35話 南へ
止まった時間を動かしたのは、いち早く回復した柚姉だった。
「やっぱり……」
やっぱり? そう言えば柚姉はこのキャンプ場で回復要員として働いていたっけ。じゃアーロンさん達の状態も知っている訳だ。
「《デザートウルフ》は解散することになったんだよ」
ケーラの口からは予想通りの言葉が紡がれる。
「リーダー達の怪我が思いの外酷くてね……ちょっと冒険者を続けるには厳しいんだ」
ケーラの説明によるとリーダーであるアーロンさんは利き腕を、副リーダーであるダリウスさんは右足をそれぞれ負傷してしまったようだ。
幸いにして命に別状はないのだが、利き腕や片足を失って続ける程冒険者稼業は優しくない。
「そこで、皆で話し合った結果、パーティ《デザートウルフ》は解散することにしたんだ」
「でもあたし達は帰る家も無いし、行くところもない……」
ケーラの言葉に続くようにリズが俯きながらポツリと呟いた。
そう言えば、前に孤児がどうとか言っていたけど……今まで事情を聞くことはなかったのだが、ケーラもリズも相当苦労しているのだろう。
「それで出来れば知り合いがいるパーティに入れてもらえれば嬉しいなぁって思ってね」
「声をかけさせてもらった」
なるほど……話しを聞いた限りでは協力してあげたいけど、何せ決めるのは柚姉だ。まぁ柚姉の性格ならすんなり許可しそうだけど……。
「…………」
しかし、意外にも柚姉は黙ったまま考え込んでしまった。何か問題でもあるのだろうか?
そう言えばケーラとリズは魔法使いと聖職者だったっけ……ロッタはまだ一人で前衛をさせるには経験が足りないだろうし……後衛ばかり増えてもいけないって事なのかな?
「良いわ、二人とも歓迎するわ」
自分なりに柚姉が考えていた理由を想像していると、柚姉から加入の許可がおりていた。
ケーラとリズも安心したのかホッと息を吐き出している。
「た・だ・し! このパーティのルールは守ってもらうわよ」
はて? 柚姉は何を言っているのだろう?
確かにパーティを組む時色々とルールを作ったが、特に気を付けていなきゃいけないルールはなかったと思ったんだけど……。
「それはもちろん、パーティのルートは守るよ」
「冒険者として常識」
ケーラとリズも何も疑うことなく、首を縦に振る。
「そんなに肩に力を入れなくても大丈夫よ。このパーティのルールはね……
抜け駆け禁止!
よ」
はい? 何ですか、そのルールは?
僕は思わず他のメンバーを見渡すが、全員が真剣な表情をしていた。
「あの、柚姉それって……」
「わかった」
「正々堂々と……というわけだね」
僕の言葉を遮りケーラとリズが力強く頷いた。
あれぇ? わかってないのは僕だけですか?
大き疑問を残しつつ新メンバーが加わった夜は更けていった。抜け駆け禁止って何に対してだろう……?
★☆★☆★☆★☆
翌日、僕達討伐隊は怪我人を連れてタッグの町へ引き返した。
僕達はこのまま進んでも良かったのだが、ケーラ達の手続き等を考えると一番近いタッグの町へ戻った方が効率が良いらしい。
怪我人を連れての移動だったため、二日の時間を要してタッグの町へ戻ってきた。出ていって一週間も経たずに戻ってきた為、ミランさんは苦笑いをしていた。
柚姉やアーロンさん達がパーティ関係の手続きをしている間、僕とロッタはミランさんの手伝いをしながら時間を潰し、ようやく再出発をしたのはさらに三日後の事だった。
「いや~馬車での旅も良いものだねぇ」
そして、僕達はシルフィード領最南端の街『デヴィンホーン』目指して移動中である。ちょうど南へ向かう商隊が居たため、現在護衛クエスト中だったりもする。
僕は馬車に揺られながら愛莉歌のフィストを鑑定している最中だ。
「そうね、頻繁にモンスターの襲撃さえ無ければこういった旅も良いものね」
「ユズキの意見に賛成」
すると、左右から柚姉とリズが声をかけきた。
柚姉が言った通り、タッグの町を出てから結構な数の襲撃を受けているのだ。オーガ襲来からここ周辺の支配モンスターが変わったのか色々な種類のモンスターが出てきた。
この護衛クエストには三パーティが参加している為、ピンチになることは無かったが、連戦に次ぐ連戦で僕達の装備が先にガタが来てしまったのだ。
神様の力を借りても所詮は人が作ったもの。使い続ければ消耗するのは当たり前って訳だね。
僕は愛莉歌のフィストを直しながらそんな事を考えていた。
武器がダメになっても目的地に着くまでは護衛クエストは継続中である。
比較的損傷が少ない魔法使い組が昼間の護衛を、その間に前衛組の装備を整備しているのである。
「ねぇイズ姉ぇ直った?」
戦いたくてウズウズしているのか、正面に座っている愛莉歌から催促の声がかかった。
「ま~だ。てかさ、何と戦ったらこうなるのさ」
僕は直しているフィストを愛莉歌に見せつける様に突き出した。
「何って……オークでしょう? 後はボアボアとかキラーベアーとか?」
「私ラージラビットを倒しましたよ」
愛莉歌の答えに付け足すようにロッタも答えてくれる。二人の答えを聞く限り防御力が高いモンスターは出なかったようだ。出なかったのなら、
「何で愛莉歌のフィストはこんなにもボロボロなんだよ!」
至る所をへこましているフィストは城壁でも殴ったと言われた方が納得しそうな程だ。
「あによ、私の使い方が悪いって言いたいわけ?」
いや、だってねぇ……。
「そう言えば、エリカが叩くと、こう……バギッって言うかボギッって言うか……。
背筋が凍るような、鳥肌が立つような……そんな感じの鈍い音が聞こえますよ」
ロッタが苦笑いをしながら教えてくれる。多分戦闘中に聞いた音を思い出してしまったのだろう。てかさその擬音だと確実に骨を狙っているよね?
