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31話 オーガ強襲

「長い間お世話になりました」


 僕達は部屋を貸してくれたミランに頭を下げて挨拶をした。いよいよこのハッグの町を出る日が来たのだ。


「こちらこそ、この店を救ってくれてありがとう。また近くに来たら是非寄ってください」


 ミランは笑顔で皆と握手をしていく。


「イズモさん、娘をよろしくお願いします」


 そして僕の時だけ両手でしっかりと握手されてしまった。

 ミランの娘であるロッタは僕達《トリニティ・ノヴァ》のメンバーとなり、一緒に旅をしながら鍛冶師としての腕を磨く事になった。仲間が増えることは大歓迎だ。

 それにしてもこのミラン、見た目は職人風なのだが……。


「いいかロッタ、イズモさんの言うことをしっかりと聞くんだぞ」


「わかっているよ、お父さん」


「戦闘は慣れてないんだから、危ないと思ったら退くのも手だぞ? それとお金はちゃんと考えて使いなさい。いざと言うときに無いと困るぞ。ああ、あとそれから……」


「お父さん!! 私もう子供じゃないんだから!!」


 どうやらミランはかなり心配性のようだ。まぁ一人娘が旅立って行くのだ。心配にもなろう。

 ミランによる出発前の確認はその後二十分間続き、ロッタは町を出る前にぐったりしている。


「すみません……うちの父が……」


「愛されている証拠じゃない」


 肩を落としトボトボと歩くロッタの背中を軽く叩きながら愛莉歌が励ましている。この二人同い歳だからなのか結構仲がいい。友達が出来てお兄ちゃん嬉しいよ。


「仲良しだね、ロッタちゃんとエリちゃん」


 仲良く歩く姿を後ろから見ていたら、柚姉がそっと右腕を組んできた。


「妹分が盗られてちゃって寂しい?」


 柚姉は上から覗き込むように僕を見てくる。ついつい見上げてしまった僕の目に入って来たものは、野次馬根性が旺盛なおばあちゃんの目をした柚姉だった。


「別に、寂しいとか思わないよ」


「そうよね! イズ君はお姉ちゃんが好きだもんね!!」


 そう言うと柚姉は組んでいる右腕に力を入れてきた。腕全体が柔らかな幸せに包まれて今にも旅立ちそうだ。何処にって? 桃源郷だよ!


「え!? 出雲は歳下が好きなんだよね?」


 柚姉のセリフを聞いた咲妃が反対側の腕をとってくる。こちらも15歳とは思えない素晴らしいモノを装備している。そして驚くべき事にまだまだ成長する余地があると言うのだから末恐ろしい。


 両サイドを美女と美少女に挟まれた僕はある意味リア充なのではなかろうか……はっ! しまった、これだと町中の野郎から殺意の眼差しを……。

 受けることは無かった。むしろ周りから集まる視線のほとんどは羨望と殺意には程遠い、慈愛に満ちていたものだった。

 そう、それは落ち着きの無いをお姉ちゃん達が捕まえている様な……ほのぼのとしたアットホーム的なモノを見る目の様な……。


 チクショー!! 背か! 背が足りないのか!!


「どうしたのイズ君!? 具合でも悪いの!?」


「出雲!? しっかりして!」


 急に項垂れた僕に二人から心配する声が届くが、今の僕に応えるだけの力は残されて居なかった。


☆★☆★☆★☆★


 心に多大なダメージを負った以外は何ら問題なく、僕達は冒険者ギルドに到着した。今回も南へ向かう商隊を護衛しつつ移動する為だ。


 商隊の人達と各パーティのリーダーが話し合っている時間を利用して僕はギルド職員に言伝てを頼んでおいた。妹の千穂が僕達を追ってくるかも知れないからね。


 今回、護衛クエストを受けたのは僕達《トリニティ・ノヴァ》を含めて四つのパーティが参加していた。こっちに来た時よりも一組多い事になる。

 配置はベテランのパーティが前衛と殿を勤めてもらい、僕達は真ん中を護る事となったようだ。パーティ名の中に《デザートウルフ》の名前が無かったので、ケーラ達とはお別れの様だ。まぁまた何処かの街でひょっこり会う事もあるだろう。


 タッグの町を出発した僕達は、何事もなく最初の宿営地へと到着した。町の近くという事もあり現れるモンスターも少なく、快適な旅だった。


 しかし、どうやらこの世界の神様は僕達の旅を平穏には終わらせたくないようだ。

 問題が起きたのは翌日の昼頃、昼食を兼ねての小休止をとっていた時の事だった。

 食事の準備が終わり、さぁ食べ始めるぞと言うときに冒険者風の男が馬と一緒に転がり込んできたのだ。


「助けてくれ!」


 その男は酷い有り様で、防具はボロボロ、身体中には多数の怪我を負っていた。馬の方はずっと走ってきたのか息も絶え絶えな状態である。


「大丈夫か? 何があった」


 今回の護衛クエストでリーダー役をやってくれている男が駆け寄るとそっと抱き抱えた。後からは彼のパーティメンバーだろうか、ヒーラーの女性も駆け寄りヒールの魔法をかけている。


