22話 ロッタ育成中
アンドリューを撃退したその日の夜の事だった。僕はまたおかしな夢を見た。
『お久しぶりですね。無事にお仲間が出来てなによりです』
僕がこの世界に来た時に話しかけてくれた人だ。人かな?
『早速ですが、貴方にお願いがあります』
相変わらず声だけが聞こえてきて姿は見えない。姿どころか辺り一帯が真っ暗で自分の姿すらわからないんだけどね。
『あの……聞いてます?』
ごめんなさい、聞いてます。ティターニアさん……でよかったですよね?
ついつい考えに浸ってしまい返事を忘れていたら、不安になったのかそんな質問が投げ掛けられた。
『はい、ティターニアです。それと私の事はティターニアと呼び捨てでいいですよ』
いや、妖精の女王様と同じ名前を呼び捨てとか僕にはハードルが高すぎます。
『ふふ、そんなことないです。私の声に答えてくださったのは貴方だけです。これはきっと運命ですわ』
いや、あの……そうですか? 運命ですか……。
『はいっ! 貴方ならきっとこの運命を断ち切って下さると信じていますわ!』
今日のティターニアはどこかテンションが高い。何か良いことでもあったのだろうか?
まぁティターニアのテンションは置いといて、お願い事って何ですか?
『あらいけない、私としたことが……お願いとは、私の仲間を解放していただきたいのです』
仲間の解放? それは誘拐とかそういった類いの話しですか?
おっと、一気に話しがキナ臭くなってきたぞ……。
『いえ、誘拐ではなく封印されているのです。それも無理矢理力を引き出されている状態で……』
はぁ……封印ですか? でも僕封印とか全然詳しくないですよ。
『大丈夫です。解放と言っても簡単で、人の武器を壊して頂くだけでいいのです』
武器をですか……まぁ出来なくもないですけど、その武器を持っている人は誰なんです?
なんとなく予想はつくけど一応聞いてみる事にする。
『アンドリューと名乗る鍛冶師です』
やっぱりかぁ……何となくそんな気がしていましたよ。
『では頼みましたよ……ああ、もっとお話ししていたいのにどうやら時間が来てしまった様です……また会える日を心よりお待ちしておりますわ。出雲様』
あれ? 今僕の名前……。ティターニアには教えてなかったと思うけど……。
それを確認する前に僕の意識は薄れていったのだった。
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ティターニアと会話してから数日経ったが未だにアンドリューから対戦の内容についての連絡が無い。ある程度レベルのヒールと解毒魔法があればそんなに長引く事は無いと踏んでいたのだが、これは嬉しい誤算だった。
“その間に出来る事を”言う事で柚姉達はレベル上げを、僕達は本格的に鍛冶師としての修行を始めていた。今はロッタの家の工房で鉱石からインゴットを作り出している最中だ。
「コレとコレ。どっちがロッタが作ったかわかる?」
作業台の上に二つの鉄製インゴットを並べて置く。見た目はどちらも同じ鉄製インゴットなのだが、性能が違っている。
作り方は同じでも作った人が変われば出来も変わってくる。それは『カレー』という料理が各家庭それぞれに味が違うのと同じだ。ついでに僕はスキルボーナスで普通に作るよりも性能が高い物が作れるので、見習いのロッタと比べればその差は歴然だ。
ロッタは作業台の上に置かれたインゴットを穴が開くほどに見ている。
「う~ん……」
「ロッタ、唸ってもわからないよ」
揺らす頭の動きに合わせて額の上から生えているアホ毛が踊るように動いている。時折インゴットに触れては何かを調べる様に動き、また頭の動きに合わせてピコピコと動く。思わずそのアホ毛が触角になっているのではないかと思うほどだ。
「は~い、時間g」
「!……コレです!!」
いつまでもアホ毛のダンスを見てる訳にもいかない為、時間切れを告げようとした瞬間にロッタは一つのインゴットを手に取った。
「本当にそれでいいの?」
「はい! 大丈夫です。こっちが私が作ったインゴットです!!」
自信満々に答えるロッタの頭を僕は笑顔で叩いた。
「ふぎゃ」
「不正解~ロッタが作ったインゴットはこっち」
頭を叩かれたロッタが涙目でこちらを見上げてくる。
そんな目で見るな弟子よ。僕も心を鬼にして叩いているのだよ。
「もう! 叩き過ぎですよ、師匠!!」
ちなみに彼女が叩かれるのは今日で三回目だ。
「ロッタが何時まで経っても間違えるからでしょ? それに言ったよね? 『ちゃんと鑑定しろ』って」
僕の言葉にロッタはうっと顔をしかめるとそのまま二つのインゴットを見ながらまた唸り始めてしまった。
“鑑定”のスキルは対象物の情報を表示してくれるスキルだ。商人系の職に就いている人は誰でも使えるスキルで、使い方は主に売りに来たモノの詳細を知るために使われている。
そして僕達『製造系』はもう一つ別の使い方をする。それは対象物の情報の中にある希少度を知る為に使う事だ。
