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37話 宿屋にて

 僕たちが助けた男性、マルクさんの案内でこの街の目的地である『白と黒の円舞曲』に辿り着いた。


「さぁ上がってくれ、小さな宿で申し訳ないけど」


 マルクさんが木製のドアを開き中へ招き入れてくれた。

 宿の外見は二階建てのログハウスで山の麓にあるこのデヴィンホーンの街にマッチしている。

 全体的に落ち着いた雰囲気のこの宿は柚姉が好きそうな宿だった。


 一階にある食堂へ案内され改めて皆で軽く自己紹介を済ますと、奥さんであるエルザさんがお茶を取りにキッチンの方へ入っていった。それを見送った後、マルクさんは再度頭を下げてくる。


「今回は妻共々助けてくれて本当にありがとう」


「気にしないで下さい、私達は当然の事をしたまでです」


 そんなマルクさんに柚姉が笑顔で対応している。さすがリーダー。頼りになります。


「で、あの連中はなんだったのよ。えらく横暴な態度だったじゃない」


 マルクさんと柚姉の会話が一区切りついたところで愛莉歌が質問を投げ掛けた。

 愛莉歌の質問にマルクさんは眉をひそめながらも答えてくれる。


 マルクさんの説明によれば、彼らはここ数ヵ月の間に現れた達の悪いゴロツキだと言う。


「この街にも警備隊は居るんじゃないの?」


「居ることは居る。しかし、奴らが持っている武器がね……」


 その武器はゴロツキどもが集められるような武器ではなかったとマルクさんは言う。その威力は警備隊の盾を易々と切り裂いたというのだから驚きだ。警備隊ともなればそこらの冒険者よりも良い装備をしてるだろうから、その盾を切り裂くと言えば相当のものだろう。


「それだけじゃないんだ。奴らいったいどうやって鍛えているのかその強さが半端ないらしいんだ」


 警備隊を簡単に陵駕する強い武器に身体能力……。

 僕はそのキーワードにピンと来た。


「それってプレイヤーじゃ……」


 咲妃がこぼす様に呟いた。どうやらその考えに至った人は僕だけじゃなかったようだ。


 ゲームの中ならばお金さえあれば簡単に強い武器を手に入れられるし、サブ職がカンストしていれば例えレベルを10に落とされてもそれなりにステータス補正が付くだろう。僕や愛莉歌の様に。


「ちょっと待って、ステータスはわかるけど武器はどうなの? 私の装備は全部初期化されたわよ」


 すると、愛莉歌から疑問の声が上がった。

 確かに彼女はバルドのおっちゃんの店では初期装備だったね。


「え? 私は防具だけ初期装備でしたよ?」


 愛莉歌の発言に今度は咲妃が驚きの声をあげる。そう言えば咲妃の武器を直した時、初期装備ではありえないほど上級の魔法石が付いていたっけ?


