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21話 アンドリュー現る

 目の前に広がる花畑を僕はとぼとぼと歩いていた。

 確か僕は皆が作ってくれたサンドイッチを食べいたはずだけど、どうして花畑を歩いているんだろう?


 目的もなくただただ歩いていると目の前に大きな川を発見する。


「何だこの川? やけに大きいけど……」


「おや、今日のお客さんは随分と若いね」


 声のした方を向くと一人の老婆が白い服を手に持ちこちらに近付いてきた。

 おや、この光景は確かどこかで……。


「まぁここに来てしまったのなら残念だけどしょうがないね~。この服に着替えてこの川を渡るんだよ」


「はぁ。これに着替えればいいんですね」


 僕は老婆から手渡された白い服を広げてみる。和服の装いをしている服はまるで……。


「出雲!? こんな所に来ちゃダメだよ!」


 白い服を見ていたら対岸からこれまた老婆の声が聞こえる。でもこの声は何処かで聞いた事のある懐かしい感じだ。


「ほら! さっさと帰りな!! あんたにはまだやる事があるだろう?」


 老婆が僕の後ろを指差すとそこには白い球体が浮かんでいて、中から柚姉や咲妃、ロッタの声が聞こえてくる。


「どうやらあんたはまだこの場所は早いようだ」


 そう言うと目の前の老婆が白い服を取り上げ僕を球体の方へ追いやる。


「待ってください。あの、ここは一体?」


 慌てて老婆に質問するが、老婆は只々笑顔でこちらを見るだけだった。

 それにしてもこの婆さん力強いな!


「あんたにはまだ早い世界さ」


「出雲! 頑張るんだよ!!」


 対岸からの声援を受け取ると同時に僕は白い球体へと投げ込まれた。一瞬の浮遊感の後僕は自由落下を始めた。


「また落ちるのかよぉぉぉぉ……!!」


☆★☆★☆★☆★


「ぉぉおおっ!?」


 自分の声に驚き目を開けると心配そうに覗き込む柚姉、咲妃、ロッタの顔が目に入った。


「あれ? 花畑は? お婆さんは?」


 僕の呟きに三人は同時にため息をつく。


「間に合ってよかったわ」


「うわ言で誰かと話し始めた時はダメかと思いましたね」


「師事したその日に師匠が死んじゃうなんて冗談でもキツいですよ~」


 三人が次々と話しかけてくるが、どうやら話しをまとめると僕は死にかけたようだ。と言うことはさっき歩いていたのは犀の川原ってこと……? 何と言うか、臨死体験だった……ということか。

 それにしても愛莉歌の料理恐るべし……。


「この世界に魔法があって本当に助かったわ」


 柚姉が頭を撫でながらしみじみと呟いてくる。僕が倒れるとほぼ同時に解毒と回復魔法をかけてくれたそうだ。本当にいつもお世話になりっぱなしである。


「ありがとう、柚姉。またお世話になっちゃったね」


「気にしなくていいのよ。イズ君が無事で本当によかったわ」


 柚姉は微笑みながらさらに頭を撫でてくる。その笑顔はまるで菩薩がこの場に降臨されたかのような錯覚を与える。

 ああ、何時か柚姉にはうんと恩返しをしないといけないなぁ。

 僕は心に誓いながらも訪れる至福の時に身を任せた。


★☆★☆★☆★☆


 さて、いつまでも柚姉に甘えている訳にはいかない。そうこの家にはまだ殺人未遂犯が潜伏しているのだ。僕は唯一の被害者としてその人物を捕まえなくてはいけない。


 心配する柚姉達を制して僕はゆっくりと犯人へと近づいてく。大胆にもこの犯人はこの家の住人達と行動を共にしていたようだ。手の届く距離まで近付いた僕はそのまま犯人へと声をかける。


「さて、愛莉歌。なにか言うことはない?」


 そう、悲しいかなこの殺人未遂事件の犯人は僕の妹分である愛莉歌だったのだ。

 え? 知っていた? うん、まぁそうだろうね。


「あ、イズ兄ぃ……目が覚めたんだ。今度はちゃんと完食できるように口の中と食道を鍛えておいてよね」


 ほう……この娘はまだ僕に料理と言う名の毒を食べさせようと? てか口の中と食道ってどうやって鍛えればいいんだ?


