33話 オーガ襲来3
勢いよく振るわれた【焔】は吸い込まれるようにオーガの腹部へ直撃した。矮小な人間が放つ攻撃なんてへでもないと思ったのだろう。確かに僕自身は矮小な人間かもしれない。だけど僕の持っている槍は一味も二味も違う。
【焔】の穂先が腹部へと接触した瞬間、大爆発が起き、僕の何倍もあるオーガの巨体はいとも簡単に吹っ飛んで行った。
「ケーラ大丈夫!? 怪我してない? 足はまだあるよね?」
吹き飛んでいくオーガを後目に僕はしゃがみ込んでいたケーラへと駆け寄ると、頭から足までペタペタと触り無事を確認した。見た感じ大きな怪我もないし、足もちゃんと二本そこにある……よかった無事のようだ。
「なんで足を確認するの!?」
ケーラは自分の足をペタペタと触る僕を驚いた目で見てくる。
足の有無で幽霊かどうかを確認するのは日本だけの習慣なのかな? そう言えば外国の幽霊って足がちゃんとあるね。
ケーラの方は問題ないようだ。ほっと一息ついて視線を上げると今度はリズの姿が目に入る。
「リズも、大丈夫そうだね」
「うん。イズモが来るの信じてたよ」
なんだかリズが嬉しい事を言ってくれる。
そっか~信じてくれていたのか~こりゃちょっとは頑張らないといけないかな?
「そ、そんなことより! どうしてここがわかったのさ!」
リズと見つめ合っているとケーラが僕の首を持ちぐいッと力任せに引っ張ってきた。そんなに強く引かれたら痛いよ?
「どうしてって……最初の爆発を聞いて森の中に飛び込んで、あちこち探し回っていたら二回目の爆発音が聞こえて、もしかしたらって音のした方に走って来たんだよ?」
決して迷っていた訳じゃない。あちこち探しまわっていたんだ。おかげで間一髪で助ける事が出来たじゃないか。僕グッジョブ!
「そんな音がしたからって……」
まだ何か言いたそうなケーラの唇を人差し指で優しく止めると、オーガの吹っ飛んだ方向へ視線を向ける。そろそろ起き上がってくる頃だろう。
「リズ、ケーラの事頼んだよ」
「わかった。イズモ……頑張って!」
リズは動けないケーラを抱きかかえると笑っているよな泣いているような、そんな顔で声援を送ってくれた。
「任せて、ぱぱっと片付けちゃうから」
僕の笑顔を見るとリズも今度は完璧な笑顔となり、後ろにぽっかりと開いている洞穴へ向かって走りだした。なるほど、あの洞穴で休憩していたのか……さて、約束しちゃったからには守るのが男の務めってやつでしょう。
「ガアアアァァァ!!」
気合を入れ直すと同時にオーガの咆哮がこだまする。どうやら大分お怒りのようだ。
「怒っているのはこっちも同じさ。僕の大切な人に手を出して……無事で済むと思うなよ」
僕は【焔】を構え直すと正面に立つ怪我だらけのオーガを睨みつける。
自然体で構えているだけなのだが、何故だか力が湧き上がってくる。ふとあの時の磐筒との会話を思い出した。
★☆★☆★☆★☆
「磐筒、力を貸してください」
『ちょっとどうしちゃったんですか!? 何時もなら怪しんで根掘り葉掘り聞いてくるのに!!』
素直に頭を下げて磐筒にお願いをしたら、予想以上に狼狽された。なんか普通に傷付くんですけど……。
「リスクがあるのは承知の上。僕がリスクを被るだけで二人を助けられるなら、いくらでも頭を下げるよ」
僕自身に案が無い訳じゃない。けど、より成功率が高い案があるならそちらを採用する。大事なのは二人を助ける事だ。
『出雲さん…………わかりました。この磐筒 全力で力を貸しましょう』
磐筒は少し考える仕草をとると、笑顔で了承してくれた。
『これから出雲さんにあたしの神力を流し込みます』
「神力?」
磐筒の説明によると、神力とは神様が奇跡をおこすために必要な力なのだと。感覚的には僕達が使っている魔力と変わらないそうなのだが、威力が段違いらしい。
『出雲さんは戦士タイプですので魔力量はそう多くありませんよね? ですが、あたしの神力を流し込む事によって伝説級の魔法使い以上の魔力を得ることが出来ます』
「伝説級って……」
さすがにそれは盛りすぎではなかろうか。
『それに今はレプリカ扱いになっていますが、【雷神】【風神】も一時的にですけど本来の力を取り戻すでしょう』
なんてこったい。レプリカでもあの威力を誇った【雷神】と【風神】が本来の力を発揮するなんて……オーガとか簡単に倒しちゃうんじゃない?
