20話 サンドイッチパニック
表玄関はお店用の入口なので僕達は裏口を使うようにとロッタからお願いされている。その裏口が開く音がしたという事は愛莉歌達が戻って来たという事だろう。
料理の続きをロッタに頼んだ僕はパタパタと足音を鳴らしながら裏口まで移動する。
「は~いお帰りなさ~い」
元気よく裏口を開けると案の定入口には愛莉歌達が全員揃って目を見開いた顔でこちらを見ていた。何かあったのだろうか?
「どうしたの?」
「イズ姉ぇさ、そういう格好をするから……」
「よく似合っているわよ、イズ君」
「これは破壊力が強すぎです」
三者三様に意見を述べるが何を言っているのか意味不明だ。
とりあえず、いつまでも裏口先で駄弁っているのもアレなのでみんなそろって部屋まで移動する。
「お帰りなさい、もう少しでサンドイッチが出来上がりますから少し待っていて下さいね」
ロッタも料理の手を止めて出迎えに来てくれたようだ。
「ペアルックですって……!?」
「あらあら、これはちょっと……」
「なんてうらやましい……」
ロッタの姿を見た三人は僕の時以上に驚いた様子で固まっている。一体何があったんだろう?
しばらく固まっていた三人は急に動き出すと頭をくっ付け合いひそひそと話し始めた。
「あの……師匠。これは一体……?」
「さぁ? まぁ放っておいて大丈夫でしょう。料理の続きをしようか」
「はい!」
三人の怪しい行動を眺めていてしょうがないので料理に戻る事にする。
今回のサンドイッチは何のお肉かわからないお肉とどでかい卵を使うことにした。
まず卵だが普通にデカイ。ダチョウの卵よりも更に二回り程大きいと思う。
この卵を茹で卵にするのだが、少し大きめの鍋を用意したのにちょうどいい感じになっている。
ロッタに聞いたところこの辺りに生息している『エピニス』と言う鳥の卵だと言う。名前を聞いたことがないのでゲームにも登場してなかっただろう。と言うことはこの世界独自の生き物と言うことになる。
まぁ卵の大きさから想像すると会いたくはない鳥だ。
卵が茹で上がる迄にソースを作っておくことにする。日本では万能調味料であるマヨネーズがあったがこの世界には当然ない。しょうがないのでできる範囲でのソースを作る事にしよう。
かき集めた素材のなかからハーブを数種類に植物性のオイル、それに塩と胡椒を使うことにする。作り方は簡単で刻んだハーブとオイルを混ぜるだけ。ただミキサーがないのが悔やまれるか。
出来上がったソースの味見をロッタにお願いする事にする。
「はい、ロッタ。あ~ん」
「師匠!?」
小さなスプーンですくったソースをロッタの口元迄持っていく。急に差し出したのでロッタも驚いた様だ。
「ほら、垂れちゃう垂れちゃう」
「じ、じゃあ……あ~ん」
観念したのか小さく開けたロッタの口に僕はスプーンを入れる。十分に味を吟味する時間を開けてからロッタに問い掛ける。
「美味しい?」
「おいひいれふ……」
ロッタの滑舌が少々悪いが、大丈夫だろうか?まぁソースは美味しいと言ってくれたので問題はないか。
「「「新婚か!!」」」
調理に戻ろうとしたら先ほど廊下に放置してきた三人が一斉にツッコミをいれてきた。
「イズ君そういうのはお姉ちゃんとやらない?」
「イズ姉ぇさ、そういうことするから男に告白されるんだよ」
「出雲! 私も味見したい!!」
一気にキッチンが騒がしくなる。と言うか愛莉歌よ、何故僕が男に告白されたのを知っているんだ? まぁこれも千穂の入れ知恵だと思うけど……。今度会ったら兄の情報を振りまくなと言っておかないといけないな。
それにしても『女三人寄ればかしましい』とはよく言ったものだと改めて感心するよ。それに一気に全員集まるだなんて、
「そんなにお腹空いたの?」
「違うわよ!!」
僕の問い掛けに愛莉歌が怒りながら返してくる。匂いに誘われた訳じゃ無さそうだ。
しかし先ほどからロッタが一言も喋ってないけど大丈夫だろうか。
「新婚……私と師匠が? 私なんかが師匠のお嫁さんだなんて、そんな……。でもでも今朝師匠には全部見られている訳だし……あ~もう、どうしよう~」
両手で頬を挟むように押さえ、何かを呟きながらくねくねもじもじしている。うん、末期だね。
残念な弟子を放置して僕は柚姉に話しかけた。
「ロッタには味見してもらったけど、どうかな?」
「そうね…………うん、いいんじゃないかしら」
柚姉はソースを舐めると右手の親指と人差し指でOKサインを作ると優しく微笑んでくれた。柚姉のお墨付きがついたのなら大丈夫だろう。
「ちょっと、何で私には聞かないのよ」
柚姉と話していると後ろから妙にテンションの低い声がかけられた。振り向けばそこには不貞腐れた顔でこちらを睨む愛莉歌の姿が……。
「愛莉歌……だってお前の料理は……」
僕は最後まで言うことが出来なかった。それは愛莉歌の料理の腕を悲しむ余りに言葉が出なかった……訳ではなく、鬼も裸足で逃げ出しそうな迫力のあるメンチを切られたからだ。
「私の料理が~何だって?」
ヤベェ……ヤベェよ。あの目は確実に人を殺っている目だよ……。
愛莉歌の目だけが笑っていないにこやかな笑顔を直視してしまった僕はもはや何も言い出せず恐怖に体を震わせる哀れな小鹿でしかなかった。
「エリちゃんの料理はほら、あれよ……え~と……そう! 個性的! 個性的な味付けをするから!」
柚姉が咄嗟にフォローにまわってくれる。さすがリーダーだ。だけど個性的な味って……。
「それもそうね。ごめんなさいユズ姉ぇ」
納得しちゃったよ~! どんだけポジティブなのさ、愛莉歌は!