「愛莉歌お前な……」


 しかし、僕の怒鳴りかけた言葉はそれ以上続かなかった。よく見ると愛莉歌の肩が小刻みに震えていたからだ。そういえばさっきの声もどことなく震えていた事を思い出す。

 まったく……こいつは……。

 僕は愛莉歌のすぐ横に座ると何も言わずに彼女の頭を抱き寄せた。


「……何よ……」


 愛莉歌の口からは素っ気ない言葉しか出てこなかったが、嫌がる素振りも見せず大人しく僕の肩に頭を乗っけている。


「今度からは一緒に作ろうな」


 愛莉歌は一度だけこちらを見ると直ぐに俯き、微かに頭を縦に振ったのだった。

 その時ちらりとしか見えなかったが、彼女の目の周りは赤くなっていた。

 命を落としかけたのに涙ひとつで許してしまうなんて、僕も相当甘いな。



 愛莉歌が落ち着くまで肩を貸してやりながら残りの兵器をどう処分するか頭をめぐらせていた。


「やっぱり穴を掘って埋めるか……」


 いや、それだとこの街の土壌汚染が……。


「……私が食べるわよ」


「やめなさい、柚姉のMPが尽きたらお釈迦だぞ?」


 特攻自殺をしようとする妹分を思い留ませる。


「だって……」


「いいから、愛莉歌はなにもするな。な?」


 今のこいつは危なっかしくてしょうがない。要は、僕達以外が食べればいいんだよな。


「ならいっそ罠にでも使ってみるか……」


 モンスターにとってこの上ない凶悪な罠を考えていると正面玄関の方から人の話し声が聞こえてくる。正面からってことはお客さんかな?


「お邪魔しますよ」


 聞こえてきた声に反応してお店まで行こうとするとふと服を引っ張られるような軽い抵抗を感じる。何事かと振り向くと何時の間に来たのかロッタが青い顔をして僕の服の裾をつまんでいた。


「ロッタ?」


「……師匠。今の声……アンドリューです」


 アンドリューと言うと、確か最近になってこの街に来てロッタの店に嫌がらせをしている悪い奴だったな……。

 僕は青を通り越して白くなっているロッタの頭を優しく数回撫でると精一杯の笑顔を向けた。


「ロッタはここで待ってな。ちょいと追い返してやるさ」


 ロッタは暫く頭を撫でられていたが、一回頷くと僕の裾を離し愛莉歌の横にチョコンと座り込んだ。


「行ってくるよ」


 まったく、妹分といい弟子といい……僕の周りの歳下の女の子は手が焼けるね。本当に。

 自分でも押さえ切れないのか僕の口角は確かに上がっていた。


☆★☆★☆★☆★


「ロッタさ~ん、いらっしゃらないのですか~? お邪魔しますよ~」


 最初の挨拶から何の返事もしない時間がだいぶ経ってしまった為か、アンドリューの声にはどこか急いてる感じかする。


「はいは~い、邪魔するなら帰って頂けます?」


「あ、そうですか。では後程……」


 とりあえず軽いジャブをと思い冗談を言ったのだが、アンドリューはそのまま店から出て行ってしまった。護衛として一緒に来たのだろう、ゴリアテがどうしていいのかわからずオロオロし始める。

 ちょっと、どうするのよこれ……一言で追い返しちゃったんですけど……。


「って“お邪魔します”は挨拶ですから! 何をさせるんですか!!」


 あ、帰ってきた。

 アンドリューは大阪人並みのノリツッコミを披露してくれた。出来る事なら元の世界に連れて帰りしかるべき場所に弟子入りをおすすめしたい程だ。

 パッと見年齢は四十後半から五十の前半。身長はそこそこ高く肩幅も広い。赤い髪の毛がライオンのたてがみを彷彿とさせる髪型をしており、迫力のある目と合わさりさらに凄みを増している。

