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27話 VSゴリアテ

 試合前にすべての生気を失った僕はロッタに引きずられる形でギルドの受付まで来ていた。ここで試合の説明と武器の確認を行うそうだ。


「それではこれより今回の試合についての説明を行う……が、大丈夫なのか?」


 進行を買って出てくれたギルド職員が僕の顔色を見て心配そうな声を掛けてくれるので、僕は手を振って大丈夫だと伝える。

 進も地獄、退くも地獄ならとことん進んでやりますよ!


「そ、そうですか……それでは進めて行きましょう」


 ギルド職員が今回の試合のルールを述べていく。簡単にまとめると『刃挽きした武器で戦い、スキルの使用は無し。時間制限は特に無く、ギブアップをした方か戦闘不能になった方の負け』が大筋である。後は『相手を殺してはいけない』とか『武器の数に制限はないが、指定した人物の作成したものでないといけない』など、ロッタの家で決めた事などが追加されていた。ギルド職員が知っているという事はアンドリューが説明でもしたのかな?


 ギルド職員によるルールの説明が終わると今度は武器の検査が始まる。僕達は一旦武器をギルド職員に預けると、そのまま目の前で鑑定が始まった。今回は公平を期する為に鑑定はギルド所属の鑑定士が行うそうだ。


「……はい、大丈夫です。こちらはアンドリュー氏が作られた武器です」


 鑑定士は鑑定の終わった大型の矛をゴリアテに手渡した。やはりと言うか今回のゴリアテの武器はこの前サルが使っていた矛と同じタイプのようだ。大きさは大分違うけど。


「……はい、こちらも大丈夫です。この武器はロッタさんが作った武器です」


 どうやらこちらの鑑定も終わったようだ。僕は鑑定士から刀と槍を受け取ると刀を腰の両脇に差し槍を左手に装備した。


「さて、それでは準備はいいですか? 準備が出来ているのなら始めましょう」


 ギルド職員はそう言うと訓練場の方まで歩き始めた。

 今回僕の防具は準備することが出来なかったので、レザーアーマーのままだ。まぁゴリアテも金属ではなく、革の鎧を着ているので問題はないかな。



 訓練場に踏み出すと大歓声が僕達を出迎えてくれた。なんて言うか完全に見世物だね。

 歓声を送る人達から少し離れた場所に柚姉達の姿があった。関係者という事で場所を融通してもらったのかもしれない。

 訓練場の真ん中まで進むとゴリアテと対峙する。始めて会った時から無口だと思っていたけど、今日はまだ一言も発していない。ただ心なしか嬉しそうな表情をしている。

 改めて対峙すると彼の大きさが良くわかる。見た目の身長は約二m、僕との身長差はおよそ五十cmといったところか。分厚い胸板にパンパンに膨れ上がった腕。ん~僕は革の鎧でよかったのだろうか? 少々不安になってきた。


「今回も“なんでも貫く矛”なのかな?」


「ふっ今日は違うみたいだぞ」


 不安を誤魔化す為に軽口を叩いてみるが、ゴリアテも普通に反応してくれた。見れば見るほど勝ち目は無く、軽く膝が笑い始めた。

 きっとこの震えは武者震いだ、そうに違いない。いや、ビビってるわけじゃないよ?


「それでは、これよりゴリアテ氏とイズモ氏の模擬試合を開始する……双方ルールの確認はいいか?」


 審判を務めてくれるギルド職員の言葉に軽く頷く。ゴリアテも同じように頷いた。


「よろしい、それでは……始め!!」


 ここ大一番の幕が切って落とされた。


★☆★☆★☆★☆


 審判の開始の言葉がかかるが、僕達は互いに見合い一歩も動かなかった。いや、僕の方は動けなかったと言った方がいいかな。この体格差だ、下手を打つと一発で負けそうだ。


「来ないのか?」


 痺れをきらしたのだろう、ゴリアテから声を掛けられた。しかし、今の僕に声を返す余裕はちょっとない。


「……ふむ、来ないならこちらから行かせてもらおう」


 そう言うとゴリアテは矛を持った右手に力を入れる。


「ぬおおおおおぉぉぉ!!」


 人とは思えない雄叫びを上げなからゴリアテは矛を振るってくる。気迫に押され思わず一歩下がった瞬間、目の前を金属の塊が物凄い音を立てながら通り過ぎる。

 あっぶな! コイツ本当に人間!?

