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25話 アンドリュー再来

 どうも出雲です。強くなるためには日々修行を怠らない事だと思います。そこで、今日の修行は精神面を鍛えるメニューを行います。

 まず、膝を曲げた姿勢で座り、移動の自由を奪います。そしてその姿勢を保ちつつ、正面から襲い来る精神攻撃に耐え抜きます。時間は相手の気がすむまで……それまでは鉄の精神で耐え抜きます。



 などと格好よく言ってみたが、実際は朝帰りしたことを咎められ、作業場の地面に正座して柚姉達四人へ誠心誠意謝っている最中なんだけどね。


 初露店がケーラとリズの二人の協力により大成功を納めたその夜、二人と一緒に祝杯をあげたのだが……それがいけなかった。

 二人とも女の子だし、そんなに飲まないだろうという考えは最初の店で脆くも崩れ去った。そして二軒三軒とはしご酒が続き、しまいには居酒屋が閉店してしまったのでギルドの併設された酒屋で朝まで飲み明かすという大学生もビックリな宴会コースだった。

 最後は酔い潰れて寝てしまったリズと酔っ払い(完全体)へと進化したケーラを宿屋まで送り届け、帰ってきたのは朝の八時前。音をたてずに侵入したのに、ちょうどクエストに出発しようとしていた柚姉達と鉢合わせて今に至る。と言うか足が痺れた……。


「イズ君。お酒を飲むななんて言わないわ。だけどね、連絡だけはして欲しいの」


 柚姉は優しい声で話し掛けてくれる。目は笑ってないけど。


「ごめんなさい……あ、ロッタこれ昨日の売上です」


 僕は頭を下げながらアイテムストレージから取り出した袋を差し出す。気分は年貢を納める農民だ。


「もう! お金の事より師匠の事ですよ! 起きたら誰もいないとか心配するじゃないですか!!」


 ロッタはお金の入った袋をひったくる様に僕の手から奪うと中身を確認せずに作業台の上へと投げ捨てた。

 あぁ僕の半日分の苦労が……。


「イズ姉ぇがそんなに酒飲みだなんて知らなかった」


「柚葵さんもロッタさんも……出雲だってお酒を飲みたい時もありますよ。ね?」


 咲妃は必死にフォローしてくれるのに、愛莉歌は我関せずといったたころだ。妹分なら咲妃みたいにフォローして欲しいものだ。


「イズ君の事だからまた変な人に絡まれたんでしょ?」


 柚姉が頬に右手を添えてやれやれといった感じにため息をつく。

 こんな外見をしている為、昔から絡まれやすくその度に柚姉や筑紫姉、千穂等に助けられてきた。

 いや、喧嘩になれば強いよ? ただ僕が手を出すと面倒な事になるからね、主に金銭的なことで。


「そうなの? 出雲」


 咲妃が心配して声をかけてくれる。あぁ咲妃は本当に優しいなぁ。


「大丈夫だよ、昔の事だから。それに今回はケーラとリズが一緒だったから問題は無いよ」


 僕は安心させる為に明るい声で答えた。しかし、ロッタを除く三人の動きが止まった。


「ケーラとリズ……?」


「それってあの時のノームとケットシーよね?」


「へぇ……イズ姉ぇは女の子と朝まで飲んでいたんだ……」


 まずい。

 何がまずいのか具体的に説明出来ないけど、確かに命の危機を感じる!


 咄嗟に逃げようと体が反応するが、長い時間正座をしていた足は思うように動いてくれない。


「《聖なる十字架(セイントクロス)》」


 そんな僕を見逃す訳もなく、柚姉の捕縛魔法が僕を捕らえた。魔力で出来た十字架に固定された僕に出来ることは……ない!


「さ~てと……」


「出雲が素直に喋れるようにちょっと・・・・体に質問してみましょう」


「イズ姉ぇってこういう所で強情なのよね」


 柚姉が暗い笑顔で笑いかけ、咲妃の目が嫌な光を放ち、愛莉歌が拳を鳴らし始める……。そして唯一残ったロッタは状況がわからないのかオロオロとするだけでとても助けになりそうにない。

 あぁ……オワタ……。


「あ、あのね、仲間にこういった拘束魔法ってよくないと思うんだ。そうだよ、僕達には『言葉』というとても素敵なものがあるじゃないか! 今からでも遅くない! さぁ存分に話しあ、あ、やめ……そこは……アーーーーーーーーーーー!!」


 その後気が付いたら間借りしている部屋で寝ていた。隣にはロッタが居てくれて、多分目を覚ますまで付き添ってくれたのだろう。

 何があったのか思い出せなかったのでロッタに聞いたのだが、とても口では言い表せない事が繰り広げられた……とロッタが顔を青くしながら説明してくれた。

 僕は一体何をされたのだろう……。


★☆★☆★☆★☆


 拷問事件から三日の時間が過ぎた。みんなのレベルも順調にあがっていき、今は新しい装備用の素材集めを行っている。

 ロッタの腕も上がり、安定して店売り出来るモノが作れる様になってきた。


「良くなってきたね。えらいえらい」


「あぅ……ありがとうございます……」


 つい嬉しくて千穂にやるようにロッタの頭を撫でてしまったが、顔を赤くするだけで怒ってこなかった。セーフってことかな?