「お、オーガだ! オーガが出たんだ!!」


 男の叫び声に緊張が走る。

 オーガ、体長二メールを越す体格を持つ人型のモンスターで赤銅色の肌を持ち頭には角が生えている。一言で言ってしまえば鬼だね。

 特徴的なのは外見だけでなく、肌が恐ろしく硬く並みの武器では刃が立たない。また攻撃力も高く、その豪腕が振るわれれば巨木も一発で薙ぎ倒すとも言われている。

 ゲームの情報が正しければサラマンダー領やレプラコーン領の中レベル地域に生息しており、間違ってもシルフィー領には現れなかったはずだ。


「オーガだと……」


 リーダー役の男もオーガを知っているのか言葉をなくしている。


「俺は町に知らせる為に早馬でやって来たんだが、まだ仲間達が護衛対象と一緒に残っているんだ。頼む! 俺の仲間を助けてくれ!!」


 回復し終えたばかりだと言うのに男は地面に頭を擦り付ける。それほど必死なのだろう。


「しかし、今の俺たちだってオークとまともに殺り合うには装備も何も足りないぞ」


「仲間とオーガを引き離すだけでいいだ! 頼む!!」


 男の必死さにリーダーはしばらく考えると商隊と各パーティのリーダー集め相談をし始めた。

 商隊の方はオーガの討伐が終わるか、安全が保証されない限り前には進まないだろう。であるなら、僕達がどう動くかが重要になってくる。


「イズ姉ぇ、オーガだって」


「この辺りでオーガの出没なんてゲーム時代では無かったのに……」


「師匠……大丈夫ですかね」


 三人は次々と話しかけてきた。ロッタと咲妃は不安そうにしているのに対し若干一名、武器と防具の具合を確める奴がいる。


「おい愛莉歌、まさか戦うとか言わないよな」


「え? だってオーガよ? オークにちょっと毛が生えた程度じゃない」


 オークとオーガでは大分違うのだが……この妹分は既に殺る気満々だ。いつからこんなに好戦的になってしまったのだろう……初めからか。


 なんとか愛莉歌を宥めようとしてると話し合いが終わったのか柚姉が戻ってきた。


「ユズ姉ぇ、どうなった?」


 愛莉歌が突進する勢いで柚姉に近づいていく。少しは落ち着いてほしい。


「とりあえず商隊の人達を護衛するパーティとあの男の人の仲間を助けに行くパーティと分ける事になったわ」


 柚姉は話し合いで決まった事を僕達に教えてくれた。

 とりあえず、僕の予想通り商隊の人達は引き返すそうだ。その護衛に二パーティをそして男の仲間を助けに行くのに残りの二パーティを派遣する事になったそうだ。

 駆け込んできた男はこのまま新しい馬を使ってダッグの町まで行き早急に討伐隊を手配してもらうそうだ。


「柚姉、もしかして僕達は……」


「当然、討伐隊よね?」


 愛莉歌の嬉々とした質問に柚姉は困った顔をしながらも静かに頷いた。


「オークとは比べ物にならないけど、あの討伐戦も経験しているし……何よりイズ君が作ってくれたこの装備があれば討伐は無理でも他の人を助ける事はできると思うの」


 確かに、今僕達が装備してるものはここに集まっているパーティより数段上だろう。


「でも装備の力を過信する気は無いわ。あくまでも救出がメインよ、戦闘も出来るだけ回避する方向でいくわ」


 僕の顔に出ていたのだろう。柚姉は付け加えるように言った。出来れば戦いたくは無いけど、この状況じゃ戦闘を回避することは難しいだろう。


『出雲さんって意外と臆病ですか?』


 不意に頭の中へ磐筒の声が響く。

 戦う事が嫌いなんだよ、僕は弱いからね。怪我をしたくないだけなの。


『あたしは出雲さんが弱いだなんて思いませんよ?』


 磐筒はそう言うとまた黙ってしまった。まったく、買い被り過ぎだよ。


★☆★☆★☆★☆


 磐筒と話しているうちに今回の救出するメンバーが判明した。二組のパーティと一つの商隊だったのだが、そのパーティ名と商隊の名前を聞いたとき思わず気が遠くなった。


「《デザートウルフ》とアンドリュー商会って嘘でしょ」


「イズ君……嘘じゃないわ。今回依頼を出したのがアンドリュー商会でそのクエストを受けたのが《デザートウルフ》ともう一組のパーティよ……」


 なんて事だ! 早くしないとリズとケーラが!!