 顔に当る風圧でさらに数歩後ろに下がる。


「おおおお! まだまだぁ!!」


 全てが一撃必殺の勢いを持った矛を何とか紙一重で躱していく。

 ヤバイって! なんであの時『ちゃんとやってみたい』なんて言っちゃったかなぁ……。


 なんて思いながらもゴリアテの攻撃の隙を突きこちらからも攻撃を仕掛けるが、巨体とは思えない俊敏さで躱されるか、矛の柄で防がれてしまう。


「楽しいな! イズモ!!」


 そりゃそうだろう、一方的に攻撃を仕掛けられたらそりゃ楽しいだろうよ。


「こっちはそうでもないけど……ねっ!」


 会話しながらも攻撃を仕掛けるが、簡単に防がれる。ゴリアテは簡単そうに飛んでいるハエを払うように矛を振るう。たったそれだけの行為で槍を飛ばされそうになる。力の差は歴然だ。


「はっはっはっ! ならこれならどうだ!!」


 槍を払われた瞬間を狙われ、僕の脇腹目がけて矛が振るわれる。僕は慌てて槍の柄で受けるがこれが良くなかった。


「ぬおおおおおお!!」


「なっ!?」


 あろうことかゴリアテの矛を受け止めた僕の足は地面から離れていた。そう、ゴリアテは受け止めた僕ごと吹き飛ばしたのだ。

 軽い浮遊感の後、体が横に流される。小柄な僕だが、それでも四十キロくらいはある。それがいとも簡単に吹き飛ばされるなんて……。しかし、悪いことだけじゃない。吹き飛ばされたおかげでゴリアテの攻撃範囲から逃れることができた。


「うん、強い。強いねゴリアテ」


「そうだろう、そうだろう。さぁ! もっとやるぞ!!」


 ゴリアテ相手にこのまま戦うなんてやっぱり都合が好過ぎたようだ。ここからは僕もコイツ(・・・)も本気を出そう。

 僕は槍を正面に持ってくると石突を地面に付ける。そしてお腹の底から声を張り上げた。


「我の声に応じ眠れる力を解放せよ! 触れるもの皆灰塵と化せ! “焔”!!」


 僕の声に反応した穂先は鋼色から薄紅色へ変化する。そして穂先の根元に着けられた飾り布が不自然に発火した。


「バカな! 魔法武器だと!?」


 遠くからアンドリューの驚きの叫び声が聞こえてくる。その声を聞けただけで、胸の奥が少しスッとした。


「さて、第二ラウンドを始めようか?」


 僕は燃え盛る槍をゴリアテに向けた。


★☆★☆★☆★☆


 観客からもざわざわとした雰囲気を感じる。まぁ目にする機会が少ない魔法武器がいきなり試合に出てきたのだ。さぞかし驚いただろう。


「ははは、凄い! 凄いぞ、イズモ!! こんなに楽しい戦いは久方ぶりだ!!」


 ゴリアテは魔法武器を見て、驚くどころか歓喜にわいている。


「僕は楽しくないけどね……」


「そう言うな、楽しく戦わなければ損だぞ?」


 何処のバトルマニアですか? 残念ながら僕には戦いを楽しむと言う機能はついてないんです。


 一瞬の間を空きゴリアテが再度間合いに入るため突進してくる。しかし、先ほどとは違い今度は僕もゴリアテに向かって駆け出す。

 ゴリアテはそのまま矛を振り上げると突進の勢いも加えて振り下ろしてきた。迫り来る矛に僕は逆に掬い上げるように槍を振り上げる。

 身長二mを越える巨漢と子供サイズの僕。力比べの結果など火を見るより明らかだろう。観客からも悲鳴に近い声が上がる。


「もらったぞぉーー!」


 ゴリアテが勝利を確信したのか声をあげるが、その声は武器がぶつかった瞬間に響いた爆音でかき消された。

 一般的に火属性を宿した武器の特徴はその刀身に火を纏うものだが、実はもうひとつ隠れた特徴がある。それは身に纏う炎を内に秘め、衝撃と共に解放する“爆発”と言う力。


「そぅーら、もういっちょ!!」


 踏み出した左足を軸に回転を加えて槍を振り回す。その穂先は爆発によってかち上げられ、がら空きになったゴリアテの腹部を襲う。

 筋力で劣る僕がゴリアテに対抗出来る唯一の力だ。


 振り回された穂先が何か固いものに触れた瞬間に再度爆発が起こる。この爆発ださすがのゴリアテも後方へと吹き飛ばされただろう。

 僕は槍を構え直すとゴリアテに止めをさすために一気に距離を詰める。


 未だに土煙が舞い上がっている為確かではないが、ゴリアテが吹き飛ばされたと思われる地点まで後数歩という距離まで詰めた時だった。背中を冷たいものが流れたので無理矢理に体を右側へ倒す。すると頬に引掻いたような熱と痛みを感じる。よく見ると顔の横を物凄い勢いでゴリアテの矛が通過したようだ。少しでも遅れていたらちょっと放送できない顔になっていただろう。