「柚葵さんが個性的って評価する味ってちょっと食べてみたいかも」
今まで静観していた咲妃がとんでもない爆弾を落とす。
「あ、私も気になります」
咲妃の言葉に同意するようにロッタが右手を上げた。もうくねくねタイムは終了したようだ。
しかし、どうしてこの子達は死に急ぐかな。
二人に興味を持ってもらえた当の愛莉歌は照れた様子で右頬を掻きながらおもむろにキッチン台の前に立った。
「しょうがないわね~少しだけ私の腕を披露してあげるわ」
愛莉歌の一言に僕と柚姉が凍りつく。
なぜここまで必死に愛莉歌に料理をさせないようにするのか……それは愛莉歌の料理の腕が余りにも下手だからだ。いや、下手と言う表現すらおこがましいほどの腕前だ。
ここであるエピソードを紹介しよう。
皆はカレーと言うものを知っているだろうか。たぶん知らない方が珍しい料理だろう。愛莉歌はこのカレーを凶器に僕を殺しかけた事があるのだ。
何を言っているのかわからないだろうけど。事実なので他に言いようがない。小学生でも簡単に作れる料理の代表とも言ってもいいこのカレーをあろうことか愛莉歌は失敗したのだ。それも凶悪な兵器として。
詳しい作り方は見ていなかったのでわからないが、カレーが緑色をしていたのは覚えている。それもとても色鮮やかな緑色だ。本人はグリーンカレーを作ったと言い張っていたが……グリーンカレーはこんなに深い緑色はしていなかったと思う。
当然僕はためらった。しかし可愛い妹分が作ってくれたカレーだ、当然食べる以外の選択肢は存在しないだろう。意を決して食べたのだが……
一口以降の記憶がない。
気が付いたら部屋のソファーで寝かされており姉と千穂が片付けを、そして愛莉歌と愛莉歌の両親が僕の親に謝っていた。何事かと両親に聞いても優しい笑顔で「頑張ったね」と言われ、愛莉歌の両親からは「これからも娘と仲良くして欲しい」とお願いされてしまった。
大人に聞いても埒が空かないと今度は姉と千穂に何があったのかと質問すると渋々といった感じで教えてくれた。
カレーを一口食べた僕はその場で倒れ、口から泡を吹き痙攣まで起こしていたという。
何を冗談をと思ったが、両目に涙を溜め、お兄ちゃんが死んじゃうかと思ったと泣きつく千穂と震えながら肩を掴む姉の手を見て嘘じゃないと確信した。
それ以降カレーを見ると極度の緊張、めまい、吐き気、動悸などを起こすようになったのだが、千穂と柚姉による献身的な介護によって何とか克服した。
柚姉が愛莉歌の腕前を知っているのは僕のカレーライス殺人未遂事件以降、愛莉歌が料理を学びに行ったかららしい。それも柚姉が味見の一口で昏倒してしまった為に一回しか行われなかったようだけど。
そんなことで愛莉歌の料理の威力を知っている僕と柚姉は全力で止めに入るが、気合いを入れた愛莉歌とそれを応援する二人を止める事はできそうにない。
「心配しないでユズ姉ぇ、イズ姉ぇ。私もあれからママに料理を習ったんだから!」
愛莉歌はこちらを振り向きとても良い笑顔で話しかけるが、そもそも愛莉歌が作るのは料理ではないく兵器だと言うことに気づいてほしい。
「しょうがないわ、エリちゃんも折角やる気になっているし……作ってみましょうか」
「柚姉!?」
「ユズ姉ぇ!」
部屋に僕と愛莉歌の声が重なった。さらに柚姉の説明が続く。
「た・だ・し! 皆で作りましょう。それにもうここまでイズ君とロッタちゃんが用意してくれてたのだからこれをそのまま使いましょう」
なるほど、皆で作れば愛莉歌の暴走も実際に見て止める事ができるし、食材も僕とロッタが用意したものなら危険も少ないだろう。考えたね! 柚姉!!
