19話 弟子
これまでのFYO
ロッタの店を救う。
一晩泊めてもらう。
僕が職人側の人間だとロッタにばれる。
ロッタが僕のギルドカードを差し出しながら土下座をしてくる。
「イズモさん! “工匠”である貴方の技術を伝授して下さい!!」
「ロッタ落ち着いて、いきなりどうしたのさ!」
とりあえずロッタを落ち着かせてから詳しい話を聞く事にした。ロッタが落ち着くまで数分、彼女はポツリポツリと話し始めた。
ミランが倒れ店の在庫を売るようになった話しはここに来たときに聞いていた。そしてロッタはただミランの武具を打っていただけじゃなく、自分でも武具を作り一応店頭には並べていたと言う。
しかし、何分店売りレベルまでまだ達していないロッタの作品は売れ残る一方だった。たまに買ってくれるお客さんも居たそうだが、格安で買い叩かれ材料費ギリギリの値段だったという。努力は続けてきた。だが教えてくれる人がおらず独学で学ぶには限界が来ていたのだ。
ロッタは話し終わると猛烈な勢いで僕に突進してくると、手を取り期待を込めた眼差しを向けてくる。朝のあの余所余所しい態度は何だったのだろうと思うほどだ。
「ここでイズモさんに出会えたのはまさに神様のお導き! お願いです! 私を弟子に!!」
ロッタの真剣な気持ちには応えてあげたいが……。さて、どうしたものか。
「なに騒いでいるのよ」
「イズ君、どうしたの?」
ロッタの声を聞き付けて愛莉歌と柚姉が工房に顔を出した。そうか、僕一人で決めれなければ相談すればいいのか。
「実はね……」
「全部言わなくても大丈夫よ」
説明しようとしたが、愛莉歌に言葉を止められた。どうやらこの状況をみて理解してくれたようだ。刺すが幼馴染と言ったところか。
「イズ兄ぃ? 今朝の件があったのにまだ懲りてないのね」
はい? 何を言っているんだ愛莉歌のやつ。ってか今朝の件って何だ?
「イズ君……いくら我慢が出来ないからって無理矢理はダメよ!」
柚姉も何を言っているんだ? 我慢できない? 無理矢理? 意味がわからない。いや、落ち着け。今の状況を確認してみよう。
僕に馬乗りになり、泣きながら必死に僕の手を掴んでいるロッタ。
あれ? これはどう見て僕が襲われている格好だよね?
「待ってよ二人とも! 誤解だよ! ロッタが悪い訳じゃな……」
「ロッタ泣いているじゃない!」
「イズ君。こういう場面で女の子せいにするのは感心しないわね」
あれぇ~悪いのは僕ですか~? どうみても僕が下ですよ? 襲われている側ですよ?
しかし僕の言葉は全てを言い切るまえに二人によって遮断されしまう。おぉ神よ……何故このような試練を僕に与えるのか……。
その後言うまでもなく二人にフルボッコにあった僕はロッタにお願いして説明してもらった。ボロボロになった僕には説明する気力は残っていない。
「そう言う事だったのね。嫌だわイズ君、そう言う事はもっと早く言わないと」
「言葉が足りないわよ。イズ姉ぇ」
人のいう事を聞く前に暴力に訴えた人達に言われたくないない……。
★☆★☆★☆★☆
ボロ雑巾のようになった体を柚姉に癒してもらった後、咲妃も呼んで皆で話し合う事になった。
「ロッタさんが困っているんですよね。なら助けてあげるのが一番だと思いますよ」
咲妃は今の状況を説明すると開口一番でロッタを助ける事に賛成した。まぁ優しい彼女の事だ、こうなることはある程度予想できたけど。
「今イズ君はレベル幾つだっけ?」
柚姉の質問に僕はステータスを見て確認する。そう言えば久しぶりに確認したような気がする。
「今十七だね」
「私も十七ね」
愛莉歌も順調にレベルが上がっているようだ。まぁオーク襲撃時の撃退数トップスリーだし、上がるのも無理はないか。
「咲妃ちゃんは?」
咲妃のレベルは柚姉と同じ位だった。オーク討伐に直接参加したが、途中捕まったりサポートに回ったりでそこまでレベルは上がってないようだ。
柚姉は私と同じか~と呟き考え始めてしまった。まぁここはリーダーにお任せしましょうかね。
「そうね、それじゃイズ君はロッタちゃんの面倒を見てあげて。その間に私達はレベルを上げましょう」
僕はロッタにワンツーマンで指導しつつ皆の装備を整える事にし、その間に素材を集めながら柚姉と咲妃のレベルを上げる方向で進めるそうだ。
「それでいいかしら?」
柚姉の提案に首を振るものは居なかった。
「ありがとうございます! 昨日話した通りこの家は自由に使ってください!」
師事出来る事が決まってロッタも嬉しそうだ。さて、方針が決まったのなら早速取りかかろうかな!
