎士を一人捕まえ説明を求める。
「王子がお戻りになられました。」
「撮影しておけばよかったーっ。」
道具屋が叫ぶ。
映画の中に紛れ込んだのだとすれば
この光景こそが観客の期待した展開だ。
メリアは違う。
彼女は兄の身を案じ、守護竜が無傷であると確認するまで笑えない。
これは映画ではない。
この世界の現実。
この兄妹は、己の命を張り民を守っている。
「ここはお任せください。」
騎士団長はメリアに告げる。
朝の言葉とはその意味は異なる。
荒れ果てた漁港では、兄を迎えられない。
メリアは再び城へと急ぐ。
「異世界の者達よ、ここはいい。姫を頼む。」
演劇部員達も、走る。
走って、走る。
息を切らして、庭園へ着くと
王子の帰還
ドラゴンの背からヒラリと舞い降りる。
颯爽
と登場した本物のイケメン。
ヘタレイケメン若宮とはその風格が違う。
「お姫様が騙されなかったわけだ。」
スラリと長い足、涼しげでそれでいて凛とした目。
長めの明るいブロンドは軽いウェーブ。
「紹介されるまでもなく丸出しよね。」
「丸出し?」
出迎える城の者。ほぼ全員が王子に膝を折る。
が、
「頭を上げてくれ。感謝するのは僕だ。」
「留守を守り、メリアを助け心からの礼を。」
「ありがとう皆。」
ああ主人公とはこんな人なんだろうな。
キリには目の前の兄妹が、この国では少々「浮いて」見えているが
それでも初対面の、まだ会話すらしていない相手に敬意を抱いた。
アホみたいな顔して眺めていたキリに
王子レミーが歩み寄る。
メリアはまだ紹介をしていない。
それでも彼は他の演劇部員より先にキリの手を取り、
「勇者よ。ありがとう。」
漁港の再開。
演劇部員達もその手伝いに加わった。
何かしてないと、手の震えがバレる。
笑顔でいないと、泣いてしまう。
「演技」を続けないと、「現実」に眩暈がする。
演劇部員はその部活動中。
矢を抜く度に恐怖が蘇るが
それでも、この作業はきっと明るい未来への支度なのだと
自分に言い聞かせている。
「また君を勇者って呼んだな。」
メリアは誂っただけだと笑った。
それはこの世界に来てすぐに月夜野アカリが
織機キリを勇者呼ばわりし、それが伝わっただけだ。
だが兄レミーは、それを知っていたのだろうか。
月夜野アカリの疑問に、織機キリは答えなかった。
少年は怒っていた。
月夜野アカリが「あんな真似」をした事に。
そしてそうさせてしまった自分に。
王都の街の住民は全てを知っていた。
国王が病に倒れ、
守護竜が弱り、
王の子、メリアの兄、長男のレミーは騎士団を引き連れ出征中。
残されたメリア姫一人、
獅子奮迅
孤軍奮闘
ずっとずっと民を守ろうと踏ん張っていた。
気付かぬはずがない。
か細い一人の少女の背負った積荷を
王都の民は引き受けた。
王都の民は、「何も知らない演技」を続けた。
そして見事「敵」を追い払ったお姫様に祝福を。
王都の人々は避難先の城に残り宴の準備を始める。
「素敵な国ね。」
「ここなら居座ってもいいかも。」
「俺は帰りたい。キス魔女の録画が溜まってる。」
「私も帰りたい。」
「そうね。ここの料理も美味しいけど母の」
泣き出す倉渕ミサト
釣られる吉岡ハルナと赤堀サワ。
当然ヘタレ若宮アオバも号泣する。