「ごめんください、お邪魔しますよ!」


 至福の時間を壊すように店の方から声がかけられる。その声は何処かで聞いたことがある声で……。


「邪魔するのなら帰って頂けます?」


「あ、はい。ではまた……って二度も引っ掛かりませんよ!!」


 ちっ芸人なら喜んで天丼しろよ……。

 心に黒い気持ちが渦巻きながらも店に顔を出すと真っ赤に鬣を逆立て、鬣に負けない位に顔を赤くしたアンドリューが地団駄を踏みながら怒っていた。前回見たときよりも心なしか痩せている様に見えるけど……ま~いっか。


「なんですかアンドリューさん。人の家で暴れないで下さい」


「貴女が怒らせたのでしょう!?」


 失礼な! 僕が何をやったと言うんだ!

 ムッとなったがここは抑えて相手の話しを聞こうじゃないか。


「はいはい、それで? 今日は何の用事なんです?」


「はいはいって……その前に貴女! 何か言うことがあるでしょう!?」


 はて? 僕としては何も話すこと等無いのだけれども……。


「……少し痩せました?」


「言うに事欠いてそれですか!? ええ、痩せましたとも!!」


「羨ましい、どうやって痩せたんです?」


「貴女のせいでしょ!!」


 小太りのオッサンが鬣を逆立てて小粋なダンスを踊っている。


「はは、愉快なダンスですこと」


「ムキーーーーーー!!」


「そんなに怒ると血管が切れますよ?」


「貴女がっ!?」


「……旦那、そろそろ本題を……切りがないです」


 更にからかってやろうと思ったら、後ろから来たゴリアテがアンドリューに声をかけた。ふむ、こっちもお遊びは止めにしますか。


「スー…………はぁ~~……。

 まったく、貴女と話すのは疲れますよ」


「どうも 、光栄です」


「誉めてないですからね!?

 オホンッ……今日伺ったのは勝負の詳細を伝える為です」


 なるほどね、ようやく動き出す訳か。

 返答はせず黙っていると、アンドリューはそのまま話し始めた。


「場所はギルドが訓練場を貸して下さいました、時間は一週間後の正午でどうです?」


「別に問題無いですよ」


 一週間後ならまだ少し余裕があるな。


「ルールですが……パートナーが作った武器で代表者が戦うって言うのはどうです? 当然作るのは私です」


 なるほど、自分は武器だけ作って他の人に戦わせようって事か。なら戦うのは……。

 僕は自然とゴリアテの方を見た。彼も同じようにこちらを見ていた様で目が合った。


「そして、戦闘はこのゴリアテが担当させてもらいますよ」


 アンドリューがそう言うとゴリアテの表情が少し嬉しそうに変化した。あの時の事を思い出したのだろうか。


「いいですよ、ならこっちはロッタが作った武器で僕が戦います」


「えっ!?」


 後ろからロッタの驚く声が聞こえてくるが、当然の選択だろう。相手がアンドリューならば少しは考えただろうが、今回はゴリアテが相手なのだ。そんな危険なところに女の子を送り出す事は出来ない。


「いいでしょう。後、負けた方は勝った方の言うことを聞くと言うことで」


「構いません。こちらが勝ったらこの町から出ていってもらう事……と」


「と!?」


 何を驚いているのだろう? 二人で挑むのだから要求も二つだろうに。


「当たり前です、町から出ていってもらうのはロッタからの要求ですよ。僕からは……その腰に差している剣を頂きましょうか」


 僕はアンドリューの腰に差してある剣を指差した。一見すればただの片手用直剣なのだが、ティターニア曰くこの剣こそ仲間が封じ込められた剣なのだという。

 剣を指差されたアンドリューは見てわかるほど顔色を変えた。


「な、なぜこの剣なのです……?」


「いや~実は僕“コレクター”なんですよ」


 僕は予め用意していた言い訳を語り始める。普通はいきなり剣をよこせと言われても納得しないだろう。ましてや指名された剣が曰く付きならなおのこと。


「その剣、最低でもユニークランクですよね? きっと価値があると思うんですけど?」


 僕が追い討ちをかけると、アンドリューは逆に安堵した表情を見せた。『こいつは本当の価値に気づいてないな』とでも思っているのだろう。顔色を探られるようじゃ商人は出来ないよ?


