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羽撃く者達の世界 ~演劇部異世界公演~  作者: かなみち のに
第一幕 「羽撃け、友よ。」
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「羽撃け、友よ。」 13

夕食後、

同席していなかったメリアが現れ

全員に守護竜の寝床に使われていた金貨を一枚ずつ配る。

「ピータンからのお礼だ。」

遠い遠い昔、まだ竜と人とが交わらない時代。

今はもう存在しない国の

今はもう存在しない硬貨。

「君達の世界では使えないだろうけど。」

それがとても貴重な金貨で、

この世界の人間界にも殆ど流通がなく

家一軒建つほどの価値がある。とは言わなかった。

「キリ。ピータンが呼んでいる。」

「へ?はい?呼んで?」


キリは城から連れ出される。

城内の通路を通って洞窟に行くのは限られた者。

今までが特別だったのだろう。

「馬には乗れるな?」

「はい。」

鞍の形状から「馬銜」まで殆ど変わりがない。

騎士の操る馬の後ろで扱いを見る限りそれも変わらない。

「では森の中へ。」

森の中。約束の地。


馬を降り、歩み寄るキリに

ドラゴンは静かに頭を下げ目線を合わせる。

食べないでくださいっ

「少年。名を聞こう。」

ドラゴンが喋った!

「キリ。です。」

少年はこの国の慣習に従いファーストネームだけ名乗る。

「キリ。今から契約を結ぶ。お前に私の本当の名を授ける。」

「契約?本当の名?」

「乗れ。離すなよ。」

言われるままキリはその背中に乗る。

ドラゴンは羽撃く。

広くまばゆい星空へ。

ただ上へ。上へ。

「寒い。痛い。」

そして声が頭に響く。

「私の名を呼べ。私は駆けつける。」

それは言葉ではない。

文字にはできない音と光の繋がり。ノイズと輝きの集合。

気が付くと森の中の広場に一人眠っていた。


空が明るむ。

「日の動きってどうなっているのかしらね。」

「東から登って西に沈むって言ってましたよ。」

「そんな事いつ聞いたの。」

「ジジババの昔話の中で出てきました。」

「ジジババ言うな。」

「そーいやハルナに何作らせていたんですか?」

「ふふん。それは本番までのお楽しみだ。」

「何か企んでますね。」

「ん。まあでも、無いなら無い方がいいことなんだ。」


「一睡もしていないのか。」

すっかり身支度を整えたメリア。

凛として、神々しいとさえ感じた女子高生たち。

お姫様としての責任感がそうさせるのか。

部活勧誘会で培ったノウハウを活かし製作されたドラゴンは

日の光を浴びてその完成度の高さにメリアは驚愕した。

とまでは言わないが

遠目から見たらそれなりに見えるたろうな。とお褒めの言葉はいただいた。

演劇部員は高校生らしく制服に着替えた。

「女子高生の戦闘服。」


朝食の席だった。

迫りくる事態への緊張感から、誰も口を開かず

食事も殆ど手を付けず、ただ無為に過ごす。

突然、メリアとキリが立ち上がり

慌て走り庭園に。

何事かと皆も後に続く。

庭園に、ドラゴン。

その足元に子猫が二匹。

メリアは駆け寄り、その頬を撫でる。

「判った。気を付けて。」

キリが二匹の子猫を抱いて、

メリアが下がると、ドラゴンは羽撃き

大きな風が巻き上がり、花が舞い、

青空へと消える。


子猫を放すキリに月夜野アカリが

「一体何だったの?」

「多分お兄さんの所へ行ったのかと。」

「ふーん。その挨拶ね。」

月夜野アカリの曖昧な質問には意図があった。

キリがメリアと共にドラゴンの前に並び

何やら会話をしている

ように見えた。

キリの返答こそ曖昧だった。

会話したのか、していないのか。


日常ではなく非日常。非日常の中の、非日常。

ハリボテを街の人々と入れ替わるように閉鎖された漁港へと運び入れる。

何が起きているのか知らされず、ただ誘導されている。

国民に知る権利はないのか。

「ピータンが弱っている事は知らせていなかった。」

メリアは奥歯を噛み締める。

お姫様は、国民に事実を知らせるべきだと言い続けた。

一方長老と執政官は

「守護竜が弱っていると他国に知られれば攻め込まれます。」

既に洩れている。と憤慨すると

「混乱を避けましょう。」

と窘められる。

「じじいども。」

口悪いお姫様。

しかし一気に親近感が沸いた女子高生。


作ったドラゴンを引っ張りながら

「さあ声出せ演劇部っ。」

ウザイほど張り切る月夜野アカリ。

徹夜明けでハイテンションなだけか。

「張り切ってますね部長。」

よせばいいのに新人赤堀サワが余計な感心をする。

「部長じゃないっ。ジャンヌダルクよっ。フォロミー。」

ミラジョボビッチのつもりか

「似てるじゃん。胸のなあいたっ」

ハリボテを乗せた荷車を後ろから押しながら

呟いたオタ師匠の頭に何かが飛んできた。

顔を上げるとジャンヌダルクが何かを、おそらく松ぼっくりでも投げ終えた姿勢。

「この距離でどうして判ったんだ。」

「啓示でもあったんでしょ。」


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