「羽撃け、友よ。」 16
キリは一人、宴の席から抜け出した。
皆が戦の準備をしている中、
自分は森の中でドラゴンの背に乗っていただけ。
僕は勇者ではない。
僕は何もしていない。
戦いの準備すらしていない。
戦争は本物で、もしかしたら死んでいたかもしれないのに。
月夜野アカリは、一人佇む少年に声をかける。
「ハタオリキ。君は君の役をこなした。」
「演劇にはそれぞれの役割がある。」
役者だけじゃない。
舞台に道具や装置を準備して
衣装も照明も音響も。
台本があって、演出する人も必要。
「誰か一人欠けても、公演は成り立たない。」
入部した覚えはないが?
「かわいい顔しているから女子受け狙える。」
「ヘタレと絡ませたら売れるぜ。」
「一般受けは無くなるけどね。」
道具屋笠懸ヒサシと会計倉渕ミサトも軽口に加わっていた。
今回のこの急襲により
この国の守護竜が健在だと世に知らしめられただろう。
この国には再び安息が訪れる。
だがこれで終わりではない。
帰宅部織機キリは疑問を抱き続けている。
「王様はどうしたのでしょう。」
宴席にその姿は見えない。
病で床に伏せた。とは聞いた。
寝たきりか?意識がないのか?
「王様にはお会いになれないのです。」
二人の王子の姿が見えずルメニーに尋ねたその返答。
「流行り病に侵され、執政官以外は面会できません。」
「ピータンの様子がおかしくなったのもその頃ですか?」
キリは核心を突いた。
「待て。待つんだ少年。」
月夜野アカリが、キリの妄想を止める。
「これ以上は私達が関与すべき問題ではない。」
「でも。」
「頼まれたら考えよう。な?それまで何でもない演技を続けよう。」
月夜野アカリは、内政に干渉すべきではない。だとか
身内の問題に首を突っ込むべきではない。
等の理由で織機キリを嗜めたのではない。
「好奇心猫を殺す」
脇役が政治的な陰謀に余計な首をツッコミ、
相手に「真相に近付いている」
と疑われた登場人物は必ず痛い目に合う。
メリアとの会話を誰かが聞いていたら?
眼の前の侍女ルメニーが陰謀に関わっていたら?
少年少女にとっては戦争よりリアルな恐怖。
国王が病に倒れ
三人の執政官以外の面会が止められた。
西地区への出征の命令は
「国王の命令」として執政官から王子レミーに伝わる。
目的は「西地区湾岸地域の強化」。
ピータンの異変。国王の病。
この国に二箇所しかない「港」の警護は理に叶っている。
それでも「各地の騎士を引き連れて」向かうよう指示があり
王子レミーに考えたくもない「謀略」の可能性を考慮せざるを得ない。
「王都襲撃」
騎士団長にメリアの護衛を依頼し
同時に投石機の製作を命じた。
さらに過激で、無慈悲な「最後の手段」も講じていたが
レミーは決してその内容を語ろうとはしない。
「異世界の者を頼ったのはメリアの機転だ。」
レミーは「王都の防衛」についてはメリアに託した。
メリアも「最後の手段」をレミーから聞かされている。
だからこそ彼女は
「異世界のわけのわからん連中」に縋った。
村に「おかしな連中が現れた」との報告は
その日の夜には城に届き
「炎吐く竜のような何かを剣と魔法で燃やした」
迎えに送り出した騎士達が戻ると
「竜を倒した少年が牛や馬と会話をしている」と言った。
彼にピータンを託したのは、それこそ単なる思いつきでしかない。
と、メリアは笑った。
藁にも縋る。ダメで元々。切羽詰まってほぼ投げやり。
本来の目的は、
村での「竜のような何か」を利用できるか。
それが「本物の竜」ではないことは承知している。
「え?どうして?」
「竜が炎を吐くとか聞いた事ないからな。」
だが村に現れたその何かは「炎を吐く」。
村人達が竜のような作り物と言ったのだから
敵も竜と見間違え進軍を止める可能性もある。
炎を吐く姿を見れば撤退するやも。。
最悪それそのものを「囮」に利用できる。
襲い掛からない守護竜を不審に扱い攻撃の的にさせ、
射程距離とルートから敵船の配置を計算し
カタパルトを設置するよう手配した。
王子レミーとメリアは演劇部員達に事情を説明し
ようやく宴席に合流する。
歓声が上がる。
レミーの帰還と、王都を救ったメリアへの賛辞。
レミーはそれを制し
「異世界の友よ。こちらへ。」
演劇部員達を呼び寄せる。
「君もだよ。」
動こうとしなかったキリの手を月夜野アカリが引く。
「この者たちこそ、この国の英雄。」
再びの大歓声。
「さあ、今夜は皆で分かち合おう。」
王子の合図で再び食事に戻るまで歓声は続いた。
「だから言っているでしょ。演劇部に不可能は無いって。」
「いやあるでしょ。」
無茶な事をさせて、一番無茶をして
「うん。ありますよ。」
無事に終わったからこその涙を拭く演劇部員達。
「ないわよ。」
部長月夜野アカリは不敵に笑い、
メリアが意地悪な質問をする。
「演劇で世界を平和にしてくれないか?」
一歩前へ出て、
「ちょっとそこ開けて。」
少しの空間を作る。
アカリはとびっきりの笑顔で
両手を広げくるくる回る
「ああ。なんて平和な世界なのかしら。」
演劇部長は鼻息荒く「ドヤ」と決める。
メリアは笑い出す。
涙を流して笑う。お腹を抱えて笑う。