『でも注意事項が一つ。供給を切った後にどのようなフィードバックがあるか予想がつきません。もしかしたら最悪の事態になるかもしれません』
魔力と言うか神力に体が耐えられないって訳か。下手をしたらバラバラだね。
『それでも構いませんか?』
磐筒の声は先ほどまでの明るさはなく、ただただ僕を心配している様だった。
「さっきも言ったでしょ? 僕がリスクを被るだけで二人を助けられるなら問題ないって。
お願い、やって」
『もう、本当にこういう時だけ格好良くなるんですから……反則です……』
磐筒が言い終わった直後、僕の全身に温かく、そして力強いものが満たされていった。
☆★☆★☆★☆★
「ガアァ!」
思いに耽っていたら気合いの入ったオーガの右ストレートが迫っていた。通常の僕だったら避けれずに顔を潰されていたか、サルさんと同じようにお腹に風穴を開けていただろう。しかし、今は磐筒のおかげで余裕で避ける事が出来る。
剣士のスキルの中に『精神統一』というスキルがある。ゲームの中では回避率と命中率の上昇スキルなのだが、この世界では身体能力の上昇スキルになっているようだ。
この身体能力には反射神経や動体視力なども含まれており、元々鍛えられていたそれが磐筒の力を借りてさらに強化されているのだ。
正直、迫り来るオーガの拳もハエが止まりそうなスピードに見えている 。僕は慌てず左足を一歩引き半身になって拳を避けるとがら空きになっているオーガの右脇に【焔】を振るう。
「せい!」
穂先が通った数秒後、オーガの脇に赤い線が走り血が噴き出した。今は【焔】の力を爆発から熱へと変えている。グ◯のヒート◯ードを想像してくれれば解りやすいだろう。だが、僕の槍の熱量は凄まじく、刀身が白色になっている。よく熔けないでいると感心してしまうほどだ。
脇を斬られたオーガは怒りの色を濃くし、さらに攻撃を繰り出してくる。人体に近い構造なら脇にも太い血管がある筈なんだけどなぁ? 熱が高過ぎて斬った端から炭化しちゃったかな?
考えながらもオーガの拳を右へ左へと避けていく。その時も大きく動かず、一歩二歩程度で避け続けていく。
「ガァァァァアアアァァァ!!」
拳では当たらないと判断したのか、オーガは近くに生えている樹を力任せに引っこ抜くと、即席の武器として振り回し始めた。これもゲームでは無かった行動だ。
オーガの豪腕と太い樹の幹。当たったらひとたまりもない攻撃を僕は難なく避けていく。
「ああもう! うざい!」
避けれる事は避けれるのだが、攻撃の範囲が広がりこちらの間合いまで近付けない。扱いやすさを優先して柄の長さを短くしたのが仇になったようだ。
「邪魔ぁ!!」
僕は樹が振るわれたタイミングに合わせるように【焔】を振るった。オーガと力比べなんて絶対に無理だけど、相手は樹でこっちは炎の槍だ。刃が当たった部分から樹を切断していく。その抵抗の無さは溶けかけのバターを切っているようだ。
切断し終え構え槍を直す僕の横を、赤銅色の物体が通過した。目だけで追うとそれはオーガの右肩から伸びていた。
殴られたとわかるまでに数秒の時間を有してしまった。途中で樹を捨て殴ったのだろうか? まぁどうであれ殴られた事実に変わりはない。
「イズモ!?」
洞穴の方からケーラの慌てた声が聞こえる。耳が聞こえたって事はまだ耳は付いているって事だね。うん、良かった。
バックステップで距離をとると、早鐘のように打っている心臓を落ち着かせる。後数センチずれていたら僕の顔は潰れていただろう。
オーガは拳に付着した液体を舐めとると、今までに見せたこともない程嫌らしい笑みを浮かべた。
『あ~出雲さんの血、お口に合った様ですよ』
磐筒の声でゾクリと背中を流れるものを感じた。冗談ではない、ここで負けたらあいつにチューチュー吸われちゃうのかよ……。
『いや~出雲さんの体格だと、首をチョンパされて、がぶ飲みじゃないですかね?』
い~~~~や~~~~!