僕はロッタを連れて工房まで移動した。
「さて、早速だけど始めようか」
「はい! 師匠!!」
おおう、ロッタの気合が半端ないぞ。いや、元気なのはいいことだけどね。
「その“師匠”って言うの辞めない?」
「いえ、師匠は師匠ですから!」
あ、そうですか。
もう何を言っても無駄な様な気がしたので呼び方はスルーする事にした。
「さてと、ロッタは鍛冶師のJobは取っているんだよね」
「ジョブ……ですか?」
ロッタは首を傾げてしまった。どうやらJobという概念があるのはゲームの中だけのようで、この世界では通じないようだ。
「“ジョブ”と言うものが何なのかわかりませんが、鍛冶師に師事することが出来れば一応は鍛冶師だと教わりましたよ」
なるほど、ゲームのサブ職取得と同じのようだ。
ゲームでは一定レベルに達すると街の鍛冶師の所に行きクエストを受ける事によってサブ職を取得することが出来る。となると、ロッタのレベルが必要になるのかな? レベルアップと言えば……。
「なるほどね、それじゃ冒険者ギルドに登録しようか」
「冒険者ギルドですか……」
ロッタは余り乗り気ではなさそうだ。まぁそうだよね、街中で鍛冶をするのにいちいち冒険者になる必要もないんだから。でもレベルアップが必要だとしたら冒険者になってモンスターを狩るのが一番だと思う。
「言いたいことはわかるよ。でも冒険者になっておけば必要な素材を自分で取りに行けるし、その分費用は抑えられるよ」
僕の言葉を聞いたロッタはなるほどと目を輝かせながら頷いていた。この子こんなに簡単に信じて大丈夫だろうか?
違う所で不安になりながらも僕達は冒険者ギルドを目指して出発した。
☆★☆★☆★☆★
冒険者ギルドには愛莉歌達と一緒に移動した。彼女達も今日から自分達の装備を整える為にレベルアップを兼ねて素材集めをするそうだ。
ハッグの冒険者ギルドはアルス・テルスの建物に比べると少々小さ目の造りだった。まぁ首都に建てられたものと比べるのはあれか。
「はい、これで登録は完了よ。それにしてもロッタちゃんが冒険者になるなんてね」
「ははは……」
登録をしてくれたギルドのお姉さんはどうやらロッタと顔馴染のようだ。先程からロッタの苦笑いが止まらない。カウンターで何やら手渡されたロッタが速足で僕の所へ戻ってくる。そんなに急がなくてもいいのに。
登録が終われば次は装備だ。
僕達はギルドを出たところで愛莉歌達と別れ商業区を目指して歩き始めた。
「とりあえず武器と防具だね」
「はい、師匠!」
ギルドでの暗い気分は何処へ行ったのやら、ロッタからは明るい返事が返ってくる。
街中で呼ばれると結構恥ずかしい。呼ばれる度に周りの人が僕を見てくるんじゃないかと思ってしまう。実際は誰も気に止めていないのだけどね……自意識過剰かな?
「それにしても師匠、何故商業区なのですか?」
物思いに耽っているとロッタが質問をしてきた。冒険者用の武具は商業区よりも職人区で売られている場合が多い。それは店売りの平均的な物よりも職人が作った一点物の方が好まれるからだ。ロッタの質問もそういったところからだろう。
「ん~職人区で出来上がったものを買ってもいいけど、高いじゃん?」
「え、まぁそうですけど」
「勿体ないでしょ」
僕の言葉を聞いたロッタは先程とは打って変わりテンションがドン底にまで落ちてしまった様でなんとも低く悲しげな声で話しかけてきた。
「そうですよね……私には勿体ないですよね……」
「“私には”って言うか“今は”勿体ないかな?」
僕の言っている意味が分からないのか、ロッタは首をかしげるだけだった。なので僕の持論を語る事にする。
初心者には初心者に合ったものを使うのが一番だと思う。確かに初めから良いものを使った方がいいと言う人もいるが初心者にいきなり銘刀を渡す人は居ないだろう。
日々の練習で酷使され、初心者故のつたないメンテナンスしか出来ない。これでは物の寿命は早く過ぎすぐ壊れる事になる。じゃあ初心者が銘刀を買い換え続ける事が出来るかと言われれば答えは否であろう。腕を上げ、自分が銘刀を持つに相応しいと思ったときに買えば良いのだ。
と言った感じで話していると僕の考えがわかってもらえた様でロッタの顔には再び笑みが戻ってきていた。なんと言うか感情の起伏が激しい子である。
商業区ではオークの革と鉄材、それに細々としたものを購入しロッタの工房へと帰った。素材も集まったし早速作業開始だ。
鉄材をロッタに預けるとまずは麻等の植物を使い冒険用の服を仕立てる。と言っても材料を集めてスキルで一発なんだけどね。
出来上がった服をロッタに着せてサイズの調整である。こちらはスキルが無いので手作業だが難しくないのでパパっと終わらせる。
「大丈夫? きつくない?」
「はい! 大丈夫です!」
ロッタに少し激しい動きをしてもらったが大丈夫のようだ。
服が完成したら今度は防具の作成に取り掛かる。
