34話 戦いのあと
前回までのFYO
オーガに襲われるケーラとリズ、そこへ颯爽と現れた出雲。
オーガ相手に無双を繰り広げ出雲は何とか勝利を収める。
森の中をケーラとリズを引き連れて歩くこと数十分。僕達は自分たちのキャンプ場に戻って来ることが出来た。
「イズ君!?」
キャンプ場に入るなり聞きなれた声が出迎えてくれた。
声の主は沢山のテントの前で鍋をかき回していた柚姉だ。なんて言うか、柚姉はこういった姿の方が似合う気がする。
「ただいま、柚姉。ちゃんと二人を助けてきたよ」
僕は誇らしげに報告をした。人命救助をして、その原因も討伐したのだ。きっと誉めてもらえるぞ。
「もう、無事だったから良かったものの勝手な行動しちゃダメなんだからね。イズ君まで居なくなったらと思ったら……私……」
誉められると思ったのに、柚姉は目元に光る雫を指で払うと正面から思いっきり抱き締めてきた。
そうか、心配かけちゃったんだな……申し訳ない事をしてしまった。
「ごめんなさい、柚姉」
「もう勝手に行動しちゃダメなんだからね!
さて……と、ケーラにリズちゃん、遅くなったけどお帰りなさい。無事で良かったわ」
柚姉は僕を抱き締めたままケーラとリズに言葉をかけた。
おかしい。話しかけているのがケーラとリズならば僕を離してもいいはずじゃないのか?
僕は体を揺すったりして脱出を試みたが、逆に拘束を強めるだけに終わった。
「イ、イズモが助けてくれたから……」
「ユ、ユズキやみんなにも迷惑をかけちゃったね」
二人の声はどこか震えた感じがしていた。これは絶対にドン引きしているだろう……。
「ぷはっ。ねぇ柚姉、他の人達は?」
この空気を打開するために僕は柚姉に質問をした。二人の意識を僕からそらさなければ。
「そうだったわ、その事で二人に話しがあるの。
もう一体のオーガはエリちゃん達が討伐をしてくれたわ。でもその時にアーロンさんとダリウスさんが怪我をしてしまったの」
「「リーダー達が!?」」
柚姉の話しでは愛莉歌達が合流する前に既に怪我を負っていたらしく、合流が遅れていたら危なかったらしい。二人は話しを程々にアーロンさん達が寝ているというテントへ向かって走り出した。
「柚姉、二人の容態は?」
「怪我自体はもう回復したわ……でも……」
それ以降の言葉は柚姉から発せられなかった。僕達の間に静かで重い空気が漂い始める。
「やっと帰ってきたわね」
そんな空気を払拭する元気のいい声が聞こえてきた。
「師匠ご無事でしたか!」
「出雲、怪我は無いようね」
愛莉歌に引き続きロッタと咲妃もこちらに集まってきた。そう言えば愛莉歌とロッタはあの時別れたまま以来だっけ。
「愛莉歌、ロッタと咲妃も大丈夫そうだね」
彼女らは笑顔で話しかけてきてくれた。話しを聞くとロッタと咲妃はだいぶ苦労をしたようだ。
その時、急に違和感を覚える。これは……気持ち悪い?
「ちょっとイズ姉ぇ? 聞いてるの?」
愛莉歌に軽く背中を叩かれる。すると今まで感じていた吐き気が強くなり、胃の奥から熱いモノが込み上げてきた。
「ねぇ大丈夫?」
「だいj……ゴフッ」
無事を伝えようとしたとき、僕の口から漏れたものは言葉ではなかった。思わず口許を押さえた右手は赤い液体がべったりと付着している。
「へ?」
直後先ほど以上の吐き気が襲い、大量の血が僕の口から吐き出される。そして僕の意識はここで途切れた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
気が付くといつもの黒い空間を漂っていた。最近こっちにくる機会が増えている気がする……。
「また派手にやったわね~」
相変わらず姿は見えないが、どこか楽しそうなティターニアの声が聞こえてくる。
「は~い 皆のお姉さん、ティターニアさんですよ~」
いつからそんなキャッチフレーズがついたのだろう?
