18話 ロッタの家
居間……と言っていいのかわからないが、食事を食べた部屋に戻ると六人掛けのテーブルに手前から咲妃、柚姉、ロッタの順番で座っていた。それも片側に。これはあれだろうか、反対側へ座れと?
パっと見居間には裁判かと思わせる雰囲気が漂っている。
「さぁイズ君座って? 大丈夫よ別に獲って食べたりしないから」
「そうですよ出雲、私達はただお話しを聞きたいたです」
「あの、えっと……どうぞ?」
ロッタ以外の目がヤバイ。裁判だと思っていたけど魔女裁判だったか……。
恐る恐る真ん中の椅子に座ると正面に座っている柚姉がにこやかにほほ笑んだ。目は笑っていなかったけど……。
「イズ君は暗がりの中でエリちゃんと何をしていたのかなぁ?」
「何って、大切なモノを取っておいてくれたから感謝していたんだよ?」
どうやら進行役と言うか裁判官は柚姉がやるようだ。
僕は正直に話した。そうだ、別にやましい事なんて何もしていないんだから堂々としていればいいだ。
「そう、イズ君はその大切なモノをもう貰ったの?」
「まだだけど」
すぐこっちに来たのでまだお店に置いてある。さっさと鑑定をいたいんだけどなぁ。
僕の言葉を聞いて目の前の三人は明らかに安堵のため息をついた。そんなにあの武器が大切なのだろうか?
「そう……いいイズ君。女の子の大切なモノをそう簡単に貰っちゃダメなのよ?」
「え? うん。……うん?」
柚姉はいきなり何を言っているんだ? 女の子の大切なモノ? なんだそりゃ。
「イズ君がそう言うのに興味があるのはわかるわ。年頃だもんね」
柚姉の目が生温かいものに変わった。おかしい、僕は何の話しをしていたのだろう?
「でもね、いいえだからこそ! 私でもいいじゃない!!」
「柚姉、何を言っているの?」
興奮のあまり椅子から立ち上がった柚姉はテーブルを回り込み僕の前まで来ると問答無用で抱きしめる。僕はいきなりの事で反応も出来ずに只々その至宝の中に顔を埋める事になった。
「若さなの!? やっぱりイズ君も若い子の方がいいって言うの!?」
「柚姉、何をっ! それより……放しムグ!」
力の限り抱きしめる柚姉の腕から抜け出す事が出来ない。というより、痛いけど顔全体を覆う柔らかさと甘い匂いに逆らえないって方が大きいかな。
「柚葵さん! 今はそれどころじゃないですよ!」
「あわわ。都会の人たちは凄いです……」
両サイドから助け舟が出るが、興奮した柚姉を止める事が出来ない。それにしても一人大人しくしている奴がいるけど……せめて助けてくれませんかね!?
柚姉の興奮が収まったのはそれから数十分後の事だった。
☆★☆★☆★☆★
「ごめんなさい、取り乱したわね」
元に戻った柚姉が再度進行役を買って出る。本当に大丈夫なのだろうか?
「それで、イズ君達は本当は何をやっていたのかしら?」
「はぁ……昼間襲ってきた奴の武器を調べようとしたんだ」
「私が拾っておいたのを教えてあげたらイズ姉ぇが急に抱きついてきたのよ」
柚姉に僕と愛莉歌が揃って説明をする。てか、愛莉歌の説明は何か僕に不利な証言の様に聞こえるのだが……。まぁ抱きついた事は事実だからしょうがないと言えばしょうがない……のか?
「あら、そうなの? でもイズ君急に女の子に抱き付いちゃダメよ」
柚姉に優しく諭されてしまった。女の子が抱きつくのはいいのだろうか?