「…………」
「……あによ」
じっと愛莉歌を見つめると僕の視線に耐えられなかったのか、彼女はそっと目を逸らしながら呟いた。
いや、いいんだけどね。打撃系っては元々そう言うものだし、うん、何も問題ないさ。
僕は思った事を胸に秘めそのまま作業を再開した。
と言っても馬車の中では火は使えないから、本格的な修繕は出来ない。今やっているのは応急処置に過ぎない。
「って事を頭に置いて戦ってよ」
修理したばかりのフィストを手渡すと愛莉歌は嬉しそうに装備し始めた。
「わかっているわよ!」
装備したフィストの調子を確かめるように拳をガンガンと鳴らし始める。
こいつ、言っている事がわかっているのか?
「師匠、次はコレを見てもらえますか?」
愛莉歌がうきうきと擬音が出そうな感じで馬車を飛び出していくと、今度はロッタが自分のメイスを差し出してきた。
「どれどれ……」
僕はロッタのメイスを手に取ると早速『鑑定』のスキルを発動して調べていく。
特にこれと言った損傷はないようだ。耐久値が減っているが、通常の範囲内での減少なので問題はなさそうだ。
「うん、特に問題はなさそうだね」
「よかったです」
ロッタは安心した様子でメイスを受け取るが、いつまで経っても僕が手放さないのでオロオロし始めた。
「あの……師匠?」
「そろそろロッタもメンテの仕方を覚えた方がいいと思うんだ」
僕は笑顔で話しかけた。だが、何故かロッタは引きつったような声を出して狭い馬車の中で一歩引いてしまった。一体僕の笑顔の何が問題だったのかな?
「イズ君……その邪悪な笑顔はやめた方がいいわよ」
正面から柚姉に指摘される。どうやら僕の笑顔は悪巧みをしている人のそれと同じようだ。
「いつもの笑顔の方が好き」
リズにまで言われてしまった。僕としては普通に笑ったつもりなのに……。
心に少しだけダメージを負いながらもロッタにメンテの手ほどきをする。と言っても特別な事は何もなく、武器を扱う人間なら出来て当たり前の事ばかりだ。
☆★☆★☆★☆★
一通りメンテが終わった所で商隊がストップする。太陽の傾き加減から判断すると、どうやら今日の移動はこれまでのようだ。
僕達は馬車を離れると料理を作る班とテントを建てる班に分かれた。わかれたと言っても料理が出来るのは僕と柚姉、それにロッタの三人だけだ。ケーラと咲妃の魔法使い部隊はまだ帰ってこないので、テントを建てるのはリズと愛莉歌だけになってしまう。
この二人、特に愛莉歌だけだと不安なので料理班から一人出す事にしている。今日はロッタの番だ。
「疲れた~」
「一日中の見張りは疲れますね」
柚姉と一緒に料理を作り始めると、直ぐに商隊の見張り任務から解放されたケーラと咲妃が戻って来た。どうやら二人とも大変お疲れの様子だ。
「お疲れ、今日も大変だったね」
鍋をかき回している手を止め二人に声をかけると、ケーラが腕の中に飛び込んで来た。
「疲れたよ~イズモ」
「おっと」
「はぁ~癒される~」
僕の腰に手を回したケーラは木に抱きつくコアラの様にがっちりとくっついてくる。そんなにくっつかれると料理がしづらいんだけどなぁ。
「あ~! ケーラさんズルい!! 私にも貸してください!」
貸してくださいって僕は何なんですかね?