「さっき考えたわ」
さいですか。もうこの人がどんなになろうと驚かない自信がある。
「ちぇ~もうちょっと反応してもバチは当たらないぞ?」
はいはい、そうですね。それで? 僕はどうなったんですか?
なげやりな態度になってしまったが、仕方ないだろう。そんなことよりもあの後の事が気になる。
「もう出雲は真面目なんだから、今あっちはこうなってま~す」
ティターニアが何かを操作したのだろう。何もない空間に映画のスクリーンみたいな長方形が現れる。そして、その長方形の中に血溜まりの中に倒れる僕と心配そうな仲間達。そして、僕の傍らに立つ神々しいオーラを放っている女性……って、
誰?
え? 誰よ、本当に……。
「まぁあの子ったら、久し振りに張り切っているわね」
ティターニアは知っているの?
僕は誰もいない空間に向かって声をかける。画面の中に居る見覚えのない女性は、正面から向き合えば無意識に膝をつき、首部を垂れて仕舞いそうになる。それほどまでに神々しさを放つ女性の知り合いはいない。
「なに言ってるのよ、あの子よあの子」
いや、あの子と言われましても……。
「もう、察しが悪いわね。磐筒よ」
はい? なんだって、磐筒だって?
小学生位にしか見えないチンチクリンが、あの神々しい女性だって?
「そう言っているじゃない」
ティターニアの言葉を半ば聞き流し、僕は目の前の映像を眺めていた。
『いきなり現れて、あんた誰よ』
『妾は磐筒。この者の体を借りておる』
僕に寄り添う磐筒に噛みつく愛莉歌。と言うか磐筒の話し方が変なんだけど。
『はぁ? どういう事よ!』
『今は時間が惜しい。機会があればまた話してやろう。
柚葵よ、今から妾の神力を出雲の体から抜く。すかさず回復の技をかけよ』
磐筒のそう言うと僕の背中にそっと触れた。そして磐筒が手を背中から離すと一緒に青白い光の球が背中から引き抜かれた。
直後、体中を凄まじい脱力感と共に何かとても大切なモノを無くしたような……そんな感じが襲ってきた。
「少しの間だけだったのに根付いちゃったのね。人が神力に依存するのは良くないわ。今のうちに忘れてしまいなさい」
そっと背中を優しく撫でられた気がする。ティターニアの手は見えないのにね。
『ちょっと! イズ兄ぃに何するのよ!!』
『慌てるでない、小娘。先にも言ったが今妾の神力を出雲の体から抜いたところじゃ。後は柚葵の力だけで何とかなるじゃろ』
磐筒は柚姉に視線を送ると、そのまま風景に溶けるように消えていった。
『ちょっと! 待ちなさいよ!!』
『いずれと言うたではないか……まぁ機会があれば話してやる……』
その言葉を残して磐筒の姿は完全に消えた。
★☆★☆★☆★☆
「ふぃ~人前に出て話すのも疲れますね~」
スクリーンから消えた磐筒はチンチクリンな姿となり僕の目の前に現れた。
「あ、もしかして出雲さん今の見てました?」
見てたけど……何さ、あれ?
「嫌ですよぅ恥ずかしいじゃないですか」
磐筒は僕の質問に答えず、くねくねと不思議なダンスを踊った。
止めてください、僕のMPが減ります。
「そんな効果はないですよ!?」
当たり前ですよ、こんなことで僕の少ないMPが減ってたまりますか。
……で、なんだったんですか? さっきのあれは。
「あれと言われましても……こう、えいやー! って感じで引っこ抜いたんですよ」
その説明でどう理解しろと?
「でも危なかったわね、もう少し遅れていたら……」
磐筒の説明に頭を捻っていたら、今度はティターニアから声をかけられた。
てか、遅れていたらどうなっていたんです? まさか死んでた……なんて?