この前森の中で手に入れた木材の様に『一級木材』や『二級木材』と初めから等級が付いている物もあれば今回のインゴットの様にわからない物もある。
そして僕達鍛冶師が扱う鉱石などの素材の殆どが一目でわからない物なのだ。
ではどうやって調べるのか。普通に鑑定しても表示される情報はどれも同じなのだが、唯一違ってくる箇所がある。それは名前だ。
鑑定によって表示される情報のうち希少度を示す為に名前の色が変わるのだ。希少度何てゲームの中だけの話しかと思っていたけど、この世界でも通用するらしい。気性度を表す色は五段階に分かれ、以下の様になっている。
希少度1・ノーマル:文字の色は白色。一般的に普及している物で大概の物はこのレベルになる。
希少度2・レア:文字の色は水色。店売りはしているが厳重に保管されそれなりの金額も要求される。また、一般的な鍛冶師が作れる物での限界レベルでもある。
希少度3・ユニーク:文字の色は青色。魔法が付与されている物が分類される。店売りはされておらず、入手するにはダンジョンで拾ってくるか、魔法付与が出来る魔法技師に作って貰うしかない。
希少度4・レジェンド:文字の色は紫色。ユニークよりも強力な魔法が付与されている。家宝として代々受け継がれる物が多く滅多に市場に出ない。そして工匠が作れる最高レベルでもある。
希少度5・ファンタジー:文字の色は赤色。高レベルダンジョンのボスドロップレベルの物で市場にも出ていない。現在確認されている物も三点のみで国で管理されている。
ちなみに、僕の『ソールイーター』はユニークランクの武器に分類される。使われている素材と付与された魔法から判断された様だ。
この表で見ると鍛冶師であるロッタはレアまで、工匠である僕はレジェンドランクまでの物は作ることが出来る。だがあくまで“出来る”というだけで現実的にはレジェンドクラスを作るのは不可能だろう。 理由は簡単で必要な素材を集める事が出来ない事と成功率が極めて低い事だ。ゲームの時ならば必要な素材も時間を掛ければ集める事が出来るだろう。だが、ここはゲームじゃない。死んだらそれまでなのだ。
死に物狂いで素材を集めても成功する確率は限りなくゼロに近い。それならばまだ集めやすい素材で出来るユニークランクやレアランクを鍛えていったほうが現実的と言うことだ。
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製造物のランクを決めるのは素材のランクと鍛冶師のレベルで決まる。
素材のランクは言うまでもないが、製作者のレベル、名声なんて言い換えてもいいがこれが高いとランクにも補正がつくのだ。当然低レベルのロッタに付く補正は当てに出来ないのでちょっとでも良いものを作るために素材のランクは高い物が要求される。
「って説明したよね?」
「はい! 教えてもらいました!!」
はぁ……ダメだこりゃ。
多少の嫌味を言葉に含めたつもりなのだが、ロッタには通じなかった様だ。
「じゃあ何で“鑑定”のスキルを使わないのかなぁ?」
「“使ってない”じゃないんです、“使えない”です!」
真剣な表情で言い放ったロッタの言葉に、僕は持っていたインゴットを落としてしまう。
「何で!? 最初に確認した時は使えていたよね!?」
思わずロッタの両頬を摘まんでしまった僕は悪くないと思う。
それにしてもロッタの頬は柔らかくて気持ちいいな……。
僕はフニフニとしばらくロッタの頬で遊びだす。
「でみょ、ししょうひゃちゅきゃってにゃきゃったれすにょ」
ロッタが何か言っているけどさっぱりだ。いや、手を離せばいいんだけどね。この柔らかさは癖になるわ~。
ロッタが“鑑定”のスキルを使えることは初日で確認済みだ。
この世界ではスキルを使うのにも魔法と同じく呪文の詠唱が必要だとロッタ本人が教えてくれたと言うのに。それにしてもスキルを使うのに呪文の詠唱が必要だとは思わなかった。僕達プレイヤーは使用するスキルを思い浮かべスキル名を言えば発動していたため、呪文があることすら知らなかったのだ。
ロッタが父親であるミランから呪文を教わっていたのが不幸中の幸いだろう。
「ししょう、いふぁいれす」
考えている間もロッタの頬をフニフニしていたようで、遂にロッタより抗議の言葉が発せられた。たぶんだけど。
「あ、ごめんごめん」
謝りながら手を放すと、ロッタは少し赤くなった箇所を覆う様に頬に手をやる。
「もう、私のほっぺはオモチャじゃないですよ」
頬を膨らませながら抗議してくる彼女が可愛くて僕は……、
ロッタの鼻を摘まんだ。
「ふにゃっ!?」
「それよりも質問に答えてくれるかなぁ? 何でスキルを使わなかったのかなぁ?」
驚いたロッタが僕の右手を両手で掴んでくるけどそんなことじゃ摘まんだ鼻を放してはやらない。
そう、これは師匠として行っている事であり、照れ隠し何かじゃない……本当だよ?