 ただ一つ残念な所を上げるとしたら……だらしなく出っ張ったお腹だろう。

 折角の高身長も髪型も目も、『お腹が出ている』たったそれだけの事で台無しにするほどメタボっている。恐いね、メタボ。


「私はね、このお店の人間に用事があるんですよ」


 アンドリューは怒りをあらわにし、強い言葉使いで話しかけてきた。


「今二人とも外出しておりまして、私が代理としてお話しを聞かせて頂きます」


「お嬢さんが……?」


 これでもかと頭を下げてやるとアンドリューはこちらを値踏みするようなねっとりとした視線を放ってくる。あとお嬢さん言うな。


「お嬢さんは誰なんです?」


「これは大変ご無礼を。この度ここのお嬢様であるロッタ嬢の師事をする事になりました皐月出雲と申します。以後お見知りおきを」


 名刺があったら両手で差し出してるくらいの丁寧さを心がけ自己紹介をする。まぁお見知りおきになんてなりたくないんだけどね。


「ほう……ロッタさんの師事を……。それは当然鍛冶師としての?」


「ええ。まだまだ若輩者ですが頑張って務めさせてもらいます」


 アンドリューは「ほう」とか「ふむ」などを繰り返すだけで一向に話しかけてこない。

 用事があるのはそっちじゃないのかな?


「ふん、まぁいいでしょう。今日は先日ウチの若い者がお世話になったようで、そのお礼にでも……とおもいましてね」


 僕の観察をやめたアンドリューは本日のようやく要件を言ってきた。この間お世話した若い者っていうのはサルとゴリアテの事だろう。そう言えばサルの方の名前を聞くのを忘れていたような……いっか、別に。


「いえいえ、この間はちゃんと躾け終わる前にお帰りになられてしまったのでお礼なんて……」


「ははは、面白いお嬢さんだ。気に入りましたよ」


 アンドリューの笑い声に僕も釣られて笑顔になる。まぁ向こうは内心どう思っているか知らないけど。あと、お前に気に入られたくない。


「ところでお嬢さん、ロッタさんに鍛冶の“いろは”を教えるくらいなら私共のお店に来ませんか?」


 何だって? ロッタに教えるくらいなら・・・・・だって?

 アンドリューの言葉に思わず眉をひそめる。


「正直こんなお店じゃたいして貰っていないでしょう? ですが私のお店ならここの倍……いや三倍は出せますよ?」


 アンドリューがイヤらしい笑い方をする。その笑い声を聞くだけで僕の怒りメーターがググッと上昇した。


「それに、こう言ってはなんですが……ロッタさんにいくら教えてもアレでしょ?」


 ああ、もうどうでもいいやコイツは嫌いだ。何て言うか生理的に無理!


「そんな事ないですよ、ロッタさんには素質があります。貴方以上……いえこの街で一番の鍛冶師に育てあげてみせますよ」


「なっ! 私以上だと……! ふんっ! いいでしょう口だけでは何とでも言えるものです!」


「なら勝負してみましょうか?」


 僕の言葉を聞いたアンドリューの顔が面白いくらい真っ赤に染まっていく。そんなに怒ると血管が切れますよ?


「勝負ですって? いいでしょうその勝負受けて立ちますよ! どうせ腕の無いロッタさんと流れの鍛冶師にこの私が負ける訳がありません! 何だったら貴女方まとめて片付けてあげますよ!」


 アンドリューの発言にカチンと来ると同時にあるひとつの案が僕の心に浮上する。

 こんな奴なら別にいいんじゃない?

 僕はこの瞬間、愛莉歌のサンドイッチと言う産廃を処分する方法を思いついた。


「ではお言葉に甘えて、私とロッタの二名で勝負を挑ませていただきますね。まぁ勝負の日取りは後で決めるとして……折角お越しいただいたのですから、私の故郷の料理でも召し上がって下さいな」


 僕はそう言うと奥に控えていた咲妃に目配せをした。

 彼女はちゃんと理解してくれた様で一旦奥へ行くと、銀のトレーにサンドイッチを乗せて来てくれた。ただし乗っているサンドイッチは咲妃と愛莉歌の人が食べれないものだったけど。

