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羽撃く者達の世界 ~演劇部異世界公演~  作者: かなみち のに
第一幕 「羽撃け、友よ。」
12/181

「羽撃け、友よ。」 12

織機 キリ   帰宅部 1年 男子 

月夜野 アカリ 演劇部 3年 女子 部長

若宮 アオバ  演劇部 3年 男子 副部長 ヘタレ先輩

倉渕 ミサト  演劇部 3年 女子 会計 部費

笠懸 ヒサシ  演劇部 3年 男子 道具屋

吾妻 アヅマ  演劇部 2年 男子 オタ眼鏡師匠

吉岡 ハルナ  演劇部 1年 女子 仕立屋

赤堀 サワ   演劇部 1年 女子 

メリア     王子     女子

ピータン    守護竜    ?

早朝、メリアが訪れるとキリは既に作業を再開していた。

ボロボロなのは、昨夜の内に落とした金貨を洞窟まで運ぶ途中に転んだから。

「すぐに食事が運ばれる。」

キリはメリアに気付いていなかった。

「え?あ。はい。おはようございます。」

「うん。ピータンの食事中お前は城に戻れ。」

湯を浴びて身体を洗え、服を替え、食事をしろ。

「心配するな。敵は明日まで来ない。」

哨戒船からの連絡があり、進軍速度からの予測。

言われたものの、キリは結局城には戻らず作業を続けた。

時折、金貨を背負い山を登り返金。


女子二人の手伝いもあり、

陽が落ちる前にはおそらく全ての金貨を落とした。

「デッキブラシで洗ってあげたいわ。」

「近くに湖でもあればね。」

女子達は汚れて少々臭い鱗について語る。

キリは金貨を山へ返しに向かう。

もう一度姿を見たいと現れた道具屋もそれ付き合う。

結構な山道。

結構な重荷。

「助かります。これで全部終わります。」

もう慣れたのか涼しい顔で歩くキリ。

「お前ずっとこんな事やってたのか。」

「え。はいすみませんお手伝いできなくて。」

道具屋の言いたいことが伝わらない。

体力にも腕力にもある程度自信はある。

それでもこれはキツイ。

「変な気を起こすなよ。ドラゴンは金貨の枚数を全部把握しているって言うからな。」

考えてもいなかった。

キリと道具屋が息を切らし山から戻ると

ドラゴンは消えていた。


「それが突然飛んで行ってっ」

「ぶわさって翼広げてぶわって」

ドラゴンの巻き起こした風で女子達は転がって髪も乱れ

興奮してちょっと何を言っているのか判らない。

飛べたのなら、もう大丈夫。

ドラゴンが飛び立った空を見上げて

キリは笑顔だった。

直後、メリアがルメニーを引き連れ慌て現れる。

もしかして侵攻が始まったのか。

「ピータンは。ピータンは何処だ。」

彼女は、森の中から大きな影が飛んだのを見たと喚いた。

突然飛び立ったと伝えると

彼女も空を見上げ、

少女のように笑った。


一行が城に戻るとほぼ同時に「部室」組が帰着。

「まだ?まだ始まってない?」

赤堀サワの慌てように

「今日はこないって。」

急いで完成させようと道具屋。

アヅマは戻った早々、ハリボテドラゴンに装飾を施す。

舞台用の照明で目を光らせ

スピーカーを搭載し叫び声まで加えた。

出発前に部長に頼まれたギミックも

必ず間に合わせるぞと確認し合った。

日暮れ前に全ての作業が終わる。


メリアはキリを呼び出す。

「一つ確認したい事がある。」

「はい。何でしょう。」

「ピータンは病気だったのか?それとも。」

カルシウムとビタミンD3の不足程度、

キリは「偏った食事が原因」だと考えていた。

実際、バランスの良い食事と日光浴は効果的だった。

「今まで食事はどうしていましたか?」

「自分で取って食べていた筈だ。」

キリが気になっていたのは、

洞窟内にあった残飯。

「誰かが運び入れた可能性はありませんか?」

「お前は誰かが毒を入れたと言っているのか?」

「否定しません。」

仮に毒の混入が事実だとしても、

キリが食事の指導と制限をしたことで、結果的にその後の毒物の混入を防いでいる。

食料を背負って山を登り下りするのは相当キツイ。

だが不可能ではない。

「判った。ありがとうキリ。」

メリアは突然この会話を切り捨てた。

「え?あ、はい。」

洞窟の中の腐った食べ残しは埋めてしまった。

かと言って検査出来るような設備もない。

どちらにしろ毒の混入を裏付ける証拠は無い。

キリの心配は

「また同じ事をされたら。」

「今後はボクが言わない限り人から食事を受け取らないよう言っておくよ。」

メリアは、もしかしたら真相を知っているのだろうか。


「夕食まで少し休もう。皆何処だ?」

メリアは話を逸らそうと言っているのではない。

心からキリを気遣っている。

その演劇部員達は一仕事終え

とっくに湯を浴びて汗を流し

全員が城内の庭園でグダグタしていた。

猫がいる。

サバトラと茶トラの子猫が遊んでいる。

ミサトとハルナが静かに駆け寄るが警戒されてしまう。

女子に追われる二匹の子猫は

メリアを見付け駆け寄る。

そして何故か、

キリの足元にも頭をこすりつける。

キリは膝を折り、目線を低くして子猫達を撫で回す。

毛並みの色艶もいい

目ヤニもない。鼻水も出ていない。

健康体。

確認後子猫を開放し立ち上がると

子猫は競い合うようにキリに飛びつき、駆け上がり、頭を狙う。

「いだっ。痛いっ痛いっ。」

子猫の爪が食い込む。

止めさせようとするが子猫達はその手を掻い潜り

結局捕まる事なく飛び降りる。

身体をさすっていると

「お前はナウシカか。」

「なう?なんです?」

道具屋のツッコミはキリに届かず。

だが女子達の嫉妬心だけは突き刺さった。


メリアも演劇部員達と共に庭園に座る。

ルメニーは立っていたのだがメリアに命じられ腰を下ろす。

子猫たちはメリアとキリにしか懐かない。

メラメラと猫好き達が苛立つ。

その時

強い風と

水飛沫

虹がかかる。

そして大きな、とても大きな影。

見上げると、ドラゴン。

翼を広げたその姿に、

その大きさに圧倒され、後退りするように場所を開ける。

この庭園は、きっと守護竜が降りる場所。

夕陽に照らされ鱗輝く黄金の竜が舞い降りた。

一度大きく羽ばたきして残った水を飛ばす。

再び水飛沫を浴びる演劇部員達。

メリアはそれに顔を背けるが歩みを止めず

「おかえり」

手を伸ばすと、ピータンは頭を垂れ、撫でられる。

メリアは竜の頬に自分の頬をあて

何度も撫でる。

子猫たちも、偉大なその生物の足元に擦り寄っている。

「演劇部員。撤収。」

月夜野アカリは小声で号令。

皆は静かに、速やかに城内へ。

「ほら君もだ。」

織機キリは名残惜しそうに引き上げる。


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