「死にはしないと思うわ。けど、人間を辞めていたわね」
はい? 人間を辞める?
「言わば神と人間のハイブリッドね」
なんと! 神と人間のハイブリッド!!
そこはかとなく魅力的な響きにちらっと心が動いてしまった。
しかし、説明をする二人の表情は曇っていた。まぁティターニアはそんな雰囲気を纏っていただけだけど。
「そんな良いものじゃないですよ。まず、出雲さんの体が変化に耐えられません」
「さっきの吐血も拒絶反応の一種よ」
先程の言葉では言い表せれない嘔吐感が混み上がってきた気がした。
あれをもう一度体験するのは是非とも回避したい。
「運良く体に力が馴染んだとしましょう。すると次はモンスターの大群に常に狙われます」
モンスターの大群に? 何で?
「出雲さんはモンスターがどうやって強くなるかご存知ですか?」
磐筒がまるで先生にでもなったように質問してくる。
モンスターがどうやって強くなるか? さぁ? レベルでもあげるんじゃないの?
「半分正解ですね」
「出雲、この世界のモンスターはね強くなるために自分より上位のモンスターを食べるのよ」
磐筒の言葉を引き継ぐようにティターニアが正解を教えてくれた。
この世界のモンスターにはレベル分けがされているらしい……まるでゲームの設定のようだ。
まぁゲームの話しは置いといて、そのモンスター達だが普段は自分より弱いモンスターを食べて生活をしている。文字通り弱肉強食の世界なのだろう。
だが、たまにだが自分より上位のモンスターを食べる事があるそうだ。上位のモンスターを食べたモンスターはその魔力や力を取り組み己を進化させていく。そうして誕生するのがオークロードの様な所謂ボスモンスターと呼ばれる存在なんだと。
「オーガと戦っていた時に出雲さんの血を舐めてパワーアップしていましたよね? あれの強化版だと思ってください」
説明を終えたティターニアの補足をするように磐筒が具体例を出してきた。
てか血を舐めただけであれだけパワーアップするのにそれ以上ってヤバくない?
「ヤバイですよ。それに出雲さんはただの人間ですから、モンスターにとってはそれはもう格好の餌食ですね」
「全裸の体に生肉をぶら下げて夜間のサバンナを歩くようなものよ」
ティターニアの例えがとても嫌だけど、どうなるかが容易に想像出来た。きっと生肉だけでなく僕自信も美味しく食べられるだろう。
「まぁそう言うことで、人間のままの方がいいわよ」
確かに、ティターニアの言う通りだろう。僕にラノベの主人公並みに無双が出来る力が有れば良いのだが、生憎と僕は生産系だ。そういう荒事は愛莉歌にお任せしよう。
「出雲さん。身の丈を知ることは良いことだと思いますが、歳下の女の子に荒事を任せるのはちょっと……」
磐筒が何か残念な物を見る目で見てきた。だがしかし、僕は間違っていないと声を高らかに宣言しよう。
「はぁもういいですよ」
磐筒は完全に僕が戯れ言を言っていると思っているようだ。
よろしい、ならば証拠をお見せしよう。
「証拠ですか?」
ああ、僕があっちに戻れば直ぐに見えると思うよ。と言うことであっちに戻るよ、ティターニア。
「は~い、またね。サラマンダー領まではまだまだ遠いんだから気を付けなさいよ」
僕はそのままティターニア達に別れを告げると眠るように意識を手放した。
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目を覚ますと見知らぬ布地が目に入った。あの時の状況から多分用意されたテントの一つに寝かせてもらったのだろう。
「てか、ついに自分の意志で戻れるようになってしまった……人間離れが進んだのだろうか?」
出来てしまった事実を受け止めきれずため息と共に口から言葉が溢れた。
「イズ君!!」
起き上がり、手を握ったり開いたりして具合を確かめていると柚姉の声が聞こえた。
「やぁ柚姉。心配かけたね」
僕は柚姉に努めて明るい声で話しかけた。これ以上心配をかけさせる訳にはいかないしね。
柚姉は感極まったのか顔を歪ませながら一歩を踏み出した。そう、踏み出しただけだ。なぜならそんな柚姉の横を黒い何かが通りすぎたからだ。
黒い何かは目にも止まらぬ速さで距離を詰めると、胸ぐらを掴み片腕一本で僕を持ち上げた。
「グェ!?」
「……イズ姉ぇ? 素直に答えなさい。あの女は何?」
どうやら黒い何かは僕の可愛い妹分だったようだ。と言うか愛莉歌よ自分と同じくらいの体格とはいえ、男の人を片手で持ち上げるとか……どんだけ腕力鍛えているんですか?