「いいでしょう……その代わり私が勝ったらこの店は私のもので、貴女は私の店で働いてもらいますよ! そうですね……客寄せでもやってもらいましょうか」


「あ、お店を譲る云々はロッタと話し合ってね。僕の一存じゃ決められないし」


「なんですと?」


「だから僕は口を出さない、何をやっても邪魔をしないと約束するよ」


「……いいでしょう。貴女さえ邪魔しなければいくらでも手はありますからね」


 アンドリューは怪しく笑った。どうやら剣の事は忘れているようだ。まぁ都合がいいけど。それにしても、男の僕が客寄せしても効果があるのだろうか? まぁ思うところはあるけど、相手が了承したのだ。このまま話しを契約まで持っていくとしよう。


 書類を交わし互いにサインをする。アンドリューは署名し終えた契約書を見て気味の悪い笑顔を浮かべる。


「はい、確かに。それでは私達はこれで……」


 契約書を懐にしまったアンドリューが店を出ようとしたので呼び止める。


「あ、ちょっと待って下さい。最後にその剣を一目見せてくれませんか?」


 最初は顔をしかめたアンドリューだったが、僕は指一本触らないと約束すると渋々とだが腰から剣を抜き両手に持って僕に見せてくれる。

 見た目は普通の片手用直剣で派手な装飾などは一切ない。だが《鑑定》スキルと用いて見てみると確かに普通の剣とは一線を画する性能が現れる。


「これは……確かに……」


「もういいですかな? ただ持っているだけでも疲れるのですよ」


 剣に集中し過ぎた様で頭の上から少々苛立ったアンドリューの声が降ってくる。どうやらかなり接近してしまったようだ。


「まったく、コレクターと言うのもあながちウソではないようですね」


 アンドリューの言葉に思わず苦笑いしてしまう。見てるだけじゃなくてちゃんとお仕事(・・・)しないとね。


「それじゃありがとうございましたっ!」


 後ろへ一歩引き、アンドリューの剣をなぞるように右手を左から右へ一文字に動かすと剣全体を薄い青色の幕が覆う。


「なっ! 何を!?」


「偽物とすり替えられると困りますからこちらで封印させていただきました」


 多分今の僕の笑顔はこの世界に来て一番の笑顔だろう。人を小馬鹿にする類のだけど。


「な、何てことを!!」


「何か不便がありまして? あっそれともお店に帰ったら偽物とすり替えるつもりでした?」


 僕の言葉にアンドリューは押し黙る。まさか本当にやろうと思っていたんじゃないだろうね。


「しかしこれでは……いや、なんでもありません……覚えておきなさい!」


 アンドリューは一瞬言葉を濁し、捨て台詞を吐くと店から出て行った。

 夢の中ティターニアに言われたようにしただけなのだが、思いのほかうまくいったようだ。それにしてもティターニアは一体何者なんだろう……。



「師匠! 何て約束をしているのですか!!」


 ティターニアについて考えていると後ろからロッタに声を掛けられる。声を掛けられると言うよりも怒鳴られた感じだ。


「何って……勝負のルール?」


「『ルール?』じゃないですよ! 私が作った武器なんて弱いに決まってます! ここは私が戦いますから師匠が武器を作って下さい!」


 彼女は僕の胸ぐらをつかむと勢いよく前後にシェイクし始めた。


「あのね……待っ……待って……ほ、欲しいよ?」


 あ、ダメだ気持ち悪くなってきた……。


「どうして師匠はそうやって簡単に決めちゃうんですか! 私が作った武器で師匠が怪我でもしたら私は……私は……!」


 おえぇ、世界が回る~あ~だずげで……。


「ロッタちゃん、もうそれくらいで許しえてあげて」


「イズ姉ェの目がヤバイ事になっている」


「出雲、大丈夫?」


 あ~遠くから柚姉達の声が聞こえる~かな? ヤバイ、耳までおかしくなった……。


 その後柚姉達に強制的に止められるまでロッタのシェイクは続いた。何か考えていたと思うのだがあまりに激しいショックに何も思い出せない。とりあえず、今日はこのまま休みにしよう。僕は布団に横になりながら回る世界を見続けた。

出雲:レベル17 職業:剣士 サブ:工匠

装備:布の服・革の胸当て・革のブーツ・ククリナイフ【ソールイーター】・脇差

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