30話 次の行先は?
ロッタのパーティ参加はその日の内に柚姉から全員へ伝えられた。
ミランから直接お願いされたが、恥ずかしい話し僕には決定権が無いので柚姉へ相談させてもらい、無事パーティへの参加が決定した。
「こ、これからお世話になりますロッタです! まだまだ駆け出しですがよろしくお願いします!!」
そして現在、僕達は借りている部屋に全員集まりロッタの歓迎会の真最中である。
「ロッタさん、これからもお願いしますね」
咲妃が真っ先にロッタに近付くと両手を包み込む様に握った。あんまり接点が無いかと思ったけど意外と仲が良いようだ。
「戦闘は私が教えてあげる。大丈夫、イズ姉ぇくらい簡単に倒せる様になるわ」
愛莉歌も近くへ寄ると謎のガッツポーズをしている。それにしても愛莉歌よ、強さの基準が僕を倒せる事なのかい?
「大丈夫、ロッタちゃんも直ぐに慣れるわ」
柚姉は二人の姿を見ると僕に微笑みかけてきた。いや、直ぐに慣れるのはいいけどね……。その度に僕が怪我をしそうだよ?
何はともあれ皆仲が良さそうで良かった、仲間内でぎすぎすしたく無いもんね。
騒ぐだけ騒いだ僕達はそのまま同じ部屋で寝た。布団の数が足りなかったので全ての布団をくっ付くけて全員で雑魚寝をするような感じだ。どことなく修学旅行の様な感じがして楽しかった。
翌朝、僕は数日振りにロッタの家から外へ出た。怪我の事や皆の武具を作っていた為にちょっとした缶詰状態だったのだが、流石に外の空気を吸わないと体に悪いと柚姉に勧められ朝の散歩へと出向いたのである。
「あれ、何か向かいが静かなんだけど」
今までは早朝の時間でも店の準備の為に忙しなく働いていた向かいの店の従業員が全く居ないのだ。何かあったのだろうか?
「何言っているのよ、イズ姉ぇが勝ったからあのデブが店を畳んでこの町から出て行ったのよ」
一緒について来た愛莉歌が説明してくれる。そう言えば、負ければこの町から手を引けって言ったっけ。ロッタの店とあの剣が欲しかっただけだから、それ以外に何を要求したのかすっかり忘れていたよ。
愛莉歌の話しによるとアンドリューはあの後「剣が……力が……」と折れた剣を抱きながらブツブツと呟いていた所を目を覚ましたゴリアテが回収していったという。そして試合前よりも明らかに劣る武具を並べ始めた店はこちらから何をするでもなく自然と店を閉めそのままこの町を出て行ったそうだ。
たった三日で店が潰れるとか……呪いか?
『呪いじゃないですよ。あたしの加護が無くなったのであの人自身の腕前に戻っただけです』
なるほど、磐筒の呪いなんだね。そうすると、僕も磐筒を失ったら呪われちゃうのかな?
『呪いじゃないって言ってるじゃないですか、もう!』
「ごめん、ごめん」
「イズ姉ぇ? 誰に謝っているの?」
おっといけない。また口から出てしまった。もう早急に何とかしないといけないな。
磐筒の呪いと言うのは冗談だけど、加護が無くなったというのは本当らしい。元々剣に封じられていた磐筒の力をアンドリューが無理矢理使っていたので封印の元である剣が壊れてしまえばその力を使えないのは当然の事である。
『ま、ある意味“天罰”ですけどね』
などと無邪気な声で言っているが、不本意とはいえ平々凡々のアンドリューの腕前を一流まで上げてしまったのだから神様の力と言うのは末恐ろしいものである。
『あ、わかってもらえました? あたしってスゴイんですよ!』
凄いのはわかったけど、この頭の中に響く声は早急に何とかしよう。
☆★☆★☆★☆★
朝の散歩から帰ったら、残りの装備の作成を開始する。といっても残りは咲妃と柚姉のローブと急遽参加が決まったロッタの武具、それに僕の籠手だけなんだけどね。
まずはローブの方から作ることにする。市販の布から作ってもいいのだが、今回は糸からこだわってみようと思う。
使う糸は柚姉達に獲ってきてもらった『マジックスパイダー』の糸を使う。マジックスパイダーは名前通り魔法を使うクモのモンスターで森などに多く生息している。
このマジックスパイダーの糸から作られる布は魔法防御に優れていて、なおかつ装備すると使用者の魔力を底上げしてくれる効果もある。
非常に優秀な効果がある素材なのだが、市場には滅多に流れない。理由は様々だが、一番の理由は買い手が限定されると言う事だろう。
魔法使いや聖職者には需要があるものだが、彼らは自分たちで素材を集めてオーダーメイドで装備を作る事が殆どだ。
または大手のマジックショップなら取り扱うかもしれないけど、そういう大きな所は在庫を抱えている。そうなると自然と市場には流れなくなるのだ。この町にはマジックショップもないしね。