「黙ってないで答えなさいよ……ほら、ほら!」
あろうことか愛莉歌は持ち上げた僕をさらに揺さぶり始めた。首が締まり呼吸が出来ない事に加え、揺さぶりで三半規管まで攻撃し始めるとか……ダメだ、もう僕の手には負えない……。
見えているかい? 磐筒。これが証拠だよ……。
『あわわわ……ヤバイです。ヤバイですよ出雲さん!!』
磐筒にも通じたようで頭の中に怯えた声が響く。
荒事を任せるのも納得だろう?
「あに笑っているのよ……このバカ姉ぇは!!」
「エリちゃんやめて! イズ君の顔色が!!」
柚姉が止めに入るがどうやら焼石に水のようだ。
こうして僕は再び意識を手放した。
☆★☆★☆★
三度目を覚ますと今度はパーティ全員が揃っていた。
「師匠、大丈夫ですか?」
「災難だったわね、出雲」
ロッタと咲妃が左右から僕を覗き込み心配そうに声をかけてくる。
「心配かけてごめね」
僕が謝ると咲妃は少し大胆に抱きついてきて、ロッタはどこか遠慮がちに頭を撫でてきた。あれ? これって子供をあやすときの対応なんじゃ……?
ふとした疑問が頭を過ったが、あえて気にしない事にした。気にしたら負ける気がする……。
咲妃とロッタと戯れていると、会話に参加してこない人生が二人程居ることに気が付く。
テント内を見渡すと、隅の方で愛莉歌が柚姉に叱られていた。怒られているのはなく、叱られているのだ。ガミガミと怒られるよりコンコンと正論で叱られる方が精神的にくる。
「あの……入っても良いかな?」
そんな混沌としたテント内に新しい声がかけられる。全員が入り口に注目すると、どこか恐縮した感じのケーラが覗いていた。
「ケーラじゃない。どうぞ、入って」
リーダーである柚姉が声をかけるとケーラに引き続きリズも一緒に入ってきた。
「夜遅くに悪いね」
「全然構わないわ。アーロンさんとダリウスさんは大丈夫?」
柚姉の問いかけに二人は黙ってしまう。もしかしてアーロンさん達の容態が悪いのだろうか?
「その事も含めてお願いがあってきたんだ」
ケーラは一旦言葉を切ると少し間を置き、そして話し始めた。
「うち達を《トリニティ・ノヴァ》に入れて欲しいんだ」
頭を下げて放ったケーラの言葉は予想以上の破壊力を持っており、僕達全員の時が止まった。
出雲:レベル25 職業:剣士 サブ:工匠
装備:布の服・鋼のハーフメイル・避雷と防風の籠手・脇差【風神(複製)】【雷神(複製)】・短槍【焔】
憑依:磐筒
愛莉歌:レベル24 職業:武闘家 サブ:狂戦士
装備:俊足の道着・鋼鉄の甲冑靴・モンスターナックル
柚葵:レベル22 職業:聖職者 サブ:???
装備:神官のローブ・革の靴・神官のロッド
咲妃:レベル24:職業:魔法使い サブ:???
装備:魔法使いのローブ・革の靴・魔力のロッド
ロッタ:レベル20:職業:鍛冶師
装備:鋼鉄のハーフメイル・鋼鉄のソードメイス