「ふむ、かすっただけか」


 土煙を払いながらゴリアテが呟いた。と言うか自身が吹き飛ばされる程の衝撃を受けたのに盾が壊れただけってどうなのよ……。


「今の攻撃は良かったぞ。さて、続きをしようか!」


 何でこの人こんなに元気なの? 何かドッと疲れた気がする……。


★☆★☆★☆★☆


 滅入る気持ちに活を入れ、目の前のゴリアテに槍を構える。緊張しているのだろう何か流れる汗の量が増えた気がする。

 ゴリアテの方も無事と言うわけでなく、左手がだらんと垂れ下がっている。どうやら盾と一緒に左手にもダメージがいったようだ。


「棄権……した方が良いんじゃない?」


「ハハハ! 心配するな。右腕一本でも戦えるぞ!」


 ゴリアテは左手のダメージなんぞ大したことじゃないと言わんばかりに大声で笑い飛ばす。

 いや、心配して言った訳じゃないんだけどね……。


「威力は上々。しかし、その槍……少々厄介だな。折らせてもらおうか!」


 ゴリアテはそう言うと怪我をしているとは思えない速度で間合いを詰めてきた。そのまま高々と振り上げた矛を僕の頭目がけて振り下ろしてくる。慌てた僕は両手を上にあげ槍の柄で何とか矛を受け止める。受け止めるが両腕に掛かる圧力は半端なく、たった一撃受け止めただけだと言うのに槍を落としそうになる。

 片腕でこの破壊力!? バケモノですか!?


 押し返すことは出来ない為、何とか槍を動かしゴリアテの矛を流す事に成功する。武器を流す事でがら空きになった胴へ槍を叩き込もうとするが、あっさりと止められる。てか何で片手でこんなに矛をうまく扱えるのさ!

 僕は間合いを一旦外す為に思いっきり後ろへバックステップする。追いかけてくるかと思ったが、ゴリアテはその場から動かずニヤリと嫌な笑みを浮かべている。


 距離を取った僕は肩でしている呼吸を何とか整える。


「やはりな。その槍、穂先以外は普通の槍だな」


 整えていた呼吸が一瞬止まる。

 しまった……ばれちゃったか。


「その反応を見ると間違っていないようだ」


 なるべく平静を装っていたのだが、ゴリアテは確信してしまったようだ。

 ゴリアテの言うとおりこの“焔”には弱点がある。それは穂先以外では爆発の力を使えない事だ。普段なら柄の方にも何かしらの細工を施すのだが、今回は時間が無かった事と素材を揃えられなかったのが重なり魔法を宿しているのは穂先だけになっている。

 魔物相手ならば問題なかったのだが、そりゃ何合も打ち合えば嫌でもわかっちゃうか。失敗したなー。


「壊すのは忍びないが……これも仕事なのでな」


 ゴリアテはそう言うと苦労して開けた距離を物ともせずに一気に突進してきた。だから、片手が動かないのになんでそんなに早いのさ!?


「うおおおおおお!」


「ちょっ!」


 矛の間合いに入るとゴリアテは片手で操っているとは思えない速度と力でラッシュをかけてきた。こちらも上手く穂先へ当て爆発を誘発しようとするが、うまくかわされ柄にばかり攻撃を受ける形になる。

 だが、こちらも一方的にやられる訳にはいかない。矛先をうまく流しここぞと言う所で反撃に打って出る。上段からの振り下ろしや足元を狙った横薙ぎ、本命の三段突きなど出来る限りの攻撃を仕掛けるが、先程と違いゴリアテにかすりもしない。こちらの攻撃が大振りになっている訳ではないので、ゴリアテの回避力が高いのだろう。ゴリラのくせに……。


「いい攻撃だ。だが……まだまだ!」


 突出した槍を半身になり回避するゴリアテ。少し深めに踏み込んでしまった僕は無防備状態だ。

 振り上げられた矛に反射的に身を引いてしまう。しかし、高々と振り上げられた矛は僕ではなく突き出された槍を狙い振り下ろされた。


「もらったぞ!」


 衝撃は一瞬だった。右手に走る激痛に顔をしかめるが、目に入ってきた光景に痛みすら忘れる。

 ロッタが作ってくれた槍が刃の根元付近で折れているのだ。数瞬遅れて降ってきた切断された刀身は、力を無くしたのか何時もの鋼色へと戻っている。


「俺の勝ちだな」


 勝ち誇ったゴリアテの声と共に矛先が僕の目前まで迫ってきていた。

出雲:レベル17 職業:剣士 サブ:工匠

装備:布の服・革の胸当て・革のブーツ・脇差【???】×2・槍【焔】

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