正面からはケーラがコアラ抱っこをしているので、咲妃は後ろから抱きかかえるようにくっ付いて来た。
いや、女の子に抱きつかれるのは大変よろしい状況だけど、このままじゃお鍋が! 今日の夕飯が!!
「イズ君? 料理もしないで何をやっているのかなぁ?」
ハーレム的大岡裁きを堪能していると、後ろから背筋の凍りそうな声が聞こえてきた。この声は……!?
「イズ君は頼まれた仕事を放棄して女の子と遊んじゃう男の子だったのかなぁ」
「ひぃ!!」
振り向いた先には今まで見たことの無い笑顔の柚姉が片手に包丁を持って立っていた。
柚姉が怒っている!? てかその包丁で殺られる!?
「ユ、ユズキ? 大丈夫、イズモはしっかりと料理をやっていたよ!」
「そ、そうですよ柚葵さん! ちょっと私達がふざけていただけですって!」
何時もと違う柚姉の雰囲気に二人が必死にフォローし始める。そうだよね、今の柚姉は怖いよね。
「そうなの? それならいいわ」
「「「ほっ」」」
黒々としたオーラが消え、何時もの柚姉に戻ると僕達三人は同時に息を吐き出した。オーガ戦以上に緊張したかもしれない……。
「さてと、触らぬ神に祟りなし……って事でウチはテントに戻るね」
「あ、私も一緒に行きます。出雲、また後でね」
柚姉に聞こえないようにケーラが呟きながらテントに向かって歩き出すと、咲妃も一緒に行ってしまった。
「さぁイズ君、料理の続きをやるわよ~」
テントに行く二人を見送った柚姉が笑顔で振り返った。さっきまでのあの雰囲気は何だったのだろう? まぁ柚姉にも気分が優れない時もあるのだろう。
『出雲さんはもう少し“女心”を察するべきですね』
「そうだね、皆待っているし、ちゃちゃっとやっちゃおう」
僕は磐筒の言葉をガン無視して柚姉に笑いかけた。こんな姿だが、僕は男だ。男の人が女心を理解することは出来ないって昔何かで読んだことが有るような無いような……まぁ理解する事は無いでしょう。
『ちょっと諦めるのが早すぎませんかぁ?』
(いい磐筒。人間には越えられない壁があるんだよ)
『そんな大層な話しじゃ無いと思いますよ?』
僕は磐筒と会話をしながら鍋をかき回し続けた。もうちょっとで夕飯のスープが無くなる所だった。危ない危ない。
☆★☆★☆★☆★
夕飯を終え、各パーティから見張り番を出すと、ようやく一日が終わった気になる。
と言っても僕にはもう少しやることがあるんだけどね。
火が使える間に金属製の武器(主に愛莉歌のフィストと甲冑靴だけど)を修繕しておかないといけないからだ。
「師匠、何からやります?」
そんでもって今日はもうひとつ。ロッタにもやり方を教えようと思うのだ。昼間は愛莉歌が張り切って戦い方を教えているので、ここで頑張らないと誰が師匠かわからなくなりそうだ。
「とりあえず、自分のメイスの修繕からかな?」
僕は水と砥石、それに風神、雷神とソールイーターを取り出してロッタの横に腰掛けた。
自分の武器のメンテナンスをしながらロッタの作業を見守る。うん、こんな生活も悪くはないかな。
「師匠? 何を笑っているんですか?」
ロッタが顔を覗き込みながら声をかけてきた。どうやら気付かない内に笑っていたようだ。
「何でもないよ~それより、その炉。火力上げすぎじゃない?」
「え? あわわ! 大変ですよ!」
ロッタはあわわあわわ言いながら携帯用の炉をいじり始めた。キャンプの真ん中でドカン何て笑い話にもならないよね。
こうしてキャンプの夜は更けていった。目的のデヴィンホーン迄はまだまだかかりそうだ。
出雲:レベル26 職業:剣士 サブ:工匠
装備:布の服・鋼のハーフメイル・避雷と防風の籠手・脇差【風神(複製)】【雷神(複製)】・短槍【焔】
憑依:磐筒
愛莉歌:レベル25 職業:武闘家 サブ:狂戦士
装備:俊足の道着・鋼鉄の甲冑靴・モンスターナックル
柚葵:レベル22 職業:聖職者 サブ:???
装備:神官のローブ・革の靴・神官のロッド
咲妃:レベル26 職業:魔法使い サブ:???
装備:魔法使いのローブ・革の靴・魔力のロッド
ロッタ:レベル22 職業:鍛冶師
装備:鋼鉄のハーフメイル・鋼鉄のソードメイス
ケーラ:レベル20 職業:魔法使い
装備:魔増のローブ・魔法使いの靴・マジシャンワンド
リズ:レベル19 職業:聖職者
装備:聖なるローブ・神官の靴・聖なる杖




