36話 デヴィンホーン
早いもので、ダッグの町を出発して二週間の時が流れた。道中では愛莉歌が盗賊の一見を壊滅させたり、ロッタが携帯用炉を熱暴走させ危うく商隊を全滅させかけたりもした。
そんなこんなで、僕達はある街の門の前に立っている。その門には大きく街の名前が書かれていた。
『デヴィンホーン』
そう、ついに僕達は最初の目的地であるデヴィンホーンの街へと辿り着いたのだ。
デヴィンホーンはシルフィード領南部に位置する都市で、さらに南下するとサラマンダー領との堺になる山脈地帯へと続いている。ゲームのデヴィンホーンはこの山脈地帯に挑むプレイヤーの前衛基地としても使われており、攻略組の他にも露店を出している人など結構な人数が滞在していたと記憶している。まぁゲームの中で引きこもっていた僕が訪れたのは本当に片手で数えられる程度なんだけどね。
この世界の山脈地帯もゲームと違わず高レベルモンスターの巣窟となっていて、今の僕達では死にに行くようなものだ。流石にゲームの街と比べると冒険者の数は少ないが、それでも多くの店が建ち並ぶ賑やかな街だ。
「さてと、取り敢えず宿屋を探さないといけないわね」
街の入り口付近に立てられた案内図を見ながら柚姉が呟いた。
「え? 転送ポータルでサラマンダー領に行くんじゃないの?」
このディヴァンホーンはあくまでも通過地点で、直ぐにでもサラマンダー領に入ると思っていた僕は、思わず柚姉に質問をしてしまう。
「みんな疲れているもの、一度休んだ方がいいわ。それに準備もしないといけないしね」
言われてみれば移動中はテントに寝て、見張りも出している。
そう思い返しながら仲間の顔を見渡すと、全員に披露の色が濃く出ていた。
「と、言うわけでまずは宿屋に行きましょう」
再度柚姉により提案された意見に全員で頷いた。
★☆★☆★☆★☆
柚姉を先頭に宿屋がある商業区を目指して歩くこと数分。僕たちは街の景色を見ながら進んだ。
「なぁ愛莉歌」
街中を歩いていると、ふとあることが頭を過ったので愛莉歌に声をかけてみた。
「何、イズ姉ぇ? 無闇に女の子に声をかけるとセクハラで死刑よ?」
「えぇっ!? マジで!?」
話しかけるだけでセクハラ問題なのか!? どれだけ世の中厳しいんだよ……。でもまぁ今回は大丈夫そうだな、だって……、
「愛莉歌は女の子っぽくないからダイジョウ……な訳無いですよね!! ごめんなさい! 謝りますから右腕を曲がらない方に曲げようとしないで!?」
一瞬で右腕の関節を極めた愛莉歌に半泣きで謝る事数分。ようやく開放された時にはちょっとした見世物になっていた。わらわらと集まってくる野次馬が「痴話喧嘩か?」や「いや、姉妹での喧嘩のようだよ」などと話し合っている声が聞こえてくるが、僕としては見てないで助けて欲しいと切に願うよ!!