買ってきたオークの革を使い胴、腰、腕、脚の四か所作る。金属を用いた防御力を重視したものよりも機動性の高いものを選んだ結果だ。
出来上がった防具先程作った服の上から付けていく。こちらはリサイズのスキルが使えるので服よりは簡単に出来上がる。
「今度はどう? 動き辛かったりしない?」
「凄いです! 体にジャストフィットですよ!」
どうやらロッタも喜んでくれたようだ。
僕は預けていた鉄材を受け取ると武器を作る事にする。最初は扱いやすいショートソードかナイフやダガーなどの短剣をと思ったが、ロッタが志望しているのは鍛冶師なのだ。なら鍛冶師に似合った武器の方がいいと思い三種類の武器を作った。
「メイス、ハンマー、アックス……どれがいいかな?」
僕は出来上がった武器をロッタに見せる。三つ同時に持つ事が出来ないので作業台に並べておく。ロッタは小走りで近寄ると一個一個手に取り数回振り回し握り具合とかを確かめる。
「メイスが一番使いやすいです」
ロッタはメイスを両手で胸の前に抱えるように持つ。
「よし、それじゃメイスをメインに使っていこうか」
僕はロッタが選ばなかった武器をアイテムストレージへ片付けていく。ついでに一級木材を取り出しウッドバックラーを作りロッタの左手に装着する。
うん。見た目は完全に冒険者だ。
「すごい……私本当に冒険者になってる……」
工房に置かれている姿見にフル装備状態を写しながらロッタがボソッと呟く。昨日までと打って変わった姿に驚いているのかもしれない。僕にも似たような思いをした事があるしね。
「それじゃ明日からこれを着て武器の使い方とか練習しようか」
「はい! 頑張ります!!」
ロッタは両手を握りしめ小さなガッツポーツをした。真新しい防具や武器と小さいが力一杯握りしめられた拳が何とも言えない可愛さを醸し出している。
……これはなんて強力な……。
「師匠?」
急に黙り込んだ僕を見てロッタが首を傾げ顔を覗き込んでくる。その距離は鼻先がくっ付きそうな程近く、いきなりアップになったロッタの顔に驚いてしまう。
「だ、大丈夫だ。問題ない……」
あまりに驚き過ぎて口調まで変わってしまった。
「はぁ……」
「そ、それよりもロッタはアイテムとかはどうするの?」
僕は何とか勢いで話題を変えた。『弟子の可愛さに言葉を無くしてました』なんて恥ずかしくて口が裂けても言えない。
「アイテムですか? それなら冒険者ギルドから簡易版ですがマジックポーチを貰いました」
ロッタはギルドのカウンタ―で受け取っていた小さなウェストポーチを見せてくれた。どうやらこのポーチがアイテムストレージの変わりとして機能するそうだ。
「師匠みたいなマジックストレージには敵いませんが、これでも優秀なんですよ?」
僕達が使っていたアイテムストレージは“マジックストレージ”と呼ばれる魔法だとロッタが教えてくれた。ずっとアイテムストレージだと思っていたよ。
ロッタのマジックポーチは本人の希望によりフォールドの右側に固定することにした。
装備をあれこれと弄っている内にお昼の時間をだいぶ過ぎてしまい、今更お昼にするには遅すぎて、夕食には早すぎると言う微妙な時間になってしまった。
「お腹空いたね」
「そうですね、でも夕食には早いですし……」
お腹は空いた、しかし今からがっつり食べると夕食が食べれなくなる……。ならば簡単なのにすればいいじゃない。
と言うことで早速遅めのおやつを作ることにする。
「日本ならおにぎり一択なんだけどなぁ……」
ここシルフィード領にはお米を食べる習慣がないのだ、誠に残念でならない。まぁ無い物ねだりをしても仕方がないのでここは持ち合わせの材料からサンドイッチを作ることにした。
取り出したエプロンを見にまとい、早速厨房で調理開始である。ロッタも手伝ってくれる様でエプロンを装備し、僕の横で野菜を切ってくれている。なんと言うか女の子のエプロン姿といものは、なかなかに破壊力があるものだ。僕は思わず作業の手を止めてロッタの姿を眺めてしまった。
「あの……師匠、そんなに見られると恥ずかしいです……」
「ああ、ごめん。ロッタが可愛かったから、つい」
頬を赤く染めもじもじと体を揺らす姿は鼻血もののかわいさです! あ、ヤバい……本当に垂れてきそう。
「もう~冗談を言ってないで作っちゃいますよ」
非難の声もどこか嬉しそうだ。
そんな事を考えつつ手を動かしていると裏口が開く音が聞こえてくる。どうやら皆も帰ってきたようだ。
僕はエプロンで手を拭きながら裏口へと移動した。そこに地獄が待って居ようとは微塵にも思っていなかった。
出雲:レベル17 職業:剣士 サブ:工匠
装備:布の服・革の胸当て・革のブーツ・ククリナイフ【ソールイーター】・脇差
ロッタ:レベル1 職業:鍛冶師
装備:布の服・革の胸当て・革のグローブ・革のフォールド・革のブーツ・メイス