「私はエリちゃんと一緒で全部初期化されたわね」


 柚姉が愛莉歌の横に移動しながら状況を教えてくれる。


「イズ姉ぇは? どうだったのよ?」


「僕は防具が初期化されていたよ。武器は……ほらこれ」


 愛莉歌からの問いかけにアイテムストレージから大剣を取り出して答える。


「何でみんなバラバラなのよ!」


「いや、僕に言われても……」


 何でこういっつも噛みついてくるかなぁ。僕は歳上だけど、わからない事の方が多いよ? 自分で言っていて情けないけど……。


「君たちもあの連中と同じ所から来たのかい?」


 今まで黙って聞いてくれていたマルクさんが少し曇った顔で質問をしてきた。

 考えてみれば、ゴロツキ連中と同じ存在を自分の家にあげるというのはあまり気分が良くないだろう。


「そう……ですね。厳密に言えば間違いではないですが、私達はあのような人達とは違います」


 マルクさんの質問に柚姉が率先して答えてくれる。


「あ、いや、すまない。君たちを疑っている訳じゃないんだ。ただ気になってしまってね」


「もう、ダメですよあなた。この方達は私達を助けてくれた恩人ですよ? あんな人達とは違います」


 あたふたとしているマルクさんに向かってお茶を持ってきたエルザが追い討ちをかけた。まぁ追い討ちと言っても子供に言い聞かせる母親のようだったけど。


「気にしてないので大丈夫ですよ」


 意気消沈しているマルクさんに柚姉は優しく声をかけている。柚姉の言う通り僕たちのメンバーは誰も気にしてない様子だった。


「さぁ召し上がって下さい。うちの自慢のハーブティーです」


 場の雰囲気を和らげるようにエルザさんがお茶を差し出してくれる。自慢と言うだけあり、一口いれると爽やかな香りと味が広がり心からほっとするそんなお茶だった。


☆★☆★☆★☆★


 お茶を飲み一息ついたところで、エルザさんに案内され宿泊する部屋の前まで来た。

 貸してもらえる部屋は二階の階段のすぐ側とその隣の部屋のようだ。

 ドアの鍵を開け中を見たエルザさんが小さく「あっ」と呟いたと思ったら、とても申し訳なさそうに話しかけてきた。


「ごめんなさい、うちの部屋はベッドが三つしかないんです……」


 ドアから中を覗くと、木製品の家具で揃えられたオシャレな部屋に奥の窓際に一台、そして隣の部屋側の壁に二台といった感じに設置されていた。

 そっか今の僕達は全部で7人だからベッドが足りないんだ。


「大丈夫ですよエルザさん。幸いにも小柄な娘が多いですから」


 そう言うと柚姉は僕、愛莉歌、ケーラの順番で目を合わせ、最後にエルザさんに笑顔を見せていた。

 現状誰かがペアで寝ないといけないのか……。まぁ僕は男だから除外されるとして……。


「それじゃイズ君はお姉ちゃんと一緒でいいわね」


 柚姉はそう言うとごくごく自然に僕を抱き締めてきた。

 柚姉と一緒とか、うれし……っん! ここは女子がペアになるんじゃないの? 


「ユズキ、それはダメだ!」

「異議あり!!」

「ユズ姉ぇズルい!!」

「ユズキ、抜け駆けはダメ」

「あの……その……」


 案の定、柚姉が提案した瞬間他のメンバーから一斉に抗議の声が上がった。若干一名乗り遅れた人物がいるけど。


「毎回毎回ユズキに負担を掛けちゃ悪いから、今回はウチがイズモの面倒を見るよ。これでも年長者だし?」


 ケーラはそう言うと柚姉の腕の中にいる僕を奪い取ると、後ろから首回りに腕を回し抱きついてきた。

 頬がぴったりとくっ付いており、今まで感じた事のない距離感にちょっとドキドキしてしまう。


「ケーラさん待ってください。会って間もない貴女じゃいきなりの添い寝じゃ緊張してゆっくり休めれないでしょう。ここは私が責任を持って出雲の面倒を見ます」


 今度は咲妃がケーラを力づくで引きはがすと自分の腕の中に大切そうに抱きかかえた。

 てか咲妃さん? 面倒をみるって僕の方が歳上ですからね?


「無理しなくていいのよ咲妃。この変態は私が責任をもって監視をしておくから皆は安心して眠ってちょうだい」


 咲妃の腕の中でフガフガともがいているといきなり襟首を掴まれ強引に引き離された。この相手を気遣わない強引な方法を取るのは愛莉歌だろう。きゅっと絞まった首を摩りつつ抗議の目を向けるがこの妹弟子は素知らぬ顔を貫いている。


「エリカ大丈夫。イズモはあたしと寝るから皆に悪戯はしない」


 片手一本で持っていた隙をついて今度はリズが僕を愛莉歌からスティールした。そして放してなるものかと両腕だけでなくシッポまで絡めつけてくる。可愛いやらなんやらだな。


「し、師匠と弟子は寝食を共にするものです。ですから師匠とは私が一緒に寝ます!」


 そして最後に今まで黙っていたロッタがリズの強固な拘束を解くと自分の腕の中へと誘った。

 と言うか、僕の意見は誰も聞いてくれないのだろうか?