 うん。しっかりと伝わっているね。


「それが、お嬢さんの故郷の料理ですか? 私にはただのサンドイッチに見えますが……」


 トレーの上に置かれているサンドイッチを見てアンドリューの眉間にシワが集まる。


「そうですね、見た目はただのサンドイッチと同じです。ただし、中身に使われているもの……特にソースが私の故郷で使われているお手製なんですよ」


 僕は笑顔を絶やさないように心がけ咲妃から受け取った銀のトレーを彼の目の前に差し出す。

 ひとつは見た目は完璧に近いサンドイッチ。もうひとつは禍々しい妖気を漂わせるサンドイッチ。普通の感性を持った人なら普通のサンドイッチに手を伸ばすだろう。

 まぁどっちもアウトなんだけどね。


「これはまた、凄い色ですね……」


「ええ、ちょっと見た目が悪いのはムラサキ・イーモという穀物をベースに使っているからですわ。その他にもアマリリスの球根、アジサイ、イチイの種、オシロイバナの根と種、キンボウゲの根の煮汁、クララの根、クリスマスローズの根茎の煮汁。それにトリカブトの根とスズランなどなど多くのハーブを使っておりますの。匂いもそれなりにありますがきっとお口に合うと思いますわ」


 アンドリューはただただ頷くだけだった。たぶん僕が上げた植物の名前に聞き覚えがないのと、短時間に早口気味で言われたので理解できていないのだろう。

 唯一理解できてると思われ部分はゆっくりと喋った冒頭のムラサキ・イーモと最後の匂いが……の部分だろうか。


 それでも中々手が出ないようだったので後押しをすることにする。


「あ、急に勧めたりしたらご迷惑でしたよね……ごめんなさい」


 目元に涙を為すっとトレーを胸元まで引き戻す。体全体で後悔と悲しみをアピールする。

 男とはなんて悲しい生き物なのだろう。目の前で少女が涙を溜め俯いていると何故だか心奥がモヤモヤとして言葉に出来ないほどの罪悪感を抱く……と思う。

 ただ、アンドリューもその例に漏れずワタワタと慌てると見た目がマシな咲妃のサンドイッチを手に取った。


「迷惑だなんてとんでもない! 美味しく頂きますとも!」


「本当ですか!? ありがとうございます!」


 計画通り!

 僕は最高の笑顔を見せつつも心のかでニヤリと音が出そうな笑い顔を浮かべる。てか今さっき敵宣言した人の料理をよく食べれるなぁ。僕だったら絶対に無理だよ。


「それでは……いただきます」


 アンドリューが口へいれるかどうかのタイミングを計ってから言葉をかける。


「あ、でもそのサンドイッチ少し刺激的かも……って聞こえてませんね」


 僕の言葉が言い終わる前にアンドリューは口の中へサンドイッチを放り込んでいた。そして訪れる辛さと言う名の暴力に口の中を侵略されているのだろう。先ほどとは別の意味で顔を赤くしている。


「大変! アンドリューさん急いでこちらで口直しを!」


 のたうちまわるアンドリューを押さえつけ、口の中へ愛莉歌のサンドイッチ(産業廃棄物)をこれでもかと詰め込む。すると今度は赤色だった顔色が青から白へと変わっていき、最後には口から泡を吹き痙攣までし始めた。


「キャー! アンドリューさん大丈夫ですか!?」


「旦那!?」


 これには側に控えていたゴリアテも慌ててアンドリューを抱きかかえそのまま店の外へと走って行ってしまった。きっと病院へ行ったのだろう……病院があればだけど。それにしてもゴリアテよ、咲妃のサンドイッチの時点で止めに入ろうよ……護衛なら。まぁそんな隙を与えていないんだけどね。


「さて、これで産廃も片付いたし時間も稼げた……」


「師匠?」


 僕は満面の笑顔で様子を見に来ていたロッタに振り返る。いきなり笑顔を向けられた彼女は頭の上にクエッションマークを並べている。


「さぁ忙しくなるよ!!」


「はい!!」


 僕の言葉に元気よく返事をするロッタ。

 でもこれ殺人未遂とかで捕まらないよね?

 お店には僕達師弟の元気な声が響き渡るなか、一抹の不安を覚えなくもない自分がいた。

出雲:レベル17 職業:剣士 サブ:工匠

装備:布の服・革の胸当て・革のブーツ・ククリナイフ【ソールイーター】・脇差


ロッタ:レベル1 職業:鍛冶師

装備:布の服・革の胸当て・革のグローブ・革のフォールド・革のブーツ・メイス


話しの中に出てきた植物は普段の生活の中でも見かけるモノもあるかと思います。

が、決して悪用しないようにw

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