「大丈夫だよ柚姉。てか僕ってそんなに見境のない男に見える?」
「「えっ!?」」
僕の発言に今度は左右から驚きの声が上がる。左右? ちょっと待ってよ。何で左右なのさ。
「“えっ”って何さ、“えっ”って!」
僕ってそんな風に見られていたのか!? 何かとてつもなくショックなんだけど……。
「イズモさんって女の人だとずっと思ってました……」
「だって、出雲って女の子……」
「男だからね!?」
ロッタはいいとして咲妃さーん!! ちょっと待っておくんなんし! 君知り合ってから結構経つよね? 来るときの森の中でも男の子発言したよね!?
“見境がない”とかそんなのどうでもよくなる爆弾発言を聞かされて軽くパニックだ。
「陽輝と決闘した時僕『男の子』発言したよね!?」
「あの時は兄さんが吹っ飛ばされた事に驚いていたから……」
「じゃ宿で女物を薦めてきたのは……」
「出雲なら似合うと思ったから……」
「柚姉がずっと『イズ君』って呼んでたよね!?」
「でも愛莉歌は『イズ姉ぇ』って呼んでたわ」
なんてこったい……。
僕はそのまま椅子から崩れ落ちる。今まで誤解をする人は絶えなかったけど、これほど長く誤解したままの人は初めてだ。
「あの~イズモさんは本当に……」
「イズ君は男の子よ」
「まぁ見た目じゃわからないと思うけど、正真正銘“男”よ」
ロッタには柚姉と愛莉歌がフォローしてくれていた。それにしても、ああこの心の傷はちょっとやそっとじゃ治らないぞ……。
「そっか……じゃ私は正常だったんだ……」
そんな咲妃の声が聞こえたような気がするけど、僕を女の子と思っていた事を正常だと思わないで欲しいよ。
何とかダメージから立ち直るとロッタと咲妃に改めて僕が男だという事と店先で愛莉歌に抱きついていた事は誤解だという事を詳しく説明した。
愛莉歌の事は誤解だとわかってもらえたが、僕が男だという事は何故か半信半疑だった。何故だ。
誤解を解いたりとしていたら大分遅い時間になってしまった。
武器の調査などは明日にして今日は眠る事になったのだが、ここで新たな問題が発生した。そう寝る場所だ。
当初は僕が寝かされていた客間に全員で寝るつもりだったのだが、僕が男だとわかった為一緒の部屋に寝るのはどうなのかと言う事になったのだ。アルス・テルスで一緒の部屋どころか同じベッドで寝たんだけどな? そこはいいのか?
「ん~でも困りました。大部分がお店と鍛冶場なので生活スペースが少ないんですよ。この家」
ロッタが言うように平屋建てのこの家半分以上がお店と鍛冶場になっている。その他の部屋と言えばロッタの部屋とオヤジさんであるミランの部屋。後は台所と客間と食事をした居間くらいか。
「僕は別に居間でもいいよ。寝れればどこでもいいし」
「ダメよ、休める時にしっかりと休まないと」
僕は居間で一人で寝る事を提案したのだが、柚姉が却下した。椅子などを片付ければ僕一人分くらい寝るスペースはあるのだけどな。
「私は別に一緒でもいいわよ」
「私も。小さい頃は一緒に寝ていたものね~」
愛莉歌と柚姉は一緒に寝る事はいいようだ。と言うか柚姉よ、ベッドで寝る時に言ったと思うけど二十歳過ぎてから一緒に寝る事をもう少し理解した方がいいと思うよ。いや、手を出すとかそう言う事じゃないくてね。
「それじゃサキちゃんはロッタちゃんの部屋に泊めてもらうのがいいかしら?」
柚姉が解決案を出す。
まぁそれが一番いい案だろう。本当は僕が一人で寝ればいいのだが、柚姉が許してくれないし。まぁ柚姉と愛莉歌なら幼馴染だし。
「わ、私も出雲と一緒に寝る!!」
咲妃が戦闘に参加した。どうした咲妃! 何が起きたんだい?
同じ部屋で寝ることを決意した咲妃の意志は固く、柚姉や愛莉歌が話しても主張を変えることはしなかった。一体何がここまで彼女を頑なにしているのだろう。
結局僕達パーティ全員が同じ部屋で寝ることになった。これまでの騒ぎは一体なんだったのだろう?
