23話 ロッタ育成中(実戦編)
「忘れ物ないか~」
朝日が昇りかけ、うっすらと町を照らし始める時間。ロッタの店の前で僕の声が響く。
今日は先日きらしてしまった鉄鉱石の採取を行うため、町の外へ行くことになっている。ついでに普段は出来ない実戦の訓練を行う予定だ。
鉄鉱石の採掘所はここダッグの町からアルス・テルスの方へ少し戻った森の中。つまりロッタと出会ったあの森になる。普段なら日帰り出来る距離なのだが、今回は夜営の訓練も兼ねて森の中で一泊し翌朝帰ってくると柚姉達には言ってある。
何かその事を告げた時のみんなの視線がひどく冷たく攻撃的な視線だったんだけど……何でだろう?
まぁあまり深く考えるのはよそう。何か地雷を踏みそうな気がするから。
忘れ物が無いか僕がアイテム名を読み上げ、ロッタがアイテムポーチから取り出すといった感じだ。
「後は……特に無いかな?」
「そうですね、最悪半日もかからず帰れますし」
僕達は頷き合うと次に装備の確認を始める。
ロッタはレザーアーマーに身を包みメイスを腰に付ける格好だ。頭は視界確保の為に帽子をかぶっている。モンスターと数回戦っただけで、後は僕との組手の時だけ装備しただけなので、全体的にまだ使い込まれた感が薄い。
対する僕はオーク討伐から使っているレザーアーマーに今回新調した槍を背負っている。
今までの西洋槍ではなく和槍、それも十文字槍で脇差しと同じくゲーム時代にあった追加拡張アップデートの際に導入された和装武器のひとつだ。ゲームの時ならばアシスト機能が働いていたので西洋槍でも難なく扱えたが、こっちの世界にはアシスト機能など無いため出来るだけ自分が使いやすいものをと思ったのだ。
「師匠の武器、変わった形してます」
やはり和装武器は珍しいのか、ロッタは先ほどから興味津々なご様子。
「帰ってきたら見せてあげるから、さぁ行くよ!」
研究熱心なロッタがこの槍を見始めると動かなくなる事は目に見えていたので、話しをはぐらかし歩きはじめる。
掛け声と共に歩き出した僕達の足取りは軽かった。
☆★☆★☆★☆★
「ロッタ、とどめ!」
「はい!!」
勢いよく降り下ろされたメイスが四つん這いになったオークの頭に直撃する。さすがのオークも頭部に金属の塊を叩きつけられたらひとたまりもない様でそのまま一撃で絶命した。まぁ周りに血と脳しょうを多大にぶちまけるオマケ付きだけどね。
街道を歩くこと数時間、僕達は目的の森まで来ていた。整備された街道付近にはほとんどモンスターが出ずピクニック気分だったのだが、森に入った瞬間にエンカウント率が急上昇した。今も襲い掛かってきたオークも始末したところだ。
「うぇ~師匠~臭いです~」
槍の間合いに居た僕でさえ血を浴びているのだ、とどめをさした張本人の状態は……まぁ言わずもがなだろう。
「次からはもっと上手く殺ろうね」
頭の潰れた豚の死体を回収しながらアドバイスにならないアドバイスを言う。
「うぇ~ん、臭いが取れませ~ん」
後ろから抱き付いてきたロッタがあろうことか人の服で顔を拭き始めた。
「あ、こら!」
「師匠にもお裾分けです!」
「そんなお裾分けは要らないよ!?」
そんなじゃれあいをしながら森の奥まで歩いていく。
森の中を歩くこと一時間余り目的の採掘場に到着する。途中で倒したオークは四体。戦闘時間を除けば十五分に一回の割合でエンカウントしていることになる。多いのか少ないのかはわからないけどね。
採掘場と言っても昔の鉱山跡地で金等の価値のある鉱物を堀尽くした為に放置された場所だ。簡単に言えば廃鉱だね。
「師匠行きますよ~」
ロッタが片手に持ったピッケルを振り回しながら入り口で呼び掛ける。ピッケルを振り回すのは危ないと思うよ。
「今行くよ~行くからピッケルを振り回すのをやめなさい」
狭い坑道の中で槍は不向きなので片手剣にもちかえる。さて、準備は出来たし入りましょうかね。
ロッタを引き連れて入った坑道は真ん中にレールが引かれており、最盛期だった頃の名残がある。等間隔で灯りが点いているのもきっと昔の名残だろう。
しばらく坑道を下っていくと第一採掘エリアに到達する。柚姉がギルドから聞いてきてくれた情報によれば入り口に近い所から第一、第二と続いていき、第四エリアが今到達出来る最奥になっているという。入り口から遠い程モンスターが強くなり、時間もかかると言うことで普段の冒険者は第二エリア迄潜るんだという。
「じゃ私達も第二エリアまでですか?」