「イズ兄ぃ落ち着いて。ここで焦って行動してもオーガには勝てないよ」


 飛び出そうとする僕の服を愛莉歌が強く掴んでいる。

 何でこんな時にそんなに冷静なんだ!!

 そう怒鳴り付けたくなったが、服を掴む愛莉歌の手が微かに震えてる。それを見た瞬間、焦っていた気持ちが少しだけ落ち着いた。そうだ、焦っているのは僕だけじゃないんだ。迂闊な行動は控えないと。


「わかっているさ、だから僕の服を破かないでね」


「破かないわよ!」


 僕のおふざけに愛莉歌の口許から笑みが溢れる。よかった、どうやら肩の力を抜くことが出来たようだ。


「イズ君が落ち着いてくれたから話しを続けるわよ。まず私たちは彼らの昨日のキャンプ場まで移動するわ。そこで手がかりを探して、何もなければさらに進んで捜索を、何かを発見すればその場で調査をって流れね」


 柚姉か今回の作戦を聞きつつ逸る気持ちを何とか抑える。リズ、ケーラ無事でいてくれ。



 作戦を確認後、僕たちは早々に移動を開始した。遅れればそれだけ救出できる人数が減る可能性があるからだ。

 昨晩商隊がキャンプをした場所は先ほどまで僕たちがいた場所から馬を使って三時間余りの場所だった。南へ向かう旅人が毎回使うキャンプ場のようで、開けた場所になっている。


「地図だとここのようだが」


 今回の救出部隊のリーダーを勤めるリアンさんが地図を開きながら辺りを見渡している。リアンさんはCランクパーティのリーダーをしている中堅冒険者だ。今回の救出にもいち早く参加を表明してくれた。


「この辺りを重点的に調べてくれ。一時間経っても何も出てこなければ先へ急ごう」


 リアンさんの号令によって僕たちは捜索を開始する。いつオーガが襲ってくるかわからない為一人では行動せず必ず二人ないし三人での行動が義務付けられた。


「この辺って言ったって……範囲が広すぎるのよ」


「しかたないよエリカ」


 僕は愛莉歌とロッタの二人と組んで捜索をすることになった。そしてキャンプ地として利用してる街道沿いの広場ではなく、反対側の森を捜索する事にした。この場所で逃げ込むとしたら森の中だけだと思ったからだ。


「あまり離れるなよ~二次災害なんて目も当てられない」


「わーってるわよ!」


 草木を分けつつ足元を注意深く探す。人が通っただけで跡が残るのだ、さらに巨体であるオーガが通れば必ず何かしらの跡が残るはずだ。


「師匠!」


 するとロッタの僕を呼ぶ声が聞こえた。その声にはどことなく緊張が含まれていた。


「どうしたの?」


「あ、あれ」


 ロッタが指差した先には黒い塊が見える。それは人の頭にも見えなくはないが……。


「ロッタと愛莉歌はここで待ってて」


 僕は腰から風神を抜くとそろそろと黒い塊に近付いていく。そして目に入って来たものは……。


「うっ……」


 僕はその光景に思わず口許を押さえ数歩後退りしてしまった。


「どうしたのよ?」


「師匠? 大丈夫ですか?」


 僕の様子に異変を感じた二人が近付こうと移動を開始する。しかし、これは未成年の二人には見せない方がいい。


「来るな!」


 思いがけない大声に二人の足が止まる。僕はその様子に構う事なく続けて命令する。


「愛莉歌、ロッタと一緒に戻って柚姉達を連れてきてくれ」


「あによ、急に命令しないでよね」


「頼むよ」


「……しゃーないわね。ほらロッタ、行くわよ」


 愛莉歌は不貞腐れながらもロッタと一緒にキャンプ場まで戻り始めた。

 これでいい。こんな光景はあの子達には見せない方がいい。


 僕の目の前には無惨にも打ち捨てられた人間だったもの・・・・・・・が転がっていた。

出雲:レベル20 職業:剣士 サブ:工匠

装備:布の服・鋼のハーフメイル・避雷と防風の籠手・脇差【風神(複製)】【雷神(複製)】・短槍【焔】

憑依:磐筒


愛莉歌:レベル21 職業:武闘家 サブ:狂戦士

装備:俊足の道着・鋼鉄の甲冑靴・モンスターナックル


柚葵:レベル20 職業:聖職者 サブ:???

装備:神官のローブ・革の靴・神官のロッド


咲妃:レベル22:職業:魔法使い サブ:???

装備:魔法使いのローブ・革の靴・魔力のロッド


ロッタ:レベル18:職業:鍛冶師

装備:鋼鉄のハーフメイル・鋼鉄のソードメイス

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