「言いまふ! 言いまふからふぁなしてくらふぁい!!」
あまり長く摘まんでいるのも可哀想なので、放してあげる事にする。
「もう! 他の女の子にやったら嫌われますよ!!」
何を言っているんだろうねぇこの子は。こんな事他の子にやるわけ無いじゃない。柚姉は歳上だし愛莉歌にやったら殺される。咲妃は怒らないと思うけど反応に困るし、見ず知らずの他人にやるほど礼儀知らずじゃない。だから、
「安心して、やるのはロッタだけだから」
と、言葉にしてちゃんと伝えてあげた。
「え……私だけ? ……私だけ!?」
一瞬ポカンとした表情をしたロッタは急に顔を赤らめ後ろを向くと、くねくねと変な踊りを踊り始める。大丈夫だろうか? 一緒のものを食べているから変な物を食べたって事は無いと思うけど……。
十分ほど不思議な踊りを見た後、ようやく正気を取り戻したロッタから話しが聞けた。
なぜスキルを使わなかったのか……原因は僕にあった様だ。
先に述べた様に僕達プレーヤーはスキルの呪文を唱えない。と言うより知らない。なので、僕がスキルを使うときはいつも無詠唱になる。彼女はその姿に憧れたようで、自分も無詠唱でやってみたいと思い実践してみたと言う。
結果はただ唸っただけでスキルは発動せず僕に怒られたと言うわけだ。
あの時の“使えません”発言は『(無詠唱で)使えません』と言いたかったとのこと。
紛らわしいね~本当に。
「もう、いきなり出来るわけ無いでしょう?」
「だって格好よかったんですもん……」
ため息混じりの僕のセリフに不貞腐れながらも反論してくる。格好良い悪いの前に確実性を重視するべきだろうに……。
「それは追々やっていくとして、今はこっちに集中しようね」
僕は作業台の上に山の様に積み上がったインゴットを指差す。すると作業台を見ていたロッタがとてもぎこちない動きで、僕に笑顔を向けてくる。錆び付いたロボットでももっと滑らかに動くだろうに。
「あの、師匠……手伝っては……」
「頑張ってね」
笑顔には笑顔で返してあげよう。
その後半分泣きながらノーマルランクとレアランクの選別作業を行うロッタを眺めること数十分。ようやく作業台の上に置かれたインゴットの仕分けが終わる。
「師匠~終わりました~」
「はい、お疲れ様でした。じゃ次は……」
何をやろうか考えていると腰に軽い衝撃を感じる。慌てて下を向くとロッタが泣きながらしがみついていた。
「師匠~休ませてくださ~い」
全く情けない……と思ったけど、よく見るとロッタのMPが底をつきそうだった。これでは次の作業は出来そうに無い。
まぁ時間もお昼を過ぎたし、ちょうどいいかな?
「しょうがない、お昼にしようか」
僕のこの一言が嬉しかったのか、ロッタは腰に回した腕にさらに力を込めてきた。尻尾があれば千切れんばかりに振っていただろう。
「師匠~大好きです~!」
ロッタの口からとんでもない言葉が吐き出されるが、ここは平常心を保つ。
勢いで出た言葉だから勘違いしないするなよ~僕。先走りは悪い結果を招くぞ~。
「はいはい、僕もロッタが大好きだよ~だからお昼食べて一休みしたら続きをやるからね~」
「師匠は鬼ですか!? あ、でも鉄鉱石がもう無いですよ?」
腰にロッタを付けながら作業所の隅へ移動すると、確かに鉄鉱石が置いてある所には何もなく床が見えていた。これでは新しいインゴットは作れない。
「あちゃー確認不足だったね。それじゃ明日は鉄鉱石を採りに行くとして、午後は……」
「休みですか!?」
期待に満ちた眼差しを向けられたのでこちらも笑顔を向けてあげる。
「師匠!」
「ここにあるノーマルランクのインゴットを使って生活費を稼ごうか?」
「鬼~~!」
叫ぶロッタを引きずりながらキッチンを目指して歩き始める。何と言われようとこの勝負は負けられないんだ。徹底的に鍛えるよ~
久しぶりにやる気が満ちてきた気がした。
出雲:レベル17 職業:剣士 サブ:工匠
装備:布の服・革の胸当て・革のブーツ・ククリナイフ【ソールイーター】・脇差
ロッタ:レベル5 職業:鍛冶師
装備:布の服・革の胸当て・革のグローブ・革のフォールド・革のブーツ・メイス
最近更新のペースが遅れてごめんなさい。ちょっと色々と嫌な事が続きまして……。
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なんて、言ってみたり? これからも見捨てずにお願いします^^