チューチューされるのも、人間ジョッキにされるのもお断りだい!!
僕は【焔】を構え直し気合いを入れ直した。
しかし、血を飲まれると意識すればするほど焦りが生じる。焦りは心から余裕を奪い、そしてミスが生まれた。僕はついにオーガの攻撃を避け損なってしまったのだ。
直撃は何とか回避したものの、アイツの爪が右頬を掠めていった。掠めただけなのに、ザックリと切れている頬からは血がだらだらと流れている。
てかゴリアテとやったときも頬から血を流していたよなぁ。顔への注意力が足りないのかな?
そんな事を考えていると、目の前でオーガが嬉しそうに爪に付着した僕の血を舐めている。直視しがたい光景だ。
思わず目を背けようとしたが、オーガの体に起きた変化に目を奪われる。
腕回りが明らかに太くなっているのだ。いや、太くなったのは腕だけではなく体全体が一回り程大きくなっている。
「どういうこと?」
『あ~多分、出雲さんの血に流れるあたしの力でパワーアップしちゃいましたね』
磐筒がものすごく冷静に状況を観察していた。
「何で敵までパワーアップさせちゃうかなぁ!」
『好きでやっている訳じゃないですよ!?』
「当たり前だよ! 好きでやってたら文句だけじゃ済まさないんだからね!」
剣士のスキルである『応急措置』を使用して止血だけ済ませる。これ以上血を飲まれてパワーアップされちゃ敵わないし。
【焔】を左脇に構えると、深呼吸を数回繰り返す。さっきは焦りからミスをした。ならミスをしないようにするにはどうするか……。
答えは簡単だ、焦らなければいい。
こっちの攻撃が通用するのは確認済みだし、あっちの攻撃を避けられる事も実証済み。なんだ、イケるじゃん。
僕は口許に笑みを浮かべるとオーガとの間合いを詰める為に全力で走り出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
笑いながら突っ込んでくる僕を見て、オーガは何て思ったのだろう? 気が狂ったとでも思ったのだろうか。
確かに僕の体格でオーガに突っ込むなんて、神風特攻以外のなにものでもないだろう。
そして僕がオーガの間合いに入ると同時に、オーガの拳が迫る。パワーアップした拳は早さも力も段違いだ。まぁ当たらなければどうって事はない。
僕は迫り来る拳を一歩右に動き、紙一重で避ける。頬を掠めるように通過する拳に恐怖しながらも、オーガの胸……ちょうど心臓の辺りに狙いを付ける。
「皐月流槍術奥義 鎧抜き」
一見ただの突きだが、左足の踏み込み、腰の回転、それら全ての力を穂先に集め解き放つ。
祖父の説明によれば、“一度放てば相手の鎧を貫通し敵を穿つ”そんな技だと言っていた。
そして僕が使っている槍は、磐筒の神力を宿した神槍【焔】だ。ただのオーガに負けるわけがない。
【焔】は障子紙を破るよりも抵抗なくオーガの胸板を貫いた。
オーガの目から精気が消えるのを確認してから、僕は躊躇うこと無く【焔】を引き抜いた。横たわるオーガの遺体を眺めているとレベルアップを知らせる音楽が小さく鳴る。格上相手だったし、当然か。
「イズモ~」
オーガに小さく祈りを捧げ、遺体を回収すると二人が飛び付いてきた。身長が余り変わらないケーラは正面から首に腕を回し、僕よりも大きなリズは後ろから包み込むように抱きついてくる。
「ありがとう、イズモ。本当にありがとう!」
「あたしは信じてたよ? だってイズモは王子様だもん!!」
リズの王子様発言はよくわからなかったけど、みんな無事で良かった。
「じゃあ帰ろうか? みんなが待っているところに」
二人は頷くと一旦僕から離れると、右手をリズ、左手をケーラが握り、歩き始めた。
何か最近女の子と手を繋ぐ機会が増えた気がする……はっやっぱり僕はリア充!?
今までにない好機に僕の足どりは軽かった。
出雲:レベル25 職業:剣士 サブ:工匠
装備:布の服・鋼のハーフメイル・避雷と防風の籠手・脇差【風神(複製)】【雷神(複製)】・神槍【焔】
憑依:磐筒