「まぁ今から全部用意するのは時間かかるし……わかった。柚姉の案に賛成するわ」
愛莉歌もそれで良いと言っているし、ロッタも咲妃も問題ないようだ。
こうして命をかけた料理大会が開くことになった。なんとしても生き残らなければ……
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かくして料理大会が始まったのだが、キッチンが狭かった事と用意したソースの量が少なかった為に僕は調理には参加せずに食べるだけとなった。
手間が省けたと思えばそれまでだが、愛莉歌の奇行を止める人が少なくなった事を考えればとてもリスキーだ。そんなことを思いながらただただ神に祈りを捧げながら料理が出来上がるまでの時間を潰した。
程なくして各々のサンドイッチも持ちながらキッチンから皆が出てきた。まぁ具材もソースもある程度出来上がっていたのだからそんなに時間もかからないか。
「さぁイズ姉ぇ! 食べてみてよ!」
机の上に並んだサンドイッチは順番に柚姉、ロッタ、咲妃、愛莉歌の順だろう。なぜなら見た目からして優、良、良、死となっているからだ。
僕は思わず最後のサンドイッチを二度見してしまう。全体的に紫色をしており、ソースに至っては沸騰しているのかボコボコと気泡が生まれている。
愛莉歌よ、お母さんに教わってこのレベルだなんて……一体何を教わっていたんだい?
「さぁ見てないで食べてみてよ!」
くっここは食べるしかないのか……。
回りを見ても誰も目を合わせてくれない。
しょうがないここは……。
「じゃこれから頂こうかな!」
安パイである柚姉のサンドイッチから手に取った。チキンだと罵りたい奴は罵ればいい! 毒だとわかりきっているものに手を伸ばす勇気はないんだ!
柚姉のサンドイッチはさっきまで僕が作っていたソースを使っているのか疑いたく成る程美味しかった。なにをどう使えばこれほどまでに美味しくできるのか是非教えて欲しいくらいだ。
「このままじゃあれだと思って、ちょっと手を加えみたの。美味しい?」
柚姉の問いかけにうなずきで返す。最早このサンドイッチに評価などいらないだろう。ぶっちぎりの一位なのだから。
順番通りに隣のロッタのサンドイッチを手に取り、一口かじる。ロッタのサンドイッチは見た目通りの味で僕が作ったソースとロッタが作った具材がちょうどマッチしている。可もなく不可もないといった味だろう。
「この具材を使うって言ったから……私だって手を加えれば美味しくできるんですよ! 師匠!!」
ロッタの弁解を頷きながら聞いてあげる。一緒に作っていてわかったが、ロッタの料理の腕前は地味に高い。だが、ここには柚姉が居るため悪いと思ってもどうしても比べてしまう。すまないロッタ。
次に手に取ったのは咲妃のサンドイッチだ。
見た目はロッタのサンドイッチと殆ど違いは見られない。これなら安心して食べられるだろう。
「じゃいただきま~す」
僕は手にしたサンドイッチに大きくかぶりつく。
そして、口から火を吐いた。
「ちょっと私好みの味付けにしたんだけど……失敗しちゃったかな?」
咲妃が可愛らしく首をかしげながら言ってくる。だが、僕は咲妃の言葉に耳を傾ける余裕がない。サンドイッチとは思えないほどに辛い……というか痛い!
この異世界でここまで辛く出来る事を素直に感心してしまう。本当にどうやってここまで辛くしたのだろう。
咲妃のサンドイッチによって口の中が麻痺状態となる。
しかし、これはある意味チャンスなのではないだろうか。この口の中が麻痺している状態ならあの毒々しいサンドイッチもきっと食べれるはずさ!
「あ、待ってよ! 私もちゃんと手を加えたんだから! 味わってよね!!」
愛莉歌が何か言っているが、こっちは命がかかっている状態だ。僕は愛莉歌の言葉を無視して紫色のサンドイッチを掴むとそのまま口に放り込んだ。
そして僕は暗黒に包まれた。
出雲:レベル17 職業:剣士 サブ:工匠 状態;毒・麻痺
装備:布の服・革の胸当て・革のブーツ・ククリナイフ【ソールイーター】・脇差