「あらあら」

「あははは」

「ふふふふ」

「はははは」

「……ふん」

「ん~!」


 次々に口元に笑みが浮かんでいるが、目が笑っていない。全員が全員を牽制し合っている為誰もが迂闊に行動できなっているのだろう。


「……決まったらおしえてね」


 すでに皆の意識は僕から離れているようで、簡単にロッタの拘束から逃れると僕は一階を目指して階段を下りはじめた。この状態じゃ僕が何を言っても聞かないだろう。

 別に誰が一緒に寝たっていいじゃんね? いや、皆僕と一緒に寝るのは罰ゲームとでも思っているのかな? そうなるとかなり凹むんですけど……。


☆★☆★☆★☆★


 自分で考えた可能性に肩を落としつつ、先ほどまでお茶を飲んでいた食堂へ行くとエルザさんの姿はなくマルクさんさんだけが残っていた。

 そのマルクさんは壁に掛けられた剣と盾をじっと見ていた。


「良い剣ですね。マルクさんの剣ですか?」


「!? あ~イズモか。部屋は気に入ってくれたかい?」


 驚いた表情で僕を見るとマルクさんは直ぐに緊張を解いて笑顔を向けてきてくれた。よっぽど集中していたようで僕に気付かなかったのだろう。

 なんだろう、この宿に来てから僕の存在は薄くなっているのだろうか?


「ええとっても」


「それは良かった。自分の家だと思ってくつろいでくれていいからね」


 部屋を誉められたマルクさんは今まで浮かんでいた以上の笑顔で答えてくれた。

 まぁ誰でも自分の自慢を誉められたら嬉しいものだよね。


「あ、この剣は俺の親父が残してくれた剣なんだ」


 マルクさんは思い出したように笑顔のまま壁に立て掛けられた片手剣を手に取るとそっと僕に手渡してくれる。きっと思い入れのある剣なのだろう。

 僕は慎重に受けとると、すかさず鑑定のスキルを使った。


 片手剣のステータスを見る限りでは、店売りではなくオーダーメイド品だろうと推測が出来る。

 見た目は特に変わった様子のない一般的な両刃の片手剣だ。だが、その柄の部分は使い込まれ何回も修復した跡が見てとれる。きっと何百回、何千回も振るわれ修練したのだろう。


 ただ、残念なことに最後にメンテナンスをしてからずいぶんと時間が経っているようだ。錆までは浮かんでいないが、実戦では使えそうにない。


「いい剣ですね。ただ大事にされているだけでなく、十分に使い込まれています。

 残念なのは最後のメンテナンスから時間が経っていることでしょうか?」


「解るのかい!?」


 マルクさんは目を見開いて驚いていた。

 まぁ見た目少女の僕が剣を握っただけで的確に状態を言い当てたのだ。驚くのも無理はないか。


 マルクさんは照れ隠しなのか頬を指でかきながら「簡単なメンテナンスしか出来なくてね」と呟いてきた。

 僕はマルクさんと剣を交互に見てから、マルクさんに質問をした。


「あの、この家の周りに広くて火が使える場所ってありますか?」


「広くて火が使える場所かい? それなら中庭を使ってくれてかまわないけど……どうするんだい?」


 マルクさんは首を傾げながらも食堂の隅にある一つのドアを指差してくれた。

 ドアを開けるとちょっとした道場並みの広さの中庭が広がっていた。全体的に整地されており、一番日当たりのい居場所には家庭菜園なのか多くの植物が育てられている。


「うわ~綺麗な庭ですね~」


「街の外れの方にあるからね、土地だけはあるんだ」


 中庭に見惚れていると、マルクさんが説明してくれた。

 おっと、見惚れている場合じゃなかった。さっさと作業に取りかかろう。


 僕は井戸の近くへ移るとアイテムストレージから愛用の修繕道具を取りだし、さっそく作業を開始した。


『これはもう修繕しても実戦では使えませんよ?』


 刀身を熱している最中に岩筒が話しかけてくる。使い込まれたいい剣なのだが、岩筒の言う通り実戦では使い物にならないだろう。それほど劣化が激しいのだ。


『新しく作った方がいいんじゃないですか?』


(それじゃ意味がないんだよ、マルクさんにとってはね)


『そんなものですかね~』


(そんなものなんだよ~)


 岩筒と話しながらも着々と作業を進めていく。



 一通りの作業を終えると、自然と口から息が漏れる。そして出来上がった剣を見て思わず頷いてしまった。


「うん、上出来!」


『当たり前じゃないですか、このあたしの加護があるんですよ? 間違っても失敗なんてしませんよ!』


(はいはい、岩筒様々ですよ~)