「次は無いから。それで? 何の用だったの?」
「いや、もういいです……」
右腕に走った激痛と衆人環視の見世物となった恥ずかしさで、何を言おうとしていたのか頭の中からすっぽりと抜け落ちている。ヤバかった、人間ではありえない腕の可動域を得るところだった。
「あによ、まったく忘れっぽいんだから」
などと文句を言いながら、愛莉歌はスタスタと何事もなかった様に歩き出してしまう。
まったく、ちょっと口からこぼれただけでとんだ貧乏クジだよ。
商業区に入ると今まで以上の喧騒が僕たちを迎えてくれた。
様々な露店が建ち並び、多種多様なものが売られている。なんとも活気のいい場所だ。
並み居る露店の中でも道具類の店が多いように思う。元々ここデヴィンホーンが工業都市として発展してきた流れだと思うが、余りの多さに目移りしてしまう。
「凄いですよ師匠! いっぱい道具が売っています!」
興奮ぎみにロッタが話しかけてくる。ダックの町とは比べものにならない程大きな商業区に彼女自身興奮を抑えられないのだろう。まぁ色々なお店を物色している他のメンバーを見る限り女の子とはそう言うなんだろうと思ってしまう。
「そうだね、宿を取ってひと休みしたら見て回ろうか」
ただ、余りにも楽しそうに露店を見て回るロッタに思わずそんな言葉がでてしまう。
「本当ですか!!」
「う、うん。ちょうど道具を仕入れたかったし……」
声をかけておきながらなんだが、予想以上の反応に驚いてしまった。まぁロッタも女の子だし、ウインドショッピングが好きなのだろう。
「一人で回るのもつまらいしね」
「やった! 師匠とデートです!!」
ロッタが何やら呟いた様だが喧騒に紛れてよく聞こえなかった。まぁ喜んでいるようだし、悪口じゃないだろう……大丈夫だよね?
露店が建ち並ぶメインストリートを抜け暫く歩くと、今度は宿屋が並んでいた。
メインストリートの喧騒がウソのように物静かな通りとなっていて、ちょっとしたリゾート別荘地の様だ。
「いつも泊まっていた宿屋が空いているといいのだけれど……」
柚姉はやや速足になりながらも目的の宿屋へ歩いていく。
「へぇユズキは行き付けの宿があるんだ?」
「ええ、『白と黒の円舞曲』って宿なんだけど、雰囲気がとってもいいのよ。」
柚姉の言葉に興味を持ったのか、ケーラが柚姉の横まで移動するとそのままお喋りを始めた。
柚姉の方が背が高い為、完全に仲の良い姉妹に見える。実際はケーラの方が歳上なのにね。
ここだけ時間の流れが違う様な錯覚を覚えながら周りを見渡していると、先ほど愛莉歌によって物理的に消去された事を思い出してきた。
「なぁ愛莉歌」
「あによ、言っておくけど次は無いわよ?」
先ほどの続きを言おうとただ声を掛けただけなのだが、愛莉歌はちらっとこちらを見ただけでブスっとしたまま返答してきた。
はてさて、僕は愛莉歌に嫌われる事でもしたのうだろうか? 今まではそんなことなかったのに、今日に限って……いや、ここ数日の間ちょっとずつおかしかった様な……?
『出雲さん、ダメですよ相手は歳下の女の子なんですから。ちゃんと出雲さんの方から謝らないと」
(そうは言うけどね、僕にだって原因がわからないんだよ。何を謝ればいいのやら……?)
「イズ姉ぇ? 声を掛けといて黙り込むとか……なんなの?」
おっといけない、磐筒が余計な事言ってくるから愛莉歌に睨まれてしまった。
「ごめんごめん、ちょっと思ったんだけどさ、こういう場所だと、よくドラマやゲームだとイベントが起きるよね」
『あたしが悪いんですか!?』
頭に響く磐筒の言葉をガン無視して、僕は愛莉歌に話しかける。
「……イズ姉ぇさ~またフラグを立てるの?」
若干間が開いたが、愛莉歌は半分呆れながらも答えてくれる。
よかった、まだちゃんと会話してくれる。
「“また”って何さ、“また”って」
「ロッタを拾った時もフラグを立てたでしょう? あ……もしかしてまた女の子を拾うつもり?」
女の子を拾うって……人聞きが悪いな~ロッタの時は拾ったんじゃないよ? 人助けだよ?