手にしたピッケルを岩盤に降り下ろしつつロッタが質問してくる。
「まさか。泊まり掛けで来たんだよ? 最奥の第四エリア迄行くよ」
こっちも負けずにピッケルを降り下ろしながら答える。
初心者の僕達が何故こうも簡単に鉱石を掘れるか。答えはこの世界のシステムが関係している。
この世界の鉱山は光っているのだ。いや、意味のわからない事を言っているのは百も承知なのだが、実際に光っているのだからしょうがない。
某有名ハンティングアクションゲームをご存知だろうか。あのゲームは武器や防具を強化するために鉱石を掘る事がある。ゲームでは鉱石が掘れるポイントに亀裂があり、そこでアイテムの『ピッケル』を使用すれば鉱石が手にはいるシステムだったが、この世界は亀裂の代わりに光っているのだ。
光の色は希少度を表す色と同じで五段階に別れている。この鉱山はすでにめぼしい鉱石は堀尽くされたのか白い光がほとんどで、極希に青い光があるだけだ。
「私達モグラになった気分ですね」
「モグラはピッケル使わないけどね」
まだ無駄口を叩く余裕があるようだ。
★☆★☆★☆★☆
第二エリアを堀尽くした所でキャンプの用意をする。ずっと坑道の中に居るので気付かないが、今は夕方を回り夜に片足が入った時間くらいになる。通常のキャンプでは準備をするには遅すぎる時間だ。
「ここでキャンプするんですか?」
移動した先を見ながらロッタが不安そうな声をあげる。それもそのはず、第二エリアから移動した僕達の目の前にはかなり古くなった木製のドアが一枚あるだけで、後は普通の坑道と変わらなかったからだ。
「正確にはこの中だけどね」
僕はドアを壊さない様に慎重に開ける。
「こんなドア私でも壊せそうですよ」
「壊さないでよ。この中で唯一モンスターが入ってこれない様にモンスター避けの秘術が使われているドアなんだから」
ドアをくぐり中へ入ると十畳程の空間が空いており、坑道内よりも多めに照明が設置されていた。寝るには少し眩しいけど安全面を考えるとしょうがないのかもしれない。
「師匠詳しいですね~どこからそう言った情報を手に入れるんですか?」
照明器具を眺めているとテントを設置しているロッタから質問がきた。特に隠す必要もないため素直に答えることにする。
「柚姉が話しを聞いてくれたギルド職員の友人のお父さんの同僚からだよ」
「遠いです! それ本当に信じていい情報なんですか!?」
確かに、僕もどこまで信用していいかわからない情報の出所だけど、
「その同僚の方って、元炭鉱夫なんだって」
「……わざわざ回りくどい言い方しなくても良いじゃないですか」
ロッタは作業の手を止めると、こちらを睨んできた。睨まれてもなぁ……今気が付いたんだし……。とりあえず、笑っておくか。
「ハッハッハッ」
「もう! 誤魔化すのは無しですよ!!」
ロッタはそう言いながら僕の胸を軽く握った拳でポコポコと叩いてきた。正面から肩たたきを受けている気分。悔やまれるのはロッタの方が若干背が高い事か……。若干だよ? 本当だよ?
テントを張り終えるとそのまま夕飯の準備に取り掛かる。
さすが元休憩所。かまどなどの設備が既に整っている為、ささっと夕飯が作れそうだ。
僕はアイテムストレージから一個の石を取り出すとかまどの真ん中辺りに置き、ナイフの尖端で数回叩く。すると石が徐々に赤みをおび始め、ボッという音と共に勢いよく炎が生まれた。
「師匠なんですか? それ?」
後ろから覗き込んでいたロッタが質問を投げかけてくる。冒険者になって間もない彼女には珍しい物だろう。
「これはね魔宝石だよ。この石自体に炎の魔法が付与されてあって魔力が続く限り炎の生み出すんだよ」
旅を続ける冒険者には有難いアイテムだ。嵩張らないし魔力を込めれば繰り返し使える。荷物の軽減と経費削減が見込める素晴らしいアイテムだ。
付与されている魔法によって値段が変わるが、かまどに入れたような簡単な魔法ならそこそこの値段で買うことが出来る。
「へぇ初めて見ました」
説明を聞いたロッタは目を輝かせながらかまどを見ている。やはりこういうのに興味が出るようだ。
「これってどこで手に入れるんですか? 買うんですか?」
「街のアイテムショップで普通に売ってるよ。まぁ僕も作れるから欲しいなら……」
「師匠、作れるんですか!?」
ロッタは説明を言い終わる前に食いぎみで反応してきた。いや、興味を持ってくれる事は嬉しいんだけどね。
「う、うん。一応魔法技師のJobもとってあるから……」