『最近あたしの扱い酷くないですか? これでも神様ですよ? ねぇ聞いてます?』


 自分の存在を必死にアピールしている岩筒を軽くあしらいつつ、剣をマルクさんに手渡した。


「はい、一通りメンテナンス出来ましたよ」


「直してくれたのかい!?」


 今日のマルクさんは驚いてばっかしだな。

 彼は剣を手にすると、すぐに子供のようにはしゃぎ始めた。剣が綺麗になったのがよほど嬉しかったようだ。


「ありがとう!! 君には助けてもらってばっかしだ」


「気に入ってもらえて何よりです。ただ、その剣を実戦で使うのはやめてください。刀身の耐久度がもうギリギリです」


 僕の注意を聞いたマルクさんは動きを止めてしまった。


「それは……やっぱりメンテナンスをしていなかったから……?」


「確かにメンテナンス不足もありましたが、経年劣化もしていますから。全部が全部そのせいじゃないですよ」


 マルクさんは少し考え込む様に剣を眺めていたが、すっと肩から力を抜くと悲しそうな笑みで話しかけてきた。


「そっか……改めてありがとう。まぁこの剣に限らず今の僕じゃ」

「“戦えない”ですか?」


 マルクさんの言葉を遮るかたちで声をはさむ。

 まさか自分が言おうとしていた言葉を先に言われる何て思っても見なかったのか、マルクさんはそのまま固まってしまう。


「ただの憶測ですけどね」


 僕はそう言いながらマルクさんの体に触れた。

 

「何を!?」


 彼の言葉を無視して腕や腹周り太ももなどを触りまくる。


「柄の痛み具合やこの筋肉のつき方から、貴方が相当量の練習を重ねてきたのはわかります。

 が、先ほどの貴方はとてもじゃないけど戦い方を知っている人の感じじゃなかった。

 となれば、“戦わない”じゃなくて“戦えない”が正しいのかなぁって……どうです? あってますか?」


 マルクさんは確かに細身だ。だが決して細いだけじゃないのは今触診してよくわかった。いわゆる『細マッチョ』と言う存在だろう。

 多分使わなくなって久しいのか、多少の低下は見られるが、それでも戦ったことのない人よりは明らかに筋肉のつき方がいい。


「少し鍛えれば、まともに動けるようになると思いますけど?」


 それこそ街のチンピラには負けない程度に。


 マルクさんは僕が全てを言い終わる前に僕の両肩を強く掴みながらぐいっと顔を近づけてきた。

 ちょっ! 顔を近付けないで! 僕は男の人とやる気はないよ!?


「本体かい!? 俺でも……俺でも強くなれるのかボチャッ!?」


 必死の形相で怒鳴ってきたマルクさんは、最後に意味不明な言葉をはいて倒れてしまった。


「あらあら……会って間もないのにもう“オイタ”ですか? ア・ナ・タ?」


 マルクさんが崩れ落ちた先にはフライパンを片手に優しく微笑むエルザさんの姿が……あれ? おかしいぞ、体が勝手に震えてる……?


「ちょっとこっちで話し合いましょうか?」


 エルザさんは「ごめんなさいね」と残して家の中へと消えていった。

 片手で気絶したマルクさんを引きずりながら……。


 そんな光景を見て、僕は考えてしまった。


 僕達が助けに入らなくても何とかなったんじゃない?


 と……。

出雲:レベル27 職業:剣士 サブ:工匠

装備:布の服・鋼のハーフメイル・避雷と防風の籠手・脇差【風神(複製)】【雷神(複製)】・短槍【焔】

憑依:磐筒


愛莉歌:レベル29 職業:武闘家 サブ:狂戦士

装備:俊足の道着・鋼鉄の甲冑靴・モンスターナックル


柚葵:レベル23 職業:聖職者 サブ:???

装備:神官のローブ・革の靴・神官のロッド


咲妃:レベル27 職業:魔法使い サブ:???

装備:魔法使いのローブ・革の靴・魔力のロッド


ロッタ:レベル25 職業:鍛冶師

装備:鋼鉄のハーフメイル・鋼鉄のソードメイス


ケーラ:レベル25 職業:魔法使い

装備:魔増のローブ・魔法使いの靴・マジシャンワンド


リズ:レベル23 職業:聖職者

装備:聖なるローブ・神官の靴・聖なる杖

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