「そもそも誰が言い出したのよ」
「さぁ? まぁでもいいじゃない」
布団を敷きながら愛莉歌が呟いてくる。
それにしてもテーブルがあるのにベッドじゃ無くて布団とは、和洋折衷な家である。
寝る場所は入り口に近い方から僕、柚姉、愛莉歌、咲妃の順番になった。なんか女の子同士の激しい攻防が繰り広げられたそうだが、僕には関係の無い事である。
★☆★☆★☆★☆
翌朝、僕は肌寒さを感じて目が覚めた。夏が終わり秋口に入った為かもしれない。
部屋を見渡せばまだ全員寝ているようなので、先に顔を洗いに行こう。
昨日ロッタに教えてもらった洗面所のドアを開けると、目の前いっぱいに肌色が飛び込んで来た。
適度に括れた腰は少女から大人の仲間入りをし始めた証だろう。腰からスラッと伸びる足は力強い印象を与えてくれる。
腰から目線を上げれば、そこには丸みをおび美味しそうに育った果実が二つ……男性なら誰でも釘付けになるだろう。そして先端部には未だ穢れを知らない桃色の頂が……うむ、絶景である!
更に目線を上げると驚きと羞恥に彩られたロッタの顔が……。
しまった~またやらかしたか……いや、まだ大丈夫のはずだ。ここでフォローをすれば!
「ロッタ」
「は、はい!」
ロッタの口からは強張り震えた声が漏れる。
まずい、目の前の少女は怖がっている。早くフォローしなければ。
「ロッタは今何歳なのかな?」
僕は出来るだけ優しい声を出したつもりだ。しかし、彼女の顔には更に困惑の色が濃くなった。
「あ、え~と十八歳です……」
それでもちゃんと答えてくれる辺り、いい子なんだぁ。
「そうか、愛莉歌と同い歳か……」
「あ、そうなんですか……」
彼女を背負った時から気付いていたのだが、やはり彼女の方が大きいようだ。残念だが愛莉歌よ、君の勝ち目は消えたようだ。
「うん、とても綺麗な体でし……」
「言いたいことはそれだけ?」
その時僕の後ろから愛莉歌の声が……。
あ~僕はまた過ちを犯したのか……それにしても何故だろう。震えと汗が止まらないや……。
「ロッタ、僕はもうすぐ逝くだろう……最後に君に伝えたい事がある……。
今後の成長に期待! 八五t……」
「死になさい! この変態!!」
直後脇腹を焼くような痛みが襲い、僕体は廊下の端まで吹っ飛ばされた。正直サルの矛をくらった時より痛い!
僕はゆっくりと歩いてくる愛莉歌の足音を聞きながら闇に落ちていった。
「ハックチ」
目を覚ますと何故か廊下の片隅に寝転んでいた。おかしいな? 確かに布団で寝ていたはずなんだけど……それに左の脇腹と後頭部がズキズキと痛む……。
「イズ姉ぇ風邪ひくよ」
「あ、愛莉歌おはよう。ん~確かに布団で寝てたと思ったんだけどなぁ……」
居間の方から歩いて来た愛莉歌に挨拶をする。とりあえずいつまでも廊下で寝転んでいる訳にもいかないのでのそのそと立ち会がり居間を目指して歩いて行く。
居間には柚姉と咲妃、それにロッタの姿があった。僕は皆に挨拶をすると、怪我を診てもらうために柚姉に近付いて行った。
「柚姉ちょっと診てほしいんだ」
「どうしたの? また怪我でもしたの?」
柚姉は布団を畳む作業を途中で止めこちらを振り向いてくれる。僕は早速痛む左の脇腹と後頭部を診てもらった。柚姉は後頭部にヒールをかけてくれるが、脇腹はちょっと見ただけで終わってしまった。
「柚姉、脇腹も痛いんだけど……」
「それは授業料ね」
何の授業料だ? 体を張る様な事をしただろうか?