工匠のJobに就くための前提条件にこの魔法技師も含まれている。魔法武器を作る時は重宝した記憶がある。
ものは試しと今日採掘したばかりの石を使って実演することにする。
本当なら魔力に対してもっと耐性のある鉱石を使うのだが、今回はデモンストレーション的なものだから使い捨てでもいいだろう。
石ころを手に取りコマンド操作で“水”の魔法を付与する。ふと『これにもスキルがあるのだろうか』と考えが過った瞬間、頭の中に言葉が浮かんだ。
「我は汝に願う。其の身にウィンディーネの力を宿したまえ」
僕の言葉が言い終わると同時に、右手に握った石へ水のルーンが刻まれる。
「凄いです!」
目を輝かせてはしゃぐロッタに微笑みかける。
僕はロッタに鍋を持ってくるように伝えると、魔法石となった石ころを握りしめ魔力を込める。
ロッタが慌ただしく持ってきた鍋の上で握っていた手を開く。すると魔法石から湧き出す様に水が溢れ出す。結構な勢いがあり、ロッタが持っている鍋はすぐにいっぱいになるだろう。
「うわぁ……」
ロッタは石から水が湧き出すという現象に目を奪われたようだ。とても嬉しそうに眺める彼女を見ていると、僕も嬉しくなる。
向こうさんはレア以上の武器を用意してくるだろうなぁ。それにティターニアの友人ってのも気になるし……。でも駆け出しのロッタにレア武器の作製は厳しいよなぁ~せめてランクの高いインゴットが作れれば……。
「師匠、もう少しでいっぱいですよ。……師匠?」
その時ふと魔法石が目に入る。
そうか! 何も普通の武器じゃなくてもいいんだ!! それに向こうさんも“二人まとめて相手してやる”って言っていたし……これはちょっと勝機が見えてきたぞ!
思わぬところで今回の勝負に勝機を見いだせて思わず右手の魔法石を握りしめる。
「ちょ! 急に水の勢いが!? って冷た! 冷たいです師匠!! 止めて、止めて下さい! このままじゃパンツまでびしょびしょになっちゃ……あ、あ、もうダメ……で……きゃーっ!!」
手の中で石が割れた感触が伝わる。どうやら込められた魔力に耐えきれなかったようだ。
「こんな感じだけど……何でお鍋を頭から被っているの?」
説明をしようとしたらロッタが頭から鍋を被り全身びしょびしょにしていた。これは何かのおまじないだろうか?
「風邪ひくよ?」
「師匠が止めてくれなかったからですよ!! あ~もうパンツまでグショグショです~」
防具を脱いだ状態だったのがいけなかったのか、濡れてぴたっと張り付いた服はロッタの体のラインをはっきりと浮き彫りにしていた。出るところは出て、引っ込むところは引っ込む。同じ十八歳の愛莉歌と比べても差は歴然だ。
と言うか愛莉歌も外国の血が混ざっているんだからもう少しこう……ね?
誰に問うわけではないが、疑問を投げ掛けてみる。
何て思っているとロッタが服を脱ぎ始める。濡れてくっついている分脱ぎづらそうだ。そのまま濡れた服と格闘する事数分、シンプルなデザインの下着が……。
「って何で脱いでるの!?」
「何でって濡れた服を着たままだったら風邪を引いちゃいます」
叫び声をあげた僕に対してロッタは『何を言っているのかわからない』といった顔をしている。濡れた服を脱ぐのはわかる。わかるけれども、
「僕、男だよ!?」
「師匠はなんだか“男の人”って感じはしないんですよね~それに一度全部見られちゃってるし……きゃー! 言っちゃった!」
ロッタは赤くなった顔を隠すように頬を両手で包み後ろを向いてしまう。
向くのはいいのだが、宣言通りぐっしょりと濡れたパンツはお尻に張り付きその肉付きの良い美味しそうな桃を……。
「ノーーーー!!」
僕はアイテムストレージから外套を取り出してロッタに被せ、ロッタのお尻を隠す。それと同時にもうひとつ、火の魔法石を使って簡易焚き火を作りロッタの服を乾かす準備をする。この間およそ五秒(自己感覚)。自分でも驚きの早さである。
「師匠?」
「女の子ならもう少し恥じらいを持ちなさい!」
くっそ~DTには刺激が強すぎるよ……。
張り裂けんばかりに早打ちする心臓をなだめながら料理を作り始める。
今日の夜は眠れそうにないと小さな溜め息がもれた。
出雲:レベル17 職業:剣士 サブ:工匠
装備:布の服・革の胸当て・革のブーツ・十文字槍・脇差
ロッタ:レベル7 職業:鍛冶師
装備:布の服・革の胸当て・革のグローブ・革のフォールド・革のブーツ・メイス