そんなマジックスパイダーの糸をスキルを使い淡々と布へと精製していく。しばらく作業に没頭しているといつの間にか愛莉歌とロッタが作業場に現れてた。
「はかどってる?」
「師匠、何かお手伝いしましょうか?」
優しい言葉をかけてくれる我が弟子に比べ……付き合いが長い妹分は布を手に取りながら『今日のご飯どうする?』的な感覚で聞いてきた。
例え出来ることが少なくても、「手伝おうか?」の一言があってもいいと思うよ。
「あによ?」
どうやら無言のまま愛莉歌を見ていたようだ。愛莉歌から不機嫌な声が発せられる。これ以上機嫌を損なわない様に気を付けなければ。
「何でもないよ。ロッタもありがとうね、このあとロッタの装備を作るからその時にお願いしようかな」
愛莉歌から視線を外すと、今度はロッタへと話しかける。二人はこれで離れると思ったのだが、服を作るのに興味があるのかこのまま見学をするそうだ。スキルでぱぱっと出来ちゃうから見てても面白くないと思うけど……。
出来上がった布を広げるとアイテムストレージにしまってあった『型紙』の束を取り出す。
「イズ姉ぇ、何それ?」
「型紙……ですか?」
型紙を選んでいると二人から声をかけられた。そう言えば、これは誰にも見せたこと無かったっけ。
「これはね、『仕立て屋』のスキルで作られた型紙だよ」
『仕立て屋』とは被服系のサブ職の事だ。
生産系サブ職の中でも特に“変わり者”が多いと言われている職業の一つで、防具以外の服も作る事が出来る。人気の出た作品はものすごい額で取引される事があるそうだ。
ゲーム内だけでも数百種類に及ぶ素材があり、組み合わせ次第で様々な服を作る事が出来た。また自分でデザインしたものをスキャナーで読み取る事によってオリジナル衣装も作れるようになってからは、プロのデザイナーも服を作っている何て噂も流れたほどだ。
そんな『仕立て屋』が自分のデザインを保存しておくスキルがこの『型紙』なのだ。
「簡単に言っちゃえば服用のメモリーカードだよ」
「へぇ……どんなものがあるの?」
愛莉歌は早速興味をひかれたのかグイグイと寄ってくる。こういうところは女の子なんだけどなぁ……。
「画像表示する方法あるのかな?」
ゲームの時は画像ファイルで送れたけど……。
あれこれとステータス画面をいじっていると、不意に保存された服を着た人形がホログラムの様に表示された。もうオーバーテクノロジー過ぎて開いた口が塞がらない。
「イズ姉ぇ……これも魔法なのかな?」
「僕に聞かないでよ……」
二人して呆れているのに対してロッタは普通に型紙を確認したいる。そうなると、これも魔法の一種なのだろう。てかそう言うことにしちゃおう。
僕は二人に使わない型紙を渡すとローブを作ってしまう事にする。と言っても布に型紙を置いてスキルを使うだけの簡単なお仕事なんだけどね。
二着目のローブが無事完成しても二人は型紙のカタログを見続けていた。そんなに面白かったかな?
「ねぇイズ姉ぇってデザインとか出来たっけ?」
カタログを覗いていた愛莉歌からそんな疑問を投げられる。まったく、そんな当たり前な事を聞くなよ。
「出来るわけ無いじゃん。そこにあるのは全部友達にデザインしてもらったものだよ」
残念ながら僕にはそういったセンスは無く、大学の友達が全部書いてくれたのだ。ありがたやありがたや。
「え……イズ姉ぇって友達いたの?」
「いるよ!!」
何気に酷いなこの妹分は……。こんな見た目だけど、ちゃんと友達くらい居るんだからね!
その後、採寸するために呼んだ咲妃と柚姉にもカタログの存在がバレた。別に隠していた訳じゃないんだけどね。
女の子達によるカタログ鑑賞は結局ロッタの装備以外が出来上がるまで続いた。何がそこまで楽しいのだろうか?
★☆★☆★☆★☆
全ての装備が出来上がったのはそれから二日後だった。カタログを見ているだけでは我慢が出来なくなった愛莉歌や咲妃達が作って欲しいと直談判に着たからだ。まぁ素材も余っていたし? 別にいいんだけどね?
そして現在、旅立ちの準備を整えた僕達は次の目的地を決めるために部屋に集まっていた。
「さて、次の目的地は……何処がいいかしら?」
柚姉が全員を見渡しながら質問をしてきた。
ティターニアの言葉を信じるならサラマンダー領へ行ってみたんだけど……。
「候補が無いならモーラに行きたいんだけど」
皆が黙っているとよ愛莉歌が手を上げながら発言した。モーラって確か、
「モーラってサラマンダー領の?」
僕が質問するよりも先に柚姉が質問をしてくれた。それにしても愛莉歌もサラマンダー領に行きたいなんて……これもティターニアの御告げなのかな?