「まぁ出雲の事は置いといて朝ごはんにしようか」
咲妃までどこか冷たい……僕は廊下で何かやったのだろうか……。ダメだ、思い出そうとすると後頭部が痛む。
「それじゃ準備してきますね。あっ」
ロッタと目が合うと光速で逸らされた。なんでだ!? 僕はそんなに嫌われる事をしたのか!?
「イズ君……」
「出雲……」
柚姉と咲妃からの冷たい視線が突き刺さる。
僕は本当に何をしたんだ!?
その後味のしない朝食を食べると僕は逃げるように工房へ移動した。この世界に来て味のしない朝食は二回目だ。
気を取り直して昨日回収した武器の鑑定をする。
攻撃力も守備力も普通。注目する部分と言えば耐久度が低いくらいか。
「典型的な店売りか」
「ミセウリってなんです?」
思わず呟いた言葉に後ろから反応がある。振り返ると飲み物を片手に持ったロッタの姿が目に入った。
「やぁロッタ。店売りって言うのはそのままの意味だよ。店で売っている武器の事」
「でもその武器は昨日の人達が使っていたものですよね。なら向こうの鍛冶師が作ったものなんじゃ?」
飲み物を手渡してくれたロッタは僕の隣に座りサルが使っていた矛の柄を手に取った。
「そうだね。基本的にはどの武器も鍛冶師が作るものなんだけど、実は冒険者の中だと区別しているだ」
武器の性能は作った鍛冶師のレベルによって左右される。当然高レベルの鍛冶師の方がより高い性能を持つ武器が作れる。
冒険者が自分で露店を開き自分で売るのなら問題はないのだが、お店で売るのにはこれだと問題がある。同じ値段で売るのに性能に差が出れば客は納得しないだろう。では値段に差をつけて売ればいいのではと言う人がいると思うが、それだと安い武器は何時までも売れ残る。命を預けるものなので多少高くてもいいものを選びたいだろう。
そこで店では平均的な武器を取り扱っているのである。これなら同じ値段で同じ性能の武器を供給することができる。
平均的な武器の作り方は簡単で一定レベルの職人をそろえるだけである。作っていれば職人のレベルは上がるが、職人の方で意識すれば性能はそろえられるので問題は無い。
「そこから平均的な性能の武器を店売りって言うんだよ」
「イズモさん詳しいですね。……武器の鑑定も出来るみたいだし、もしかして職人だったりして」
ロッタは笑いながら聞いて来た。よかった、朝の変な態度は治まったようだ。
僕は安堵しながらギルドカードをロッタに見せた。ギルドカードには名前とレベルの他に職業が記載されているからだ。
「これってイズモさんのギルドカードですよね……え?」
「実は職人側の人間だったのです」
ロッタは僕のギルドカードを見た姿勢のまま固まっている。サブ職の“工匠”が通用するか不安だったけど、この態度を見るとどうやら知っているようだ。動かないので別の意味で心配になってきたけど。
「あの……ロッタさん?」
「…………」
不安になって声を掛けるが返事が返ってこない。
「お~いロッタさ~ん? ……おっぱい触っちゃうぞ?」
歳下の女の子に行っていいセリフじゃないな。と思いながらも右手はゆっくりとロッタに近付いて行く。
「イズモさん!!」
あと少しで指が触れると言う所でロッタが急に動き出した。
「ひゃい! ごめんなさいごめんなさい!!」
「私を弟子にしてください!!」
「ふえ?」
僕の口からは気の抜けた声しか出なかった。
出雲:レベル17 職業:剣士 サブ:工匠
装備:布の服・革の胸当て・革のブーツ・ククリナイフ【ソールイーター】・脇差
愛莉歌:レベル17 職業:武闘家 サブ:狂戦士
装備:俊足の道着・甲冑靴・鋼鉄のフィスト
柚葵:レベル15 職業:聖職者 サブ:???
装備:癒しのローブ・革の靴・ロッド
咲妃:レベル15:職業:魔法使い サブ:???
装備:ローブ・革の靴・ロッド(出雲カスタム)