「嫌だな~そう何回も同じような事は」
「やめてください!!」
しかし、運命とは何とも残酷なのだろう。僕が言い切る前に女の人の叫び声と何か争う音が僕達のもとに届いた。
「…………」
「………………はぁ」
しばらく愛莉歌と見つめあっていたら、ため息をつきながら喧騒の中へと走って行ってしまった。
「僕のせいじゃないよ? ねぇ! 聞いてる!?」
あわてて追いかけつつ後ろから声をかけるが、果たして聞こえているかどうか……。
☆★☆★☆★☆★
聞こえてきた悲鳴の元へ辿り着くと、そこには野次馬の人垣ができていた。
なんとか、人の間をすり抜け最前列まで抜け出すと、そこには地面に倒れている男性とそれを庇う女性。そして、その二人を囲む様に数人の男が立っていた。
立っている男の手には武器が握られている為か、野次馬達は遠巻きに見ているだけで、助けようとする者は一人もいなかった。
「もうやめてください! うちの主人が何をしたって言うのですか!」
「奥さん、そいつぁ見ての通りよ」
「奥さんみたいないい女を独り占めするから天罰が当たったのさ」
そんな野次馬を無視するように当の本人たちはどんどんと話しを進めているようだ。
一人のガラの悪い奴の言葉に立っている男達から下品な笑い声があがる。
「おら、わかったらそんな優男なんてほっといて俺達と遊ぼうぜ~」
「いや! 触らないで!」
リーダーと思われる男が女性の手を掴むが、女性は激しく抵抗する。
そして、運悪く暴れる手がリーダーの顔へと当たってしまった。
「あっ……」
「いてーな奥さん……こりゃ慰謝料も貰わないといけねぇなぁ!」
嫌らしい笑みを浮かべたリーダーの手が女性の胸元目がけて伸びて行った。誰もが女性がやられると思ったとその時、その手を掴む者が現れた。
その人物はティシャンブロンドの髪を左右で結ぶツインテールにしており、低めの身長ととてもマッチしている。ただ、残念なのはその可愛らしい外見からは想像もできない程の殺気を放っている事だろう。
まぁその人物って言うか、ぶっちゃけ愛莉歌なんだけどね。
「おいおいお嬢ちゃん、折角のお誘いは嬉しいがまた今度にしてくれねぇか?」
リーダーは嫌らしい笑みを浮かべたまま愛莉歌に話しかける。愛莉歌の殺気を受けてそんな減らず口が叩けるとは……このリーダー大物なのか、ただのバカなのか……。
「お嬢ちゃんがもう少し成長したら相手にゴバァ!?」
ただのバカだったようだ。
正面からモロに愛莉歌の拳を腹に受けたリーダーはそのまま地面に崩れ落ちた。
膝から逝ったけど死んでないよな?
「このアマ!」
「やりやがったな!」
自分たちのリーダーがやられた事に手下達は一気に騒ぎ立てる。リーダーが一発で殺られたんだから自分たちが敵わない事位考えられないのかな?
「イズ君」
そんな手下と愛莉歌を見ていたら柚姉にそっと肩を叩かれ、優しく微笑まれた。よく見ると地面に倒れていた男性と女性はリズ達が確保しに行ったようだ。
「え~だって愛莉歌が……」
「お願い、イズ君。お兄ちゃんでしょう?」
一応抵抗の言葉をかけてみるが、柚姉は笑顔を絶さずに再度お願いをしてきた。
柚姉にこうやってお願いされると断れないんだよなぁ……。
僕はしぶしぶと槍を手にすると愛莉歌の元に駆け出した。
★☆★☆★☆★☆
武器を持っている大人の男を相手にしているというのに、愛莉歌は一歩も引かずに戦っていた。
戦っていたと言うか一方的に殴っていた。どんだけ強いんだよ……うちの妹弟子は……。
このまま近付くのを辞めようかと思ったその時、愛莉歌の後ろに一人の男が立ち上がった。
男は鼻から血を流しており、明らかに血走った目で愛莉歌を睨んでいる。多分彼女の一撃を耐え反撃しようとしているのだろう。その証拠に右手に持った剣が高らかに上がっている。
っと観察している場合じゃなかった。危ない危ない。
僕はおとしかけたスピードを再度上げ、愛莉歌の背中へと回り込んだ。そして、振り下ろされる剣を槍を使って下からはね上げる。
「後ろから狙うのは、ちょっと卑怯じゃない?」
「う、うるせー! ゴフッ」
何かを言いかけた男の鳩尾に石突きを突き刺し、下がってきた頭にもう一撃入れて大人しくさせる。
まだ何か言いたそうだったが、どうせ言い訳に違いないので早めに退場願った結果だ。
「うっわ、イズ姉ぇえげつな……」
掴みかかってきた男の鼻を潰した愛莉歌が呟いてくる。と言うか平気で鼻を潰す人に言われたくないな。
「遠慮なく顔面を殴る娘に言われたくないよ。後、注意力散漫だよ」
「背中に目はついていないもの、しょうがないじゃない?」
憎まれ口を叩きながらも、どこか嬉しそうに返してくる愛莉歌。そんなに戦うのが好きなのだろうか?