「モーラでそろそろ闘技大会が開催されると思うのよ」
なるほどね、愛莉歌が好きそうな内容だ。それにしても闘技大会とかあるんだなぁ。
「この時期でしたっけ?」
「確か闘技大会って蟹の月の第ニ週ですよね? 今が双子の月の第ニ週ですからちょうどあと一月ですね」
首を傾げた咲妃にロッタが丁寧に教えてくれる。てか『蟹の月』とか「『双子の月』とか何の事なんだ?
「イズ姉ぇもしかして『月』の数え方を知らないなんて言わないよね?」
僕の顔を見た愛莉歌が信じられない物を見る目で質問をしてきた。
「失礼な、僕だって『月』の数え方位知っていよ」
「じゃあ双子の前は?」
なんだって……双子の前? そんなこと言われてもわからないぞ。
僕は答えがわからずうんうんと唸り始めてしまう。すると横に座っている柚姉が耳元で優しく話しかけてくれた。
「イズ君、これがFYOの設定のままなら『月』の表し方は黄道十二星座と同じよ」
なるほど! それで『蟹』とか『双子』なのか!
正面で「ユズ姉ぇ反則!」なんて愛莉歌がほざいているがヒントをもらえばこっちのものさ!
「『双子』の前は『牡羊』だ!」
「……『牡牛』よ」
愛莉歌のとても残念なものを見る視線が突き刺さる。いや、わざとだよわざと。二十歳にもなって星座の順番を間違える分けないじゃないか……だからそんな目で見ないで下さい。
僕の姿があまりにも哀れだったのか、その後ロッタと咲妃がとても優しく丁寧に教えてくれた。
『月』の数は全部で十二個。それも僕達の世界で言う黄道十二星座がそのまま割り当てられているようだ。ただ僕達の世界と違うのは一年が三三六日という事で、各月四週で一週が七日間で固定されていると言うことだそうだ。分かりやすいような分かりづらいような。
そして現在は『双子の月の第ニ週』。つまり五月の終わりから六月の頭頃と言うことになり、愛莉歌が出場したがっている闘技大会は一月後と言うことになのだと。咲妃さん、ロッタさん丁寧な説明ありがとうございます。
「それじゃモーラへ行くのは決定でいいわね?」
柚姉の問いかけに全員で頷く。僕としてもサラマンダー領へ行けるのなら願ってもない事だしね。
「問題はどうやって行くか……ね」
一般的な移動方法とするならば馬車を買うか、都市間を移動している商隊の護衛任務を請負ながらの移動が一番だろう。しかしロッタの話しではここからサラマンダー領のモーラまで馬車を乗り継いで約一月かかるそうだ。上手く乗り継ぎが出来て一月。下手をすると目的の闘技大会に出場出来なくなるのでは本末転倒だろう。
次の案は都市間ポータルを使う方法だ。これなら大都市間ではあるが素早く安全な移動が出来る。
ただ、問題はお金が大量に必要だと言うことだろう。ゲーム時の値段設定そのままならアルス・テルスからモーラまでの通行料は一人三千A。今の僕のパーティは五人なので全部で一万五千A必要になると言うことだろう。
白兎のギルド預金が使えればなんて事のない金額なのだが、生憎と僕達は駆け出しの新米パーティだ。そんな大金持っている訳がない。この町で金策を行ってもいいのだけど……。
「無い袖は振れないわね。ここから南のデヴィンホーン迄馬車で行きましょう。そこからなら都市間ポータルを使ってもたいした額にはならないわ」
柚姉の鶴の一声で次の目的地が決定した。最終目的地はサラマンダー領のモーラだが、まずはシルフィード領最南端の街であるデヴィンホーンを目指す。
無事にたどり着けばいいけど……。
出雲:レベル20 職業:剣士 サブ:工匠
装備:布の服・鋼のハーフメイル・避雷と防風の籠手・脇差【風神(複製)】【雷神(複製)】・短槍【焔】
憑依:磐筒
愛莉歌:レベル21 職業:武闘家 サブ:狂戦士
装備:俊足の道着・鋼鉄の甲冑靴・モンスターナックル
柚葵:レベル20 職業:聖職者 サブ:???
装備:神官のローブ・革の靴・神官のロッド
咲妃:レベル22:職業:魔法使い サブ:???
装備:魔法使いのローブ・革の靴・魔力のロッド
ロッタ:レベル18:職業:鍛冶師
装備:鋼鉄のハーフメイル・鋼鉄のソードメイス