変な事を考えながらも愛莉歌と背中を守りながら戦う。まぁあらかた愛莉歌が一人で倒していたので、そう長くは戦っていなかったけど。
★☆★☆★☆★☆
「お、覚えてやがれ!!」
そして数分後、お決まりの文句を叫びながら男達は去っていった。やられ役の人って同じ事しか言えないのだろうか?
「あ、あの! 危ないところをありがとうございました!」
去っていく男達を眺めていると、先程助けた女性が頭を下げてきた。
「いやいや、間に合って良かったです。お怪我はありませんか?」
「はい、お陰様で」
頭を上げた女性の顔が視界に入ると思わず息を飲んでしまう。
ストレートで綺麗な髪に、優しさがにじみ出る目元。全体的に均整がとれ、まさに驚くほどの美人さんだ。ごろつきがちょっかいを出すのもわかってしまう気がする。
「あの……何か?」
「あっいや! そのごめんなさ……痛!?」
どうやら黙ったまま見つめていたようで、何か答えようとしどろもどろになっているところを後ろから愛莉歌に小突かれた。
「イズ姉ぇ吃りすぎ」
「いやだって……ごめんなさい」
小突いてきた愛莉歌に反論しようとしたが、どう転んでもアウトな気がしたので素直に謝る事にした。
「私からもお礼を言わせてくれ。妻を助けてくれてありがとう」
愛莉歌と小突き合いをしていると、柚姉とロッタに支えられた男性が近付いて来た。
「あなた、大丈夫なの?」
「心配をかけたねエルザ。全く、君を守れない自分に嫌気がするよ」
連れて来られた男性が苦笑いをしながら呟いた。全体的に優しそうなオーラを纏い、長身に細身が合わさってちょっと荒事には向いてなさそうな男性だ。
「私に何かお礼が出来ればいいのだが……」
「気にしないで下さい。私達もたまたま通り掛かっただけですし」
柚姉が笑顔で対応している。
まぁ僕たちもお礼が欲しくて人助けをしている訳じゃないしね。
「いや、しかし……そうだ、君達宿は決まっているかい?」
「宿ですか?」
「ああ、もし決まっていなかったらウチの宿を使ってくれないか? 『白と黒の円舞曲』って言う小さい宿なんだが、精一杯歓迎させてもらうよ」
何と男性が口にした名前は柚姉が目指していた宿の名前だった。
出雲:レベル27 職業:剣士 サブ:工匠
装備:布の服・鋼のハーフメイル・避雷と防風の籠手・脇差【風神(複製)】【雷神(複製)】・短槍【焔】
憑依:磐筒
愛莉歌:レベル29 職業:武闘家 サブ:狂戦士
装備:俊足の道着・鋼鉄の甲冑靴・モンスターナックル
柚葵:レベル23 職業:聖職者 サブ:???
装備:神官のローブ・革の靴・神官のロッド
咲妃:レベル27 職業:魔法使い サブ:???
装備:魔法使いのローブ・革の靴・魔力のロッド
ロッタ:レベル25 職業:鍛冶師
装備:鋼鉄のハーフメイル・鋼鉄のソードメイス
ケーラ:レベル25 職業:魔法使い
装備:魔増のローブ・魔法使いの靴・マジシャンワンド
リズ:レベル23 職業:聖職者
装備:聖なるローブ・神官の靴・聖